茨城県北クリエイティブプロジェクト

「桃源郷芸術祭 2018 ―海のプリズム、秘境の地の芸術家たち」レポート(前編)|北茨城市

かつて岡倉天心が「東洋のバルビゾン」と称し、日本美術を世界へ発信した五浦の海。2018年3月、この地で新しい芸術祭がはじまりました。

こんにちは、日立市在住のライター、柴田です。
今回私は2018年3月14日(水)から18日(日)まで、北茨城市で開催された「桃源郷芸術祭」にお邪魔してきました。海と山に囲まれた自然の豊かなこの場所には、イベント名にもあるとおり「桃源郷」や「秘境」という言葉がよく似合います。芸術家にとってこの地はどのように映るのでしょうか。
今年が初開催となる桃源郷芸術祭の現地の様子や雰囲気を、前編・後編の2本立てでお楽しみください。

桃源郷芸術祭とは?

桃源郷芸術祭は、北茨城市地域おこし協力隊をはじめ、北茨城で活動する芸術家や、東京藝術大学に在籍する気鋭の新人芸術家たちの作品を集めた、アートの祭典です。

会場は「茨城県天心記念五浦美術館」や芸術活動拠点施設「ARIGATEE(ありがてえ)」、「ガラス工房シリカ」など7か所。海側と山側にどちらも楽しめるイベントです。

展示されている作品は陶芸・日本画・映像・ガラス・裂き織(※)など幅広く、中には地域住民と一緒に制作されたものや、滞在制作という形で作り上げたものまで。

さらに、会期中の土日にはガラス体験や五浦コヒー画(※)のワークショップが開催されました。

裂き織:使い古した布を細く裂いて織りこみ、衣服や生活用品へと再生する織物。
五浦コヒー:岡倉天心にちなんだ北茨城市・五浦地区のブランド品。茨城大学が株式会社サザコーヒーの協力を得て開発された。コヒーとはコーヒーのことで、天心直筆の手紙の表記に基づいている。

凛とした空気が桃源郷への道案内・茨城県天心記念五浦美術館

日立市の自宅から国道6号線を北上すること約45分、桃源郷芸術祭のメイン会場である茨城県天心記念五浦美術館に到着です。暦の上ではもう春ですが、まだまだ肌寒いこの季節。海辺ならではのからっとした風を受けながら、美術館の入口へと向かいます。

美術館が放つ独特な雰囲気に圧倒され、入口の前で一度足が止まってしまった、体育会系の私…。襟を正し、深呼吸をしてから中へ。

中に入ると、淡い色をした「桃源郷芸術祭」ののぼりが目に飛び込んできました。

スタンプラリーマップをいただき、優しい笑顔のスタッフさんにスタンプを押してもらいます。手を動かしながらも、「どちらからいらしたのですか?」「インクが服につかないように気をつけてくださいね」と柔らかな口調でコミュニケーションを図るスタッフさんの姿に、さっそく心温まりました。

こちらのスタンプは、3つ集めると大津港駅前観光案内所にて「北茨城のおみやげ」がもらえるのです。… 北茨城のおみやげってなんでしょう!?早く知りたい!

いよいよ展示室へ。凛とした空気が桃源郷への道案内をしてくれます。

ここには39名の作家さんの作品が展示されていました。

ここで展示されている作品は、日本画、陶芸、映像、立体、インスタレーション、ガラス、油彩画、裂き織、ポップアップアート、鋳金、写真、シルクスクリーン、コラージュ、彫刻、地域アート、根付彫刻(※)と多岐にわたります。

根付彫刻:江戸時代から続く彫刻芸術で、印籠や煙草入れなどを着物の帯に紐で吊るし持ち歩くときに用いた留め具。

まず目に入ってきたのがこちら。ご存知の方も多いことでしょう、北茨城市地域おこし協力隊であり、今回のイベントのコーディネーターを務める都築響子さんの作品、頭上建築『六角堂』です。とってもかわいらしいですね!

「よろしければ被ってみてください」とスタッフさんからご案内があり、そーっと頭に乗せて写真を撮っているお客さまの姿も見られました。もちろん私もそのうちのひとりです。

芸術祭の副題でもある「〜海のプリズム、秘境の地の芸術家たち〜」をテーマにした作品たち。

地元の作家:太田一樹さん『美しき珊瑚の守り神』 ポップアップアート

滞在制作:一ノ瀬健太さん『茶の家~海~』 ワークショップを行い地元住民とともに水墨画を制作

作品のわきにあるボードには、作家さんからのメッセージや想い、制作中のエピソードなどが綴られています。それらは見方を強制するのではなく、受け手の想像力をさらに掻き立ててくれるものでした。

うれしいことに、北茨城市にて滞在制作を行った、東京藝術大学の日本画家・三宅世梨菜さんと展示室内でお会いすることができました。

東京藝術大学大学院に籍を置く日本画家・三宅世梨菜さんとご自身の作品『立(りゅう)』

作品を制作するために初めて北茨城に来た三宅さんが描いたのは、「二ツ島(ふたつしま)」(※)。

私は1ヵ月ほど滞在させていただき、協力隊の都築さんや地域の方々にお世話になりながら制作を行いました。訪れるまでは津波のイメージが大きかったですね。市内を回りながら、復興が進んでいるところ、あったものが無くなってそのままのところ、影響を受けず変わらないままのところを実際に目にして…。地域の人から津波の楯になってくれたと敬拝されているこの島を描こうと思いました。

と三宅さん。彼女が目にした桃源郷、そのお話をもっと聞いていたいと思ったのでした。

※ 二ツ島:磯原海岸の沖合、海中からそびえ立つ大小2つの島。津波によってダメージを受け、当時の2/3ほどの大きさになった。(参照:北茨城市ウェブサイト

岡倉天心が移り住んだ場所、六角堂・天心邸。

作品に見とれ、予定していた時間を大幅に上回っていることに気づいた私は、急いで次の会場へ。

美術館から車でおよそ3分。有名な六角堂がある茨城大学五浦美術文化研究所に到着です。ここは岡倉天心の活動拠点となった場所。現在は茨城大学によって、六角堂やその他文化財の維持管理がされています。また、国の登録有形文化財にも指定されています。

入り口で入場券を購入し、中へと歩を進めます。すると、そこには強くも儚い世界が広がっていました。強烈なエネルギーを発しながらも、なにかの拍子でふっと消えてしまいそうな、そんな世界。

思索の場所として岡倉天心自らが設計したのがこの六角堂。太平洋にせり出した岩礁の上に建っています。

東日本大震災の津波で流失後、まもなく再建され、平成24年4月からは一般公開も行われているそう。

岡倉天心はじめ、この場所を訪れた芸術家たちは、ここで何を思うのだろうか。

緑に囲まれた天心邸。中では、金工の作品が展示されています。

また、会期中の土日はコヒー画ワークショップが行われるとのことで、かわいらしい屋台も見つけました。私たちが身近に口にするあのコーヒーを使って絵を描いてみようという、大人から子どもまで楽しめるイベントです。

コースターに描いたものを見せてもらいました。この地にきて感じたものを水墨画のように表現してみる…。まるで自分もアーティストになったような気持ちになれそうですね。

帰り際、スタンプラリーのスタンプを発見しました。これでようやく2つ目ゲットです。

次はここから徒歩3分の場所にある、五浦観光ホテル本館へと向かいます。

(後編へとつづく)

柴田美咲
ライター、フィットネスインストラクター。1990年、茨城県日立市生まれ。東京の体育大を卒業後、ふるさとのスポーツジムで働くためUターン。2015年よりフリーランスに転身し、フィットネスのレッスンやイベントを日立や大子で開催。また、大好きなふるさとの風景を未来につなぐため、「ひたちのまちあるき」、「まちキレイ隊」を企画・運営。2016年からはライター業に挑戦。大好きな旅について、沖縄や離島、海をテーマに執筆している(「タビヅタイ」にて連載中)。

Misaki Shibataのブログ

Topへ