茨城県北クリエイティブプロジェクト

#02 ファミリーレストラン|ケンポク切絵探訪記

水戸から大子へと北上する国道118号は、瓜連(うりづら)駅あたりから久慈川と並行するようになる。川と道が蛇行しているために右から左へ、左から右へと何度も橋を渡ることになるのだが、その運動はかえって、ダムでせき止められたことのないこの清流の美しさを味わう格好のチャンスになっているように思う。運転席の左方にはときどき、法定速度を一途に守っているかのようなスピードで、二両編成の短い列車が通り過ぎる。JR水郡線である。久慈川、水郡線、国道118号の3つの“ライン”が、八溝の山間地を北に向かって進んでいきながら、少しずつ高度を増していく。

ここに至る途上、常陸大宮で「ワーホイ」に遭遇した我々はとても興奮していた。旅はまだはじまったばかりなのに、取材すべき対象があちらかやってきたのだから。この調子でいけば、これからますます、“見たことのない風景”に出会えるのではないか。

しかし、その後、チャンスはなかなか訪れなかった。この日は早起きだったので、10時を過ぎる頃には腹が空いてくる。北上するにつれ観光地らしくなってきて、「常陸秋そば」「鮎の塩焼き」「こんにゃく」「しゃも」と食欲を大いにそそるワードが誘惑をしてくるので自然と昼ごはんを検討し始める。

中岡「ご飯どうしましょうね」
小林「どうしましょうか」
中岡「腹が減っても編集者。それらしいところは避けたいですね」
小林「なら、思い当たる場所があります」

“思い当たる場所” は大子町にあるという。 小林さんにナビしてもらってたどり着いたのは、「くれしぇんど」というファミリーレストランだった。

店に入ると、よく使い慣らされた味のあるソファとテーブルに、素敵なシェードランプが目に入る。開店したてだったこともあってお客さんの数はまばら。窓際の席もいいが、壁際のボックス席も“おこもり感”があっていい。どこの席も居心地がよさそうだと思った。

ファミリーレストランと聞いてぼくらがふつう思い出すのは、デニーズとかガストとかジョナサンとかジョイフルだ。それらのレストランはお店自体がファミリー経営でもなければ(スタッフは9割以上パート・アルバイトで、とうぜん家族ではない)、ファミリー(家族的)な雰囲気があるわけでもない(基本は賃金労働者なのだから当然だ)。それらはただ単に「ファミリー層」をメインの客層としてターゲットにしているわけで、だからファミリーレストランと称している。ファミリーレストランとは、ぼくにとってそういうものだった。少しもファミリーではないのがファミレスだ。それはそれでいい。しかし、この「くれしぇんど」。入店すればわかる「ファミリー感」がある。初来店なのに、「ただいま」と言いたくなる。それはさすがに言い過ぎにしても、入店したら「また来たよ」と言いたくなるし、お店を出るときには「また来るよ」と言いたくなる。

クマのイラストと書き文字には心底ほっとする。マーケティングの結果として生まれたファミリーレストランとはわけが違う。

あまりに空腹だったこと、またとても美味しかったことも手伝って、食べたハンバーグの写真を撮り忘れてしまった。(グルメ記事ではないので)あしからず。夢中になってハンバーグにかぶりついているうちに、あっという間にお客さんでいっぱいになっていた。そのほとんどが地元客で、メニューを見ずにお気に入りの品を注文している。気になったのは、近くにいた初老の客が注文していた「とんかつラーメン」。なんでも、このお店のヒットメニューだという。再訪時にはトライしたい。会計のとき、おかみさんに「またきてくださいね」と言われた。「また来るよ」

***

<次回は3月5日頃更新予定>

 

絵・小林敦子
編集/文/写真・中岡祐介(三輪舎

小林 敦子(こばやしあつこ)
1989年岡山生まれ。筑波大学芸術専門学群美術専攻特別カリキュラム版画卒業。2014年よりフリーのイラストレーターとして活動。切り絵や水彩で身近なモチーフを描く。料理と植物とDIY好き。ktasybc.tumblr.com
中岡祐介

株式会社三輪舎 代表取締役、編集者。1982年、茨城県ひたちなか市生まれ。県北との縁は、ほとんどの同級生が通う水戸を避けたかったために日立の高校に進学したことからはじまる。2014年、「暮らしのオルタナティブを発信する」をミッションに、出版社である株式会社三輪舎を設立。現在は横浜に拠点を置きつつ定期的に茨城に通っている。
三輪舎 3rinsha.co.jp

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