茨城県北クリエイティブプロジェクト

里山ホテル 堀田誉さん 藤野龍一さん / 茨城県北の里山から新しい価値を作る

里山とは、一般的に人間が手を入れて利活用しながらも生態系が維持された農山村を言うそうです。里山と人間活動の関わりは、古くは縄文時代から始まり、1950年代~70年代のエネルギー革命まで、人の暮らしの源として常に重宝され、活用されてきました。しかし、私たちの暮らしを振り返ってみると理解出来るように、近年では暮らしの中で里山と関わる必然性が薄れてきています。ただ、エネルギー革命以前の暮らしを体験している私たちの祖父や祖母の世代に話しを聞くと、里山と関わりながら送る暮らしに当たり前の感覚を持っていることに気づきます。そのことを考えてみると、ちょうど里山との関わり方の分岐点に私たち世代が立っていることが分かります。

さて、前置きが長くなりました。今回茨城県北のキーマンとしてインタビューさせて頂いたのは、常陸太田市にある里山ホテルときわ路の堀田誉さんと藤野龍一さんです。里山ホテルは、「里山体験を通じて家族の絆が深まるホテル」をコンセプトに掲げ、体験や宿泊を通じて、茨城県北地域に生きる「人」とその「暮らし」の魅力を伝えるホテルです。


敷地に入ると、この看板が出迎えてくれます。


1階にあるラウンジスペースでインタビューはスタート。天井が高くて開放的な場所はアイディアが生まれやすい気がします。

里山ホテルとしてのスタート

以前は国民年金健康保養センターときわ路として運営されていたこの場所。事業整理で空きホテルとなった後、現在の運営会社が買い取り、東日本大震災の復旧工事とともに現在の里山ホテルとして生まれ変わったのが2013年。2年後の2015年度から堀田さん藤野さんが現場の責任者を務める体制がスタートしました。

(堀田さん)
私は前職では成田空港に勤めていまして、そこで地域共生策に関わったり、総務や財務などの管理部門を経験したりしました。役割分担で言うと、藤野はマーケティングなどの攻めの役でして、私は総務などの守り役という感じです。2011年の東日本大震災の時に、地元である茨城が地震と原発問題で疲弊しているのを目の当たりにして、知人を介して里山ホテル事業に合流しました。そのまま成田空港に勤めていれば、それはそれで安定した人生だったと思うのですが…(笑)

(藤野さん)
もともと里山に興味があったんです。暮らすという意味でも。前職では、星野リゾートでマーケティングを担当させて頂いておりましたので、その経験を活かしながら自らが里山に関わって挑戦が出来たらなという思いで入社しました。

お二人にお会いしてすぐに感じたのが、”生きる”と”働く”が繋がっているんだなということです。自分達が関わる世界に可能性があることを活力源にされている雰囲気が伝わってきます。


最上階にある里山の美しい自然が270度楽しめる”つきのおへや”

 スタッフとしてヤギの”モカ”と”ラッキー”が敷地内で優雅にお仕事されています

 スタッフの方が装飾された素敵な農園資材小屋も

オリジナルで開発されたマッシュルームキャンプ

素敵なコンセプトがある特別室に加え、中庭には菜園とバーベキューガーデン、グランピングテント、従業員として働くヤギまでいるという里山ホテル。どこかリゾート型のホテルとは違う趣向が随所に感じられます。

ホテルの概念を変えざるをえない

以前は保養センターだったホテルをリノベーションした、里山ホテル。館内を案内して頂くと、保養センターとして営業されていた当時の空気感を漂わせる大広間や会議室なども残されています。

大広間から望む里山の緑

ノスタルジックな雰囲気を残すテニスコートも

(堀田さん)
そもそも、この施設自体がバブル期に建てられたこともあり、客室は建物の中の半分しか占めておらず、残りの半分は会議室などのスペースなんです。ですので、純粋に宿としての事業だけでは十分に設備を活かしきれないという点があって。地域の方々の活動の場としてだったり、シェアオフィスなどで活用出来ないかなと模索しているところなんです。

(藤野さん)
そもそも観光需要がないところにホテルがあるというのが、あまり考えられないですよね。以前は国の保養施設だったので、有名観光地でなくても良かったわけですけど。なので、いくら施設だけを整えたところで、ご利用頂くお客様は自然には増えないんです。ハードだけをリノベーションするのではなく、ソフトのイノベーションを考える必要があるなと。ホテルの概念自体を変えざるをえないのが、この里山ホテルが置かれている立場でもあり、強みなのかなと思いました。

地域の人の顔を前面に出したサービス

里山ホテルのホームページを覗くと、体験や宿泊を通じて、茨城県北地域に生きる「人」とその「暮らし」の魅力を伝えるメディウム(媒介)です。とあります。お客さんに非日常を体験してもらう意味では従来型のホテルと同じかもしれませんが、その非日常をフィクション的に作り上げるものではなく、既にこの地域にあるノンフィクションな日常をお客さんに”異”日常として体験してもらおうとしている点が、里山ホテルのサービスの根本にあるのかなと感じます。攻める係の藤野さんを中心に、これまで里山ホテル独自の魅力づくり、商品づくりを試行錯誤しながら行ってきました。

(藤野さん)
地域の方の顔が前面に出せれば、この地域らしい魅力が伝わるかなと思ったんです。それで、里山ホテルのスタッフがそもそも地域の方々ですので、そのスタッフをまずは地域の魅力として発信していこうと。それで出来た最初の商品が、プライベートで星空案内人の資格を取ってしまうほど星が好きなスタッフによる星空ツアーでした。お客様にその日一番に見て頂きたい星座や星をセレクトし、星座の成り立ちや観測ポイントなんかを里山の澄んだ空気の中でお伝えするものです。

里山ホテルHPより写真は抜粋


他にもクラフトが得意なスタッフが、ワークショップや館内の装飾を担当。

ホテルが宿泊者だけのものではなく、地域コミュニティのハブスペースとして日常的に活用されて、それが宿泊される地域外のお客様にも体験として循環するようなホテルの在り方が理想ですね、とお二人は言います。

ホテルの裏に眠る魅力の宝庫

里山ホテルの裏には、自然豊かな森が広がっています。蛍が生息する小川やアサザの花がひしめくため池など、まさにホテルの裏に眠る魅力の宝庫といったところ。実はここ、常陸太田市が管理する『ふるさとの森』という自然公園。しかし、現在は活用される機会が少なく地元の方にもあまり知られていないような状況だそう。そこで、里山ホテルの次の展開として、森と人、人と里、人と人を繋ぐ「との森」としてこの森を再活用しようと企画されているとのこと。

(藤野さん)
まず、今年の秋6つのテーマが違うモニターツアーを実施します。その中で、参加して下さった皆様の反応を伺いながら、この場所の活用方法を中長期的に考えていきたいと考えています。もちろん、遠方からこられる里山ホテルの宿泊のお客様だけでなく、地域の方も憩えるような素敵な森にしていけたらと考えています。

常陸太田市の里美地区で活動するmalsaのメンバーと展開するプレイパーク作りのフライヤーがこちら

その他にも、以前インタビューさせて頂きました、カヌーやカヤックなどの水辺のアクティビティを提供するStormFieldGuideの山本さんと一緒に池冒険ツアーや最小限の道具を用い自然の中で過ごすブッシュクラフトを体験するプログラムがあったりと盛りだくさんです。詳細はコチラより

里山ホテルの活動やサービス、堀田さん藤野さんのお話しを聞いてみて、冒頭を振り返ってみると、私たちの暮らしにとっての里山の必然性というのが薄れている現代で里山ホテルの存在は新しい関係性を私たちに見せてくれるのかもしれません。人々の日常にあった里山の存在が日常を離れ孤立したのが今の状態で、それを”異”日常としてまずは楽しみ、そこでもう一度日常、暮らしの中での関わり方を考えてみる。そういう機会が里山ホテルの提供する里山体験なのかなとも思います。レジャーや癒しを求めにホテルに行くのではなく、大切なものを探しに行くホテル。今後の展開が益々楽しみです。

\ お知らせ /

また、日本仕事百貨とこれからの働き方を考えるコラボツアーがこの秋に開催されます。1日目に常陸太田市を巡り、里山ホテルに宿泊。2日目には大子町を巡ります。働き方を考えるワークショップを実施しながら県北地域でその可能性を参加者の皆さんと一緒に発見していきます。詳細は日本仕事百貨のコチラのページより。

 

里山ホテル ときわ路
住所 / 〒313-0008 茨城県常陸太田市増井町1800
電話 / 0294-72-4141
HP / http://satoyama-hotel.com

 

文・写真 / 山根 シン

山根 シン
映像作家 / ヒトモノコト編集家 1985年生まれ 神奈川県鎌倉市在住
大学卒業後、広告代理店兼出版社にて移住ライフスタイルをテーマにした雑誌の立ち上げに参加。その後千葉県九十九里に移住し、2014年フリーランスとして活動開始。ドキュメンタリー手法の実写をベースとした映像制作、ヒトモノコトを繋げるコンテンツ編集制作を行う。茨城県北クリエイティブプロジェクトでは、2017年4月よりウェブメディアのディレクターを務める。
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