茨城県北クリエイティブプロジェクト

2.5拠点デザイナー大内智子さん / 大子町での1日に密着して気づいた3つの視点

昨年の茨城県北ビジネスコンペティションのファイナリストに選出されたことをきっかけに、大子町を中心に茨城県北内で活躍中のフリーランスデザイナーの大内智子さん。現在、お住まいは神奈川県の川崎市。ご実家がある水戸に月に数回滞在し、そこからシェアオフィスdaigofrontを拠点に大子町にも通われるという2.5拠点ワークスタイルを実践されています。ここ1年でイベントのフライヤー等を中心に、気がつけば大内さんがデザインされたものを茨城県北エリアで拝見する機会が増えてきたように思います。そして、そのどれもが大内さんのセンスがキラリと光るもの。洗練されたポップさをデザインを通じて地域に付与出来る人なんだなと感じています。そんな大内さんが大子町に行かれるタイミングで1日密着の取材をさせて頂きました。そこから気付かされたのは、大内さんの地域に関わる姿勢の気持ち良さ。3つの視点にまとめてお伝えします。

大内智子さん
茨城県の海沿い生まれ。 東洋美術学校グラフィックデザイン科卒。 都内のデザイン事務所でエディトリアルデザイン・グラフィックを経験したのちWeb制作会社を経てフリーランスに。現在は都内と茨城の2拠点でデザインの仕事をしがなら行き来している。現代アートや茨城の工芸品、ヒト・モノ・コト全般に興味しんしん。

1 / 伝統産業は自ら体験する

▼漆の魅力を伝える活動をする、NPO法人麗潤館

「午前中は漆の体験教室に行くんですけど、プライベートなのに一緒に来てもらって大丈夫ですか?」

事前に大内さんとのメッセージのやり取りで、同行させて頂く1日の予定をお聞きしたら、こんな返信が返ってきました。もちろんです!と返事をして、なんだか取材の写真映えやらを想定して、予定を組んで頂いたみたいで申し訳ないな…と思っていたら。

実は、本当にプライベートで定期的に通っているそうで、今日で4回目くらいかな…?ということ。慣れた様子で制作中の漆器を棚からササッと取り出して作業を始められました。

▼同じ参加者の方とも、どんどん談笑する大内さん▼NPO法人麗潤館が入るこの場所はもともと病院。”元手術室”で漆器制作の体験教室が行われています▼制作中の漆器

2時間程の体験教室なので、早々に撮影を終え、待合室で漆に関しての資料を眺めていると「ワハハ!わはは!」と大内さんの笑い声が奥の教室から聞こえてきます。何が楽しくてそんなに盛り上がっているのやら…(笑)すっかり参加者の方々と仲良くなって電話番号まで交換されたようです。

大子町は漆の産地として有名です。その「大子漆」は品質の高さが評価され、漆器工芸などに使用される機会が多いと言います。現在でも茨城県の大スターである、水戸黄門で知られる水戸藩2代藩主の水戸光圀が栽培を奨励したことでその歴史がはじまり、昭和30年代には採取量が日本一になりました。(現在は茨城県は全国採取量としては2位)大子町役場をはじめ、町内でもNPO法人麗潤館の他に、大子漆を活用してその価値を伝えていきたいという方々が精力的に活動されています。

つまりは、歴史がある産業の価値を(特に漆は海外ではJAPANと名称される程、日本人の暮らしに根深く関わりがあるもの)伝えたい、繋げたいと地域の方々は試行錯誤しているわけです。よそ者である大内さんが、それを自ら体験してみること。頭で分かったつもりにならないで、実際に自分で体感してみることはとても大事なことのように思います。なぜなら、地域にある伝統産業にはその地域が長い時間をかけて育んできた文化の空気が写されているから。それを実感として持つことは、地域によそ者が関わる上で、そして大内さんのようにその文化の空気をデザインとして形にする人には、とても大事な(そして、とても楽しい)プロセスのように思うのです。

そういった意味では、大内さんは恐らくそれを意識的に実行されているわけではないと思うのですが…(笑)「今が仕事をしていて、一番楽しいです。」そう言われる背景には、地域と関わるにあたってのご自分なりの体感や実感があるからではないでしょうか。

2 / 商店街の中で、好き!を見つける

「あの、めちゃくちゃ私が好きなパンが商店街のパン屋さんに売ってるんですけど、行っていいですか?」

漆の体験教室を終えた後、大内さんからこう誘われました。向かった先は、商店街の入り口です。

パン工房「サンローラン」は常陸大子駅のロータリーすぐ目の前にある町で人気のパン屋さん。店主の菊池さんとは、デザインの仕事を通じて繋がり、大子町に来るとかなりの確率でこちらに立ち寄るのだそう。

その中でも、大内さんが”めちゃくちゃ好きなパン”は『しゃも卵のバインミー』という惣菜パンのこと。

▼「これ、新作のパンなんです!」と誘われるがままに次々と買うパンが増えていく大内さん…▼お店の方にお願いして半分に切ってもらった『しゃも卵のバインミー』を頂きます。※バインミーとはベトナムのサンドイッチのこと

時間軸のある伝統産業的なものと違って、商店街にあるのは地域の現在。良くも悪くもそこに地域の今が写されているのだと思います。そういった意味では、大子町も(他の地域と同じく)以前に比べ、中心商店街の活気がなくなったと言わますが、それを逆手に新たな発想で盛り上げようという人達の今が写されているのも、この町の魅力の一つです。

ですから、その”地域の今”が出揃う商店街で自分のフィルターに引っかかるものを見つけるのは、自分なりの関わり方の柱を見つけることなのだと思います。地域に眠る資産に想いを馳せるのも大事ですが、いつだって地域の現在、今と関わっていくことから目を背けずに、そこに好き!や面白い!を発見していくことがポイント。そんなことを、大内さんの姿勢から気づかせてもらいました。

他にも、リンゴが名産の大子町のアップルパイを試してみたり、300円のやきそばしかメニューにないお店に行ってみたり(!)と、大内さんは常に自分の好きを大子町の商店街の中で見つけてみようとウキウキされていました。ちなみに、300円やきそばのお店は高倉といいます。ぜひ、みなさんも大子町に行かれた際は商店街の路地裏を探して、その暖簾をくぐってみて下さい。

 3 / わざわざ会って打ち合わせをする

▼藁の長期保存を目的とした”わらぼっち”のある景色が広がります

食べきれない程のパンを買い、大子町の中心商店街を後にします。次に向かったのは旧初原小学校。廃校になった校舎で作品を制作中の現代美術作家の上原耕生さんとの打ち合わせに向かいます。

上原耕生さんは商店街の通りに面した建物の外壁、複数ヶ所での作品展示をするSTREETBUGというアートプロジェクトを大子町で展開中です。

▼ノスタルジーを誘う木造校舎

▼制作中の作品が旧教室に並ぶ。コンクリートを酸化させ、錆びさせる手法

▼現代美術作家の上原耕生さん

▼手前に座るのは、このアートプロジェクトをサポートする大子町地域おこし協力隊の菊池サキさん

2016年に開催された茨城県北芸術祭をひとつのきっかけに、県北地域6市町ではアートを活用したまちづくりプロジェクトがそれぞれの地で生まれています。大子町もそれを積極的に試みています。そんな中、今回現代美術作家の上原さんが制作されているSTREETBUG。NPO法人まちの研究室の木村さんより紹介があり、大内さんはPRのツールとプロジェクトのアーカイブを残すための冊子作りをお手伝いすることになったそうです。

打ち合わせ中、とても熱心に大内さんが上原さんの話しを聞き、メモを取られているのが印象的でした。いやもちろんお仕事なので当然と言えば当然なのですが、話の一つ一つにちゃんと耳を傾けるというのは、我々なかなか出来てなかったりします。

それと、これは地域の仕事に限らずだと思いますが、打ち合わせというのは、いかに言葉以外のもので伝え合うか が大事だと思います。業界が同じだったり、仕事上での価値観が近い人同士の打ち合わせは、電話やメール、スカイプで十分なのかもしれません。しかし、状況や立場、価値観が違うもの同士では言葉だけでは足りないことが多いような気がするのです。

「やっぱり、会わないと分からないんですよね。」と大内さんも移動中に繰り返し言われていました。時間を手間を惜しんで、わざわざ会いに出掛けて話しにちゃんと耳を傾ける。本格的に茨城県北に関わり始めて1年という短い期間にも関わらず、大内さんがこの地域で多くのデザインのお仕事を手掛けてらっしゃる理由が分かった気がしました。

今回のインタビューはいつもと趣向を変えて、実際に茨城県北を舞台に活躍されているクリエイターの方に1日密着して、その気づきをシェアする形とさせて頂きました。徹頭徹尾、主観であることをお許し頂きながらも、大内さんの地域に関わる姿勢の気持ち良さを記事にしました。

最後に、わざわざ会うことを大事にされている大内さん。実は車の免許をお持ちでないそう…です。車移動が基本とされている県北地域でどう活動されているのでしょか。

「だいたい、打ち合わせ先の人に迎えに来てもらったり、誰かに便乗させてもらったり、今日もね、こうやって便乗させてもらえてるんで… みなさん、良い人なんですよね〜。」

4つめは、人たらしであれ

文・写真 / 山根晋

山根 晋

映像作家 / コンテンツ編集ディレクター

茨城県北クリエイティブプロジェクトでは、2017年4月よりウェブメディアのディレクターを務める。shinyamane.com

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