茨城県北クリエイティブプロジェクト

志お屋 井上和裕さん / 老舗呉服屋が90年歩んできた、シティじゃなくてタウンのはなし

本物はいつまでも新しい!日立市常陸多賀商店街で昭和2年より3代にわたり呉服屋を営まれている『志お屋』さんのホームページを覗くと、そう書かれています。志お屋3代目社長の井上和裕さんのインタビューを終え、録音した井上社長のお話しを聞きながら、その言葉についてじっくり考えてみると、あぁなるほどな、と腑に落ちる教訓が浮かんできました。それは、単発的短絡的な物事の考え方をするのでなく、時代を跨いで長期的に通用するまなざしを持つこと。地域に根付いて約90年。この地で商売をされる人生の先輩の歩みは、僕らにとって非常に学ぶことが多いように思えます。「石にかじりついてでも100年目を迎えようと思ってます。」井上社長、かじり方教えて下さい!


▼1階が呉服店、2階が貸し衣装サロンになっています。シェアオフィスかどや、シェアオフィスひたちたが からも歩いてすぐの場所にあります。

“呉服屋”について

先日、お母様から引き継がれた着物をお召しになりたいのだけど、汚れがあるということでご相談頂いたんです。他の着物屋さんに持って行って相談されたようなんですけど、この汚れは結構な金額をかけて落としてもきれいに汚れを落とせるかどうか保証出来ないと言われたので…お困りだったんですね。でも、当店は着物を昔から取り扱ってる呉服屋ですから、専門知識や経験も豊富ですのでお預かりして京都の職人さんにお願いして、汚れを落とし褪せた柄を描き直すということも出来るんですね。そこにお母様の着物を引き継いだ娘さんのご希望(今の時代のコーディネイトにすることなど)も反映させることが出来るのもいいことで。そもそも、着物は染め替えることが出来るものですから。染めた反物(丸物の着物)が店先に積んであるというのは都会的な光景でね。昔(昭和40年頃まで)は、お客様に白い絹生地を買って頂いて、それをどのように染織していくかをお聞きして誂えるというのが呉服屋の仕事だったんですね。


▼昭和40年頃のお店の様子

大変お恥ずかしながら、知りませんでした。。着物って染め替えることが出来るんですね。ただし、それは本来の着物の場合のみ。今はインクジェットプリントのものが増えているようで、そういうことを知らない世代も増えているとのこと。(はい、どうやらそのようです。)さらに井上社長は呉服屋が果たす役割について、こう仰ります。

昔はね、呉服屋さんに行くと色々なことを教えてもらったんです。着物は自分を表現する装いばかりではなくて何かや誰かのために着るというのも多いですよね。例えば、ご友人にお花の絵を描く方がいたとするでしょう、その方の展示会があってお呼ばれして出向く際に、折角なので着物を着て花を添えてあげようかしら、なんて思うとする。でも、その時は大胆な花柄の着物は着て行かないというのが大切なんですね。そういう感覚だったりも呉服屋さんに教えてもらったりしてたんです。おかげさまで、90年以上この土地で同じ商売をさせてもらっているものですから、地域の慣習やしきたりなんかも時代を経て見てきてね、そういうことも、特に若い方に伝えることが出来るお店でいたいなと思っています。


▼着物だけの縦割りの商品ラインナップでなく、和物業界全般を広く扱うという井上社長独自の視点がお店を作っています

シティじゃなくて、タウンのこと

お店に入ってすぐ入り口近くに、オリジナルの常陸多賀ロゴが大きく入った商品が置いてあります。常陸多賀マークプロジェクト。この取り組み、このオリジナルロゴを使用して、志お屋さんはじめ商店街の皆さんが各々の業態を生かしたオリジナル商品や販促物を制作して地域の活性化を図るもの。何より、そのオリジナル商品のバリエーションに驚かされます。それほど、商店街が一体となっているからでしょうか。


▼志お屋さんで作っている、巾着スマホケース

昭和の雰囲気が残っている昔ながらの商店街ですけどね、だからと言って外物を排除するような雰囲気は常陸多賀にはないですよ。何かやろうとした時の一体感はあると思います。だからそういう、この土地の個性って日立市の中でも固有のものなんですよね。だからシティじゃなくて、タウンのこと。そういう独自性や歴史を大事にして、発信していきたいなと思っています。お店のことにも通じることですが、僕は繋げるとか継承していくということに対しての気持ちは、すごく強いんですね。


▼志お屋さんから徒歩1分の常陸多賀タウン地元で人気のひかり食堂のまぜそばは絶品(ですが、にんにくに要注意です!)

やはり僕らの視点に立ってみても地域の面白がり方って、井上社長が仰るようにとことんタウン的ローカル的なものなんだろうと思います。行政区分での特徴と言っても、どこか実感がないのは否めず、顔が見える範囲から顔が見える範囲の濃ゆい個性と担い手に出逢っていくのが醍醐味なんだと思います。

街の絵を描きたい

過去についてもそうだし、もちろん未来もだけれども、僕は街の絵を描きたいと思ってるんです。

インタビューの後半にそう仰った井上社長。街の絵を描く。もちろん、街を写生する意味ではありません。過去この常陸多賀というタウンにどういう歴史があったかを共有し、未来にどういうビジョンを掲げていくのか。3代にわたり90年もこの街と歩んできたからこそ、担える役割があるのだろうと思います。


▼常陸多賀商店街にあるシェアオフィスひたちたがの屋上から街を見下ろす

でも、いくら一体感のある常陸多賀でも、やっぱり世代間とかで繋がってないなと感じることはまだまだあって。まだ点の状態が多いと思うですよね。シェアオフィスに入居されている若い方々なんかともっと地域が繋がって、盛り上がっていけば良いなと思うので、その繋ぎ役を僕なんかが担えたらなと思いますね。

何か地域に拠点を持って仕事なり、プロジェクトなりを考えた時、そこのローカルの小さな歴史(世界史や日本史と比べると)というのは、実はとても大事なことのように思えます。そのローカルの風習や慣習が生み出す営み、文化。地域に関わって生きていくためのヒントはそんな小さな歴史を紐解くことで見えてくる気がします。東京や他の地域、ましてや外国の事例をそのまま移植しようとするのではなく、ここでしか生まれていこない価値を模索していく。社会も人も短期的な結果を急いでしまう現代に必要なことは、ここでしか生まれないことを見つめ直すこと。長い目で考えて行動していくということ。

志お屋
住所 / 〒316-0013 茨城県日立市千石町1-11-18
電話 / 0294-37-0408
HP / http://www.e-shioya.com

文・写真 / 山根 晋

山根 晋
映像作家 / ヒトモノコト編集家 1985年生まれ 神奈川県鎌倉市在住
大学卒業後、広告代理店兼出版社にて移住ライフスタイルをテーマにした雑誌の立ち上げに参加。その後千葉県九十九里に移住し、2014年フリーランスとして活動開始。ドキュメンタリー手法の実写をベースとした映像制作、ヒトモノコトを繋げるコンテンツ編集制作を行う。茨城県北クリエイティブプロジェクトでは、2017年4月よりウェブメディアのディレクターを務める。
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