茨城県北クリエイティブプロジェクト

凍みこんにゃくで、ビジネスコンペに挑む。|凍みこんにゃくをめぐる冒険 #02

茨城県北で得たものは、凍みこんにゃくとの出会いだけではありません。地元の方との出会いを通じて、地域はプレイヤーを求めている、という実感を得られたことが大きな収穫となりました。自分がやってみたいと思っていたことは夢物語ではなく、動けば本当に何か形にできるかもしれない。視界がぱぁっと開けたような気持ちでした。

では、ここから何をやろうか。すでに心を動かされつつあった凍みこんにゃくのパッケージの試作品を作って誰かに提案してみようか。りんごを使った商品を考えて誰かに提案してみようか。そんなことを考え続けながら県北地域の情報を検索していたとき、『茨城県北ビジネスプランコンペティション2017』の募集案内を目にしました。

このままひとりで考えているだけじゃ何も進まない。そう思っていたときでもあったので、とにかく踏み出すためのきっかけを作ろうとビジネスコンペに応募することを決めました。が、コンペの募集を見つけた時はすでに締切2日前。時間もなかったこともあり勢いのまま書類を提出。言うまでもなく、ここから迷走というべく紆余曲折の道程がはじまります。

凍みこんにゃくをスイーツにする

ビジネスコンペのテーマには凍みこんにゃくを選択。プランとして最初に考えたのは「凍みこんにゃくを使ったスイーツの商品開発」でした。凍みこんにゃくとスイーツを掛け合わせたのには3つ理由がありました。1つ目は、ビジネスプランだったらインパクトが必要だと思ったこと。2つ目は、味がなく食感に特徴のある凍みこんにゃくならスイーツにできる可能性があること。3つ目は、食材として売るより加工品として売るほうが消費者は手に取りやすく、かつ利益も生み出すことができる、と考えたからです。

また、我が家の凍みこんにゃくフィーバーの時に作ったドーナツがなかなかいい出来であったため、これは他にも展開できると考えていたことも後押ししました。このときはそれ以上深く考えることもせず、書類を提出しました。

凍みこんにゃくドーナツ

しばらくして書類審査通過の連絡が届き、喜びに浸りながらも、迫りくる2次プレゼン審査に向けての試行錯誤がはじまりました。

本格的に試作したスイーツは、凍みこんにゃくチョコレート。ドーナツやかりんとうも考えましたが、原価と売値を考えた時に商品として成立しにくい可能性がありました。またインパクトという点でも強さに欠けます。その点、凍みこんにゃくとチョコレートなら組み合わせのインパクトは大。味は「しみチョコ」のようになって美味しくなるのではないかと考えました。そんな理由から、チョコレート一択に絞ったのです。

しかし、試作すれども試作すれども、凍みこんにゃくチョコレートが美味しくないのです。どうやっても、口の中でチョコレートが先に溶け、味のない凍みこんにゃくがモゴモゴと口の中に残ってしまいます。改善に向けて考えつく方法は試し続けます。凍みこんにゃくをレモンシロップに浸して味をつけてみる。フリーズドライのいちごを混ぜてみる。チョコレートの種類を変えてみる。調理の仕方を変えてみる…。しかし、いっこうに美味しくなる気配がありません。しまいには凍みこんにゃくが好きなはずの子どもから「美味しくないから食べたくない」と言われる始末です。このときすでにプレゼン数日前。今さら他のスイーツに変えることもできません。時間をかければスイーツとしての商品開発は可能であるとしても、短時間で商品の質を高めていくのは非常に難しいということがわかりました。

失敗を重ねた試作品。凍みこんにゃく生チョコレート

いちごのせ凍みこんにゃくチョコレート

作るべきものは何なのか

このまま凍みこんにゃくのスイーツに固執すると失敗する…。そんな悩みが渦巻く中、夫から「凍みこんにゃくの何がいいと思ったのか原点に戻ったほうがいいのでは」というアドバイスをもらいました。そこで自分が感動した原点を振り返ります。私が感動したのは、美しさ、美味しさ、できるまでのストーリー…。この時初めて、作るべきは自分が感動したことを人に共感してもらえるような商品だと気がつきました。

しかしここからが安易でした。だったら美味しいと思う凍みこんにゃくの料理を食べてもらえるようにしよう!と思った私。スイーツではなくお弁当にすればいいと考え、プランを「凍みこんにゃくを使ったお弁当の商品開発」に変更しました。

その結果、2次プレゼンでは審査員の方から「お弁当というのが普通すぎる」「スイーツのほうが良かった」という図星すぎるご意見をいただくこととなりました。ただ、ありがたいことに「プレゼンは良かった。試作してみてダメだということに気がついて方向転換をしたことも良かった。もっとデザイナーという職種を活かしてみては」というアドバイスをいただき、辛うじて最終プレゼンに進めることになったのです。

凍みこんにゃくのかき揚げ弁当

とはいえ、この時点でスイーツもダメ、お弁当もダメ。最初に軸とした加工品を作るプランは崩れ去り、いったいどうビジネスプランを作って最終プレゼンに持っていけばいいのか迷いは深まるばかり。デザイナーという職種を活かすといっても、私たちはお仕事を依頼されることでクライアントから対価をいただいています。生産業者さんを相手に勝手にビジネスを展開しても迷惑千万であることは明白です。

どうしたらいいかまったく答えが出ないそんなとき、凍みこんにゃくを生産している袋田食品さんを取材させていただくことができました。

生産業者さんの想い

袋田食品さんは私が最初に購入した凍みこんにゃくを作っている業者さんでした。そこで2次選考の前に会社にご連絡し、ビジネスコンペに参加させていただいていることをご説明して取材の申し込みをしていました。対応してくださった営業取締役の高村和成さんは丁寧に事情を聞いてくださり、快く取材に応じてくださいました(取材当日は家族の体調不良が重なり大子町までは行けませんでしたが、お電話でじっくりとお話をさせていただきました)。

高村さんからは、袋田食品さんが凍みこんにゃくの生産を始めるきっかけ、製造工程、これまで商品開発をいろいろ試してきたこと、凍みこんにゃくの味や食感には各社それぞれ個性があること、今後のビジョンについてなど詳しくお聞きしました。その中で、

凍みこんにゃくは一般的なこんにゃくと比較してしまうと価値が分かりづらいですが、時間も手間もかかっている貴重な食材なんです。個人的に、今後は高級食材として価値を高められたらいいなと思っているんです

という本音をぽろりと語ってくださいました。それを聞いた時、生産者の方が凍みこんにゃくに愛情と誇りを持っていて、いち消費者である私も凍みこんにゃくの持つストーリーに感動したのだから、そこには大きな価値があるはず。だったらそれを伝える新しいブランディングができたらという気持ちが湧いてきました。

ストーリーを伝える、新しいブランディングづくり

高村さんのお話を受け、心が決まりました。もうビジネスコンペ云々ということではなく、凍みこんにゃくの認知普及と伝統の継承に向けて業者さんが目指すことを一緒に実現できるプランを考えてみようと。そこで、最終プレゼンでは凍みこんにゃくの新しいブランディングを考案する、『”Shimikon” Branding Project ~『凍みこんにゃく』のストーリーを伝える、新しいブランディング~』を提案することにしました。

提案の中ではビジネスを3段階にわけています。まずステップ1として、凍みこんにゃく業者さんから私が凍みこんにゃくを買い取り、それらをパッケージし直したものを販売して利益を出します。ステップ2として、デザインで商品を売る実績をつくることにより、以後はデザイン制作で対価をいただけるようにします。ステップ3として、業者さんと一緒に凍みこんにゃくの新しい商品開発をし、新たな販売方法を目指すとしました。ただ、この3ステップについてはあくまでもビジネスコンペとして利益を追求したらどうなるかを仮定したまでの話です。私が本当にやりたいのは、凍みこんにゃくの素晴らしさを伝える商品を作り伝統を継承していくこと、そのために業者さんと新しい取り組みを始めるということでした。

プレゼンの場ではそんなありのままの思いを伝え、ビジネスコンペにそぐわないプランだとは分かっているけれど、自分が感動した凍みこんにゃくの良さを違う誰かに伝えることをやってみたいという思いをお話させていただきました。

その結果、茨城県北ビジネスプランコンペティション2017で奨励賞という結果をいただくことが出来ました。審査員の方は、プランがまたも大胆に変わったことの驚きを率直に話してくださいつつ、茨城の特産品がデザインというツールを使って広がる可能性を楽しみにしているというお話をしてくださいました。

水戸にある常陽藝文センターで行われた最終プレゼンテーション

最前列の向かって左から二人目が筆者。

賞をいただき、ここから新しいことを始めるチャンスが得られたことは素直に嬉しいことでした。同時に、応援してくださったり、期待してくださる人の思いに何としてでも応えたいという新たな気持ちも生まれてきました。

こうして、スイーツ、お弁当、ブランディングと紆余曲折しながら進んだビジネスコンペは一段落。そしてこの先、構想を形にしていくための新たなステージへと突入していくことになります。

フリーランスデザイナー。1985年生まれ、愛知県岡崎市出身。武蔵野美術大学を卒業後、デザイン会社勤務を経て独立。「茨城県北ビジネスプランコンペティション2017」で「”Shimikon” Branding Project~『凍みこんにゃく』のストーリーを伝える、新しいブランディング~」を提案し、奨励賞を受賞。現在は横浜を拠点に、地域の課題解決に関わるデザインに取り組んでいる。

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