茨城県北クリエイティブプロジェクト

「働き方を考える会 奥茨城編」 &「自分の拠点を考えナイト」イベントレポート

地方で暮らし、クリエイティブに働くことは可能なのだろうか―――。

私たち「茨城県北クリエイティブプロジェクト」は、東京での働き方に疑問を持つひとに、自然豊かな“フロンティア”である「県北」というオルタナティブを提案するプロジェクトです。

ニューフロンティア「茨城県北エリア」に、これからの働き方の可能性を見つけるための「「働き方を考える視察ツアー」を10/28(土)〜10/29(日)と11/9(木)〜11/10(金)の2回にわたって開催しました。

▼日本仕事百貨とまわる「働き方を考える視察ツアー」レポート

視察ツアー後、茨城県では「茨城県北ビジネスプランコンペティション2017」のエントリーが開始。視察ツアーをきっかけに県北を知り、コンペに興味を持った何人かの参加者から応募がありました。去る2月10日には最終選考のコンペを開催。最優秀賞の細金寛子さんほか6名の受賞者が決定しました。

2月17日におなじみリトルトーキョーで開催された「働き方を考える会 奥茨城編」では、視察ツアーに参加され、かつコンペで審査を勝ち上がった二組からコンペの報告がありました。

この様子と併せて、今回は、その後に開催された「自分の拠点を考えナイト」と併せてレポートしたいと思います。

クリエイターと大子をつなぐシェアアトリエ&シェアハウス

韓国の伝統工芸である韓紙(ハンジ)を使った作品をつくる重富弓子さんとパートナーの本橋亜夫さんが企画したのは、都市に住むクリエイターが大子町に滞在しながら制作活動に専念できる、シェアアトリエ兼シェアハウス。

都内で工芸教室を主宰する重富さんは、自然のなかで創作ができるアトリエをほしいと考えていました。本橋さんもまた、ものづくりのための拠点を必要としていました。

ともに、大子町との接点どころか、存在を知る機会もなかったそうです。

なにげなく参加した視察ツアーで大子町を訪れたとき、自然が美しいこの街に強く惹かれるものがあったとのこと。人口減少が進み、あまり賑わいのないこの街でこそ、自分たちに何かできることがあるんじゃないか。そこで考えたのが、自分たちのようなものづくりをするクリエイターたちが集うシェアアトリエ兼シェアハウスを大子町につくり、そこを拠点として、滞在しながらプロダクトを生み出すというプランです。

重富弓子さん(中央)、本橋亜夫さん(右)

大子町は林業の町。豊富に産出される木材だけでなく、和紙の原料となる楮(こうぞ)や漆の産地でもあります。しかし、残念なことに大子町は原料の産地であるものの工芸品の産地ではないため、この街が歴史的に果たしてきた役割について知られる機会は限られていました。

重富さんと本橋さんは、この拠点が生産の場であると同時に、大子町の魅力を発信する基地になることも想定しています。

この街に来る人が気軽に立ち寄りたくなるギャラリーにしたい。そして、工芸品だけでなく、もっとハードルの低い日用品として使ってもらえるようなプロダクトをつくって大子町に興味を持ってもらえるような機会をつくりたいんです。

すでに物件調査を済ませ、商店街の一角に拠点をつくろうと、準備にとりかかっているとのこと。今後がとても楽しみです。

「知れば知るほど美味しく感じられる。それが凍みこんにゃくの魅力なんです」

二組目の報告者・上原あさみさんは、横浜市在住、都内のデザイン会社で働くエディトリアルデザイナーです。ふたりのお子さんを育てつつ、都市型のライフスタイルに難しさを感じていたそうです。

あるとき、日本仕事百貨の「働き方を考える視察ツアー」のことを知り、すぐさま申し込んで参加した上原さん。まったく縁がなかった茨城県北の空気を肌で感じ、徐々に惹かれていきます。ツアー後、改めて家族で大子町を訪れ、お土産物屋で目にしたのが「凍みこんにゃく」。もともと地域の珍しい食材を買ってきて自分で料理することが好きだったとのこと。日本でも指折りの地味な食材である凍みこんにゃくに魅力を感じた上原さんは、勢いそのままにビジネスコンペに参加しました。

プランは、凍みこんにゃくのストーリーを伝える新しいブランディングプロジェクト

そもそも凍みこんにゃくとは、水分を多く含んだこんにゃくを解凍と凍結を繰り返して水分を抜き仕上げに乾燥させたもの。生産者は日本でたった3軒しかない、希少食材です。

なにしろ生産には途方もない手間がかかります。

  1. 当然、最初はこんにゃくをつくる
  2. できたこんにゃくは薄くスライスし田んぼに藁を敷き詰めたうえに並べる
  3. 天気の様子を見ながら水やりをおこないつつ、凍結と解凍を繰り返すことで水分を抜き、乾燥させる。
  4. 陰干ししたあと、ヒモで縛り、両サイドをカットする。
  5. 再び乾燥させて完成。
    (参考:「茨城を食べよう」

クラクラするほど根気の要る作業です。この手間ひまを知っていれば1枚100円という価格にも頷けます。が、完成形の凍みこんにゃくを見ただけでこの苦労を推し量るのはとうてい難しい。

そこでデザイナーとして、上原さんは考えました。

この手間ひまを知ってもらうことで凍みこんにゃくはもっと美味しく感じられる。私自身がそうでした。なら、このストーリーとともに凍みこんにゃくをパッケージにして販売することができたら、もっとたくさんのひとに愛される食材になるんじゃないかと思ったんです。知れば知るほど美味しくなる。それが凍みこんにゃくの魅力だと思いました。

上原あさみさん

コンペではファイナリストとして登壇し、見事、奨励賞を受賞。すでに生産者との接点を持って動き出しています。現在勤めている会社は今年の5月に退職を予定しており、県北での活動を本格化するそうです。

「自分の拠点を考えナイト」

「働き方を考える会 奥茨城編」の終了後、引き続きこの会場では県北関連イベントにすすみました。このウェブマガジンでも以前ご紹介した、インクデザイン合同会社代表でデザイナーの鈴木潤さんを“バーテンダー”にお迎えし、東京と県北の二拠点居住を考えるためのイベント「自分の拠点を考えナイト」を開催しました。

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インクデザイン合同会社・代表の鈴木潤さん。

鈴木さんは県北の海側・日立市出身。大学進学を機に上京し、現在は墨田区でデザイナーとして活動されています。インクデザインは「会社をデザインする会社」をコンセプトに、会社案内、コーポレートサイトや上場企業のIR資料などのコーポレートツールに特化したデザインを受注しています。

鈴木さんは昨年2017年10月から、東京と日立の二拠点で生活を開始。シェアオフィス「ひたちたが」の一室を借りて、「クリエイティブ公民館 KAZAMIDORI」を開設。自身の仕事場として使用しつつ、無料で開放することもあります(2018年3月7日現在)。

日立にいるもうすぐ70歳になる親が歳をとって少しずつ元気がなくなってきたこともあって。でも、最初のきっかけは茨城県のウェブサイト(本ウェブサイト「茨城県北クリエイティブプロジェクト」)を偶然みたことなんです。しかも、シェアオフィスを整備していて、クリエイティブ企業を誘致したいという内容で。さらに、そのシェアオフィスが超地元だったんです。ドラクエスリーを買うために並んだおもちゃ屋のすぐ近くでね(笑)。運命を感じて問い合わせました。

毎週末を日立で過ごしているとのこと。そもそも日立でどのように仕事をしているのでしょうか。

地元でデザインの仕事をするというのは、“離島の町医者”みたいなものなんです。東京だと内科、外科、耳鼻科・・・と専門によって細分化されていますね。でも、離島だと医者ならとりあえず診てくれってことになります。この前は、パッケージのデザインをやってくれという依頼がありました。やったことはありませんでしたが、もちろん引き受けました。

とはいえ、東京と日立は特急を使用しても1時間半。往復3時間という時間とお金の移動コストを毎週かけるのは大変かもしれません。あえて地方で働くことのメリットはどのようなところにあるのでしょうか。

一番は、人との出会いですよね。東京ではプレイヤーが多いぶん、階層化されて、実は出会いの機会は限られている。でも、地方ではなんでもあり。東京では絶対に出会えないようなすごいひとと出会う機会が多いんです。例えていうなら、ドラゴンボールでフリーザが現れて、スカウターがぶっ壊れたみたいな(笑)。フリーザがいれば当然ギニュー特戦隊もいる。なんでこんなひとが茨城にいるの?って思いました。そういうひととのプロジェクトが面白いんです。

イベントの最後の挨拶のなかで鈴木さんは「県北で何かやりたいというひとはぜひ声をかけてください。一緒に何かやりましょう」と参加者に向けて言っていました。こういう言葉はふつう社交辞令として解釈され、字義通りに素直に受け取るひとはあまりいないものです。でも、鈴木さんは違うようです。KAZAMIDORIの開設からまだたった半年。そんな短期間のあいだに県北を本気で面白がっている彼の周りにはすでにたくさんの強者たちが集まっているのですから。

中岡祐介

株式会社三輪舎 代表取締役、編集者。1982年、茨城県ひたちなか市生まれ。県北との縁は、ほとんどの同級生が通う水戸を避けたかったために日立の高校に進学したことからはじまる。2014年、「暮らしのオルタナティブを発信する」をミッションに、出版社である株式会社三輪舎を設立。現在は横浜に拠点を置きつつ定期的に茨城に通っている。
三輪舎 3rinsha.co.jp

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