茨城県北クリエイティブプロジェクト

まるみつ旅館 武士能久さん / 人情旅館のアイディア経営

ホテル、旅館、ゲストハウス、またはキャンプ場まで。地域において、総合サービス業である宿泊業を営む元気な中小企業に共通して言えることは、アイディア豊富な経営者がいるということでしょうか。茨城県北の北茨城、その中でも福島県いわき市との県境を間近にした平潟地区にて、あんこうの宿まるみつ旅館を牽引する社長、武士能久(よしひさ)さんもその一人だと思います。今回はそんな武士さんが、まるみつ旅館、そして地域観光産業を盛り上げるために次々繰り出してきたアイディアの遍歴(の、一部)をお伺いしました。

▼あんこうの宿まるみつ旅館の3代目社長である武士能久さん。観光協会の理事としても、地元の観光業を引っ張る。

隠れた地域資源だった、あんこう

あんこうの宿 まるみつ旅館。あんこうと言えば、まるみつ旅館。いまや、県を跨いでそう認知されることが多くなってきたと言う、まるみつ旅館。はじまりは、昭和43年。海水浴ブーム真っ只中に、武士さんのお祖父さんが平潟地区で初の民宿を開業しました。地元で獲れた新鮮な磯料理を提供することで人気を博していたそうです。そして、夏場がピークの海水浴客層以外にも利用頂きたいと目を付けたのが”あんこう”でした。今でこそ高級品のあんこうですが、当時は余るほど獲れていたそう。港の仲買人をされていたお祖父さんが、その隠れた地域資源に目を付け、瞬く間に「あんこうが食べられる」旅館として全国的に評判となりました。

▼同じ市内にある大津漁港に比べ、こぢんまりとした良さがある平潟漁港

▼まるみつ旅館正面玄関

▼「あんこうなんて余る程だったんですから。」と武士さん、写真に写るのはお祖母さま

2014年に3代目社長として家業を引き継いだ武士さん。翌年には、お祖父さんが目を付けた隠れた地域資源である”あんこう”ビジネスを、次のレベルに押し上げるアイディアを実現させます。

「祖父や父の時代は、あんこうを美味しく食べてもらえればそれで良かった。ただ、6次化の今の時代の流れとかもあって、あんこうの価値をより深める必要があるなと思ったんですね。そこで、あんこうの新しい調理法や加工法を研究するための研究所を作ったんです。」

▼以前は魚の加工場であった場所を活用して、1階に調理と研究のラボ、2階にはレストランが入る

ここ、あんこう研究所から次々と新しい商品が生まれています。例えば、あんこうコロッケにあんこうのコラーゲンを活用したお風呂。あんこうアイスや、あんこうの骨を粉状にして肥料とするあんこうファーム(!?)まで。骨以外は捨てるところがないと言われているあんこう。けれど、本当に骨は捨てなければいけないのか?そんな武士社長の視点が新たな可能性を拓きます。

▼あんこうファームのとりくみ

食加工だけでなく、畑の肥料にまで展開するあんこうの活用アイディア。積極的に学生のインターンシップも受け入れ、若い発想をどんどん取り入れる。武士社長は自らアイディアをどんどん考えるし、人のアイディアもどんどん取り入れる。そんなアイディアが日々研究所で試作され、実現されている。こんな旅館はそうそうないです。

アイディアの館とも言える館内

武士社長は、何もあんこうアイディアの専門家ではありません。館内にも、お客さんに楽しんでもらうための工夫やアイディアが盛りだくさんに用意されています。もはやアイディアの館。右向けばアイディア、左向けばアイディア、です。

まずは滞在中楽しめる温泉、お風呂のバリエーション。なんと7種類。前述したコラーゲン入り露天風呂をはじめ、珍しい畳の内風呂、日本一深い螺旋階段式の立ち湯、「かじめ」という海藻入りのお風呂。滞在中何種類ものユニークなお風呂を味わえる楽しみは時間を忘れさせてくれます。まるみつ旅館のホームページでその詳細は紹介されていますので、ぜひご覧頂ければと思います。

▼あんこうコラーゲン入りの露天風呂

また、取材のため宿泊させて頂いたお部屋。こちらは、ファミリー向けに楽しんでもらいたいと地元の大工さんに作ってもらったアスレチックパークなお部屋。確かに、和風な部屋って子供からすると少し物足りない気持ちがあったかな…なんて思い出し、思わず童心に戻り一人こっそりとはしゃいでしまいました。

それと、個人的に面白いなぁと思ったアイディアを二つご紹介します。

まずはこちら。

館内の廊下の至る所(トイレにまで)にいばらき弁の板札が掲げられています。

プラスチックのことをプラチック…?本当!?それっとスが聞こえてないだけでなくて…!?

と、ここでも一人で盛り上がってしまいます。もちろん、仲間や家族と一緒の滞在であれば盛り上がること間違いありません。

そして、個人的な極みつけはこちら…!

深夜、喉が渇いたので館内の自動販売機に行くと。一見、普通の自動販売機…

なんと、手書きっ!!

スーパードライまで!!

もう、唖然としてしまいました。自動販売機で飲み物を買うことでさえ、退屈を許してくれないのが、まるみつ旅館なのです。館内には、まだまだ発見出来てないアイディアが隠されていそうです。

もちろん滞在中、とても美味しい磯料理と温泉やバリエーション豊富なお風呂を堪能させて頂いたのは言うまでもありません。しかし、それだけでなく、まるみつ旅館の担い手である武士さん、スタッフの皆さんがあの手この手でお客さんを楽しませようという気持ちが形を問わず随所に溢れていました。もちろん、某星野リゾートのような旅館に滞在することも素晴らしい経験なのですが、こうやってアイディアやサービスに人情がある旅館に滞在することも、同等に素晴らしい経験だと思いますし、リピーターのお客様が多いというのも、そんな人情味溢れたおもてなし精神やそこから生まれるアイディアがお客さんの記憶に残るからではないでしょうか。

平潟漁港、未知との遭遇体験

「ちょっとこれに乗って一周してみますか、気持ち良いんですよ。」

翌朝、平潟漁港を散歩でもしてみようかな、というところに、武士さんから魅力的なお誘いが。

昨年より、宿泊のお客さんが利用出来るように導入したという、こちらの乗り物に誘われるがまま乗り込みます。(ちょっと、ワクワクします)

こちら、可愛らしいミント色の四人乗り三輪駆動のカートです。

「この平潟地区、平潟漁港ってノスタルジックな雰囲気なんで、それをこの乗り物に乗ってお客さんにアトラクションのように楽しんでもらいたいなと思ったんです。これって、乗ると誰でも童心に戻ってワクワクするでしょ?その気持ちでもって、このエリアを巡ると新たな発見とかもあると思うんですよね。」

▼小さな隧道(ずいどう)を抜けるのもワクワクします。

 

▼半被を着た武士さんが自ら運転して、平潟漁港をご案内して下さいました。

▼クルージングしていると度々出会う、平潟漁港のノスタルジックな情景。この後、猫は跳び退き、おばあちゃん達は口をあんぐりさせていたのは言うまでもありません。

▼なんでもない小さな漁港が、何かに見えてくる体験。

いやこれは、素晴らしい発明かもしれない。武士さんのご案内で平潟地区を一周して戻ってくるとそう思いました。まず、理屈抜きでこのようなユニークな乗り物で公道を走れるワクワク。そのワクワクする気持ちを持ちつつ、平潟地区というフィールドを巡ることは、ある意味でお膳立てされたレジャーランドのアトラクションでは味わえない体験。一見、ノルタルジックではあるけれども、見過ごすことも出来そうなだった光景が、次々と未知との遭遇で溢れてくる体験。いやー、これは面白い!

アイディアを生むと言っても、

口先だけでは生まれない。

これもやはり熱心であること。

寝てもさめても一事に没頭するほどの熱心さから、

思いもかけぬ、よき知恵が授かる。

こう言ったのは、松下電器の創業者、松下幸之助です。私たちは、日々、アイディアを生んでいるでしょうか。アイディアに内包するリスクを引き受け、行動しているでしょうか。そのアイディアを少なくとも失敗するまでは、信じ切るほど熱くなっているでしょうか。そんな、メッセージが伝わってきます。今回、北茨城市のまるみつ旅館の3代目社長である武士さんに聞いたお話し、実際にまるみつ旅館に滞在して感じたことを、アイディアを切り口にして記事をまとめさせて頂きました。本当に自分の仕事に誇りを持ち、信じ、自分が育ってきた土地を大切にしていることが、武士さんの言葉というよりは、言葉と言葉の間から溢れてきたものを受け取らせてもらった気がしています。それは、寝てもさめても一事に没頭するほどの熱心さ。

まるみつ旅館
住所 / 〒319-1701 茨城県北茨城市平潟町235
電話 /0293-46-0569
HP / http://www.marumitsu-net.com

文 ・写真 / 山根 晋

山根 晋

映像作家 / コンテンツ編集ディレクター

茨城県北クリエイティブプロジェクトでは、2017年4月よりウェブメディアのディレクターを務める。shinyamane.com

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