茨城県北クリエイティブプロジェクト

#05 自然が生む上質|凍みこんにゃくをめぐる冒険

袋田食品さんと始まった、少量サイズのパッケージづくり。これまで雑誌の誌面デザインや企業の広報誌などのデザインに携わってきた私にとって、パッケージをつくることは畑違いなことではあります。でも根っこにあるのはどちらも「誰かに届くものをつくる」ということ。商品を手にとる人のことを思い浮かべながら、制作を進めていきます。

「高級」よりも「上質」な凍みこんにゃく

まずは頭に浮かんだパッケージのイメージをいくつかスケッチしてみます。しかし「名前は変えずに今の凍みこんにゃくそのままの良さを最大限引き立てるパッケージ」ではまだコンセプトがぼんやりしていました。そのため、これもいい、でもあれもいい…と迷い続けます。

パッケージを作るにあたっては、各地の道の駅やアンテナショップに足を伸ばしてリサーチを重ねてきました。今、世の中にどんなものが流通しているのか、それは大きいのか小さいのか、値段はどのくらいか、誰がどんな商品を手にとっているか、買っていくものは誰かにあげるためのものか、自分のためのものか。

リサーチをする中で気がついたのは、お土産として人気のあるものは手軽に食べられるものや加工品が圧倒的に多く、食材そのままのものは選ばれにくい、ということです。高級感が感じられることや、凍みこんにゃくそのままの良さを引き立てることを提案したものの、いったいどんな形状にすれば手にとってもらえるものができるのか…。いくつアイデアを考えても不安は消えません。

東京の有楽町駅前にある「東京交通会館」。全国各地のアンテナショップで賑わっています。

茨城県のアンテナショップ「IBARAKI sense」も有楽町駅から歩いてすぐの場所にあります。

そんなとき頭に浮かんだのは、高村さんが「凍みこんにゃくを高級食材として認知させたい」と話していたときのこと。そのとき一緒に「だからといってお高くついているわけではないんですよね。この飾らない素朴さがいいんですよね。パッケージもゴテゴテさせたいわけじゃないんです」という言葉を聞いていました。確かに凍みこんにゃくを飾るものは自然にできた藁の模様と白さだけで、見た目はとても素朴です。でも、それが凍みこんにゃくが持つ唯一無二の良さでもあります。もちろん、人の手がかかっているという点を踏まえると「高級食材」といって過言ではないと思っています。ですが、凍みこんにゃくは「高級」というよりも「上質」というほうが似合うのではないだろうか、とその言葉から気づきました。

「高級」というと必要以上に背伸びしなければならない感覚ですが、「上質」というと私たちが思う凍みこんにゃくの素朴な美しさに身の丈が合い、無理なくデザインが考えられます。そこで、コンセプトを『自然が生む上質』と捉え直し、凍みこんにゃくの特徴である模様をいかに見せるかに焦点を絞ってパッケージのイメージを具体化していきました。

ラフスケッチ

試行錯誤の試作品づくり

コンセプトが明確になり方向性が固まってきたところで、いくつかの試作を始めます。『自然』を連想させるようにラフィア(藁に似た天然素材)を取り入れてみる、『上質』を連想させるように特殊な紙をふんだんに使用してみる…。でも、包装が複雑になればなるほど、凍みこんにゃくの魅力が見えてこない気がします。そこで、できるだけシンプルかつストレートを心がけたパッケージを再考します。また、コンセプトが伝わればどんなものでもいいということではありません。流通に乗せることを考えると、現実的に生産可能なものでなければいけません。そのため、紙や加工のコストはどのくらいか、袋詰めするときに無理な作業にならないか、少しでもコストを抑えるためにどんな工夫ができるか、検証を重ねます。

試作品作りのカット

内容量についても適当な枚数がどのくらいかを検討します。現在袋田食品さんで売られている凍みこんにゃくは9枚入り約1100円で、試しに買ってみるにはなかなか手を出しにくい値段です。そのために少量サイズをつくりたいと思いましたが、単純に枚数を減らすだけでは、物足りないうえに高いと感じてしまいます。そこで、1枚のサイズを今の半分の大きさにすることを思いつきました。こうにすることで、少量でも満足感を得られやすく、試しに買ってみるにもちょうどいい価格を実現させることが可能になりました。商品名には久慈川と豊かな自然を想起させる「奥久慈」という地名を追加しました。そうすることで産地の景色が目に浮かんできて、美味しそうだと思う感覚が何倍もアップすると感じたからです。

調理方法の仕方も、凍みこんにゃくは手がかかるという印象を払拭すべく「ひじきの煮つけに入れて」「炊き込みご飯に混ぜて」など、手軽に食べる方法を簡単な文章で紹介するようにしました。

こうしてついに試作品が完成。いよいよ袋田食品さんに見せられるときがやってきました。

自然と人がつくる、凍みこんにゃく

2月中旬、試作品を確認してもらうために袋田食品さんのある大子町袋田に伺いました。その日はこんにゃくを田んぼに並べる作業の手伝いをする予定でしたが、あいにくの雨で作業は中止。雨が降りしきる袋田に佇んでいると、ふと数週間前に中嶋商店さんで凍みこんにゃくづくりの体験をしたときの記憶が思い出されてきました。そのときは並べたこんにゃくをひっくり返してさらに凍結と解凍をすすめるという作業の手伝いでしたが、長らく雨が振っていなかったため空気は乾燥してカラカラ。中嶋さんはこんにゃくが乾きすぎて風に飛ばされないように、何度も田んぼに水をまいていました。その光景をみたとき、凍みこんにゃくづくりでもっとも大変なのは天候に合わせてこんにゃくの状態を調整することなのだと分かりました。雨が降れば上から大きなビニールシートをかけて雨をふせぎ、空気が乾燥すればカラカラにならないように水分を調整し、風が強い日は吹き飛んでいかないように一日に何度も水をかける。凍みこんにゃくを作る期間、生産者のみなさんはそうやって自分たちの思い通りにはならない自然と向き合います。それを目の当たりにして、この薄くて軽い1枚に、自然の営みと、人の営みが凝縮されているんだと実感しました。

中嶋商店さんでの凍みこんにゃくづくりの体験。

雨がふれば「残念」という気持ちが生まれがちですが、凍みこんにゃくにとっては雨も大事な恵みのひとつ。今日の作業はできなくとも、この日ばかりは雨がふって良かったと安堵する気持ちがうまれました。それと同時に、私は生産者のみなさんが毎日丹精を込めて作っているものを誰かに届ける役割を担っているのだと、改めて背筋が伸びる気持ちになりました。

さて、袋田食品さんでは高村さんが笑顔で待っていてくれました。その笑顔に比例して、私の緊張は高まります。初めての試作品を前に、高村さんはどのような反応をみせてくれるでしょうか。

フリーランスデザイナー。1985年生まれ、愛知県岡崎市出身。武蔵野美術大学を卒業後、デザイン会社勤務を経て独立。「茨城県北ビジネスプランコンペティション2017」で「”Shimikon” Branding Project~『凍みこんにゃく』のストーリーを伝える、新しいブランディング~」を提案し、奨励賞を受賞。現在は横浜を拠点に、地域の課題解決に関わるデザインに取り組んでいる。

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