茨城県北クリエイティブプロジェクト

#00 たのしい風景|ケンポク切絵探訪記

記事を書くにあたって、目的地を決めずにフラフラとその土地に入って、面白いものないかなぁと探すことから始めることは、あまりない。他人から聞いた話が企画の種になるならまだいいほうだ。ふと思いついたキーワードをGoogle検索したり、あるいはSNSのタイムラインで気になったことをヒントにすることもある。そして、あらかた事前に調べものをしておいてから現地に入って取材(といってもインタビューぐらいなものだ)し、記事を書く。“ホニャララなことについて書きたいのでどこそこの誰それのこんな言葉が必要だ”、と狙いを定めてから取材を始める、そのやり方が必ずしもいけないわけではないけれど、取材に赴く前にすでに結論があって、それを肉付けするために取材するのは、書く側にとっても読む側にとっても、取材される側にとってもあまり面白いことではないと思う。

インターネットには情報が溢れているけれど、情報になった時点で、すでに誰かの価値判断が入っている。その価値判断が良かろうと悪かろうと、誰かが編集してしまっているわけだから、それをネタに企画して取材したところで二次創作のようなものだ。本づくりを一応のなりわいにする人間からすると、自分がその「人」や「物」や「事」の “第一発見者” じゃないと形にする意味はない。

この二年近く、曲がりなりにも、ライターとして茨城県北の記事を書いたり、編集担当として他のライターが書いたものを編集したりしてきた。良い記事を書いてもらえたなぁと思うこともよくある。自分で良い記事を書けたなぁと思うこともある。でも、新鮮な驚きをもって執筆や編集を楽しめたかというと、そういうものはそう多くない。すでに知っていることについてより深く知ることはあっても、知らなかったことを恥じるほどの目新しいことにでくわすことは少ない。上に書いたように、取材に赴くのは企画が決まったあとなので当然である。目的地は決まっているし、見るべきものや撮るべき被写体も決まっている。委託されて記事制作をしているので効率的に取材しなければならないから、立ち止まっている暇はない。

それに加えて一番問題だったのは、眼が慣れてしまっていることだ。例えば、日立市・かみね公園の丘から見下ろす風景は、高校時代をまさにその場所で過ごしたぼくにとって、すでに何かしらの意味をまとっている。また、当初それがどんなに新鮮な風景に見えたとしても、一月に一回も通っているうちにそれは日常の風景になる。すでにくだされた価値判断をカッコに入れて、純粋な眼で地元を見直すのはけっこう難しい。でも、この作業をしないことには、記事を書いていても結局ありきたりな言葉が出てきてしまう…。そんなこんなで悶々としながら、月日はどんどん過ぎていった。

2018年が暮れようとしていた頃、ぼくはふと思いついて、知人であるイラストレーターの小林敦子さんにメッセージを送った。小林さんは大学で版画を専攻しつつも、水彩画によるイラストレーションを得意とし、最近では切絵での表現を試みている。栃木県益子町が発行するフリーペーパー「ミチカケ」でその仕事を知って以来、何か一緒に仕事をできたらと思っていたので、数年前に連絡して会っていた。そのときは具体的な話にならなかったが、今回持ちかけた話は、小林さんの新鮮な“眼”を借りて県北を回って観察し、ついでにプロのイラストレーターとしての腕も借りて絵を描いてもらって、ぼくが文章を書く、そういうことをやってみませんか、ということだった。小林さんは気持ちよく引き受けてくれた。

2019年が明けて間もない、1月8日。朝9時に水戸駅で合流して、常陸大宮市、大子町、常陸太田市、日立市を回った。18時に解散するという時間的な制約と、県北最奥部の大子町まで行くことだけは決めていたが、それ以外は何も決めなかった。法定速度よりもゆっくりと車で回り、気になるものを見かけたら立ち止まってじっくり観察し、小林さんにスケッチしてもらった。

結果、これまで出会ったことがなかった、たくさんの物事と出会うことができた。もちろん、そのひとつひとつのことは、何気ない小さなものばかりだ。誰かが成し遂げた感動的な成功物語ではないし、地域の活性に役立つヒントでもない。それどころか、どんな物語にも組み入れられることもないかもしれない。しかし、それは少なくとも“いつもの風景”ではない。おなじ風景を見たことあるひとにとっては新鮮さを、見たことのないひとには懐かしさを掻き立てるはずだ。それらをクリエイティブ(創造的)と言わずして、何をクリエイティブと呼べばいいのだろうか。

連載「ケンポク切絵探訪記」を始めます。

かみね公園の展望台から見た、マジックアワーの日立と海

「#01 ワーホイ!ワーホイ!」に続く>

絵・小林敦子
編集/文/写真・中岡祐介(三輪舎

 

小林 敦子(こばやしあつこ)
1989年岡山生まれ。筑波大学芸術専門学群美術専攻特別カリキュラム版画卒業。2014年よりフリーのイラストレーターとして活動。切り絵や水彩で身近なモチーフを描く。料理と植物とDIY好き。ktasybc.tumblr.com
中岡祐介

株式会社三輪舎 代表取締役、編集者。1982年、茨城県ひたちなか市生まれ。県北との縁は、ほとんどの同級生が通う水戸を避けたかったために日立の高校に進学したことからはじまる。2014年、「暮らしのオルタナティブを発信する」をミッションに、出版社である株式会社三輪舎を設立。現在は横浜に拠点を置きつつ定期的に茨城に通っている。
三輪舎 3rinsha.co.jp

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