茨城県北クリエイティブプロジェクト

#06 食べる工芸、高萩ほおずき|連載:クリエイティブのフィールドワーク

関東の最北端。茨城県の北部地域6市町を舞台にした連載『クリエイティブのフィールドワーク』。フィールドワークとは、文字通りフィールドつまりは現地に入り、各々が “ある視点” に基づいて、物事の仔細を見聞き体験し、机上だけでは決して分からない、“視点”と“対象”を結ぶ地脈を全体的に理解しようとする行為。今回の連載では、映像作家である筆者が、いちクリエイターとしての視点から、何に興味が湧き、何に可能性を感じ、何に学びを得たのかを書き残し、茨城県北地域にクリエイティブの火種を見つけていく。

静かさが日常の風景に溶け込んでいる土地で

ほぼ毎月のように茨城県北に通い、海に山に、南から北にと車を走らせていると、なんとなく、それぞれの土地に帯びている雰囲気というものが分かるようになってきた。あえて大雑把に言えば、街においては、建物や商店、道路などの人工物がどのような様相をしているのか、農村地域においては、山や川の大きさや配置、木々の様相などがどのようになっていて、そこに民家などがどのように交わっているのか、主にそのようなことから、なんとなくその土地の雰囲気というものの表層ができあがっているように思う。ちなみに、大きなバイパス道路沿いの金太郎飴のような景色は、日本の他の地域とおなじく、茨城県北においても例外ではなく、“土地の独自の雰囲気”というものには、まったく寄与していない。さて、敬愛する陶芸家、河井寛次郎のエッセイに、美しい村落について自身の印象を書いた『部落の総体』という題名のものがある。一節を紹介してみたい。

穀物や野菜は育てることは出来るけれども、作る事は出来ない。作る仕事はごまかすことも出来るが、育てる仕事にはそれが出来ない。農家が、農家の暮らしが美しくならないはずがない。どんな農家でも — どんなにみすぼらしくっても — これは真当の住居だという気がする。安心するに足る家だという気がする。喜んで生命を托するに足る気がする。永遠な住居だという気がする。これこそ日本の姿だという気がする。小さいなら小さいままで、大きいなら大きいままで、どれもこれも土地の上に建ったというよりは、土地の中から生え上ったと言いたい。(『火の誓い』収録 講談社文芸文庫)

キーワードとなるのは、育てる仕事、土地から生え上がる、という箇所。河井寛次郎のような感性でもって、言葉を付与することはできないけれど、心惹かれる土地の雰囲気には、確かに時間をかけて育った何かと、まるで土地から生え上ったとしか言い得ない、家やその他要素同士の調和があるような気がしている。ここ茨城県北にも、そういった土地がいくつかある。

そして今回、取材のために訪れた高萩市の上君田という土地にも、そのような印象を受けた。標高の高い中山間地域にあり、大きな幹線道路などはなく、道や山々がゆるやかな曲線を描き、そのなかに民家が点在している。どの沿道も、手入れが行き届いている。静かさが日常の風景に溶け込んでいるようだ。この土地で、『結農実WORKS』(ゆのみワークス)という屋号を掲げ、ほおずきを生産販売する、笹川夫妻を訪ねた。

オーストラリアでの壮大な経験

結農実WORKSの笹川夫妻は、ともに福島県いわき市出身。いわきから高萩へ、一見すると50kmほどの近い移住に思えるが、お話を聞くと、まったくそうではない。そこには、冒険のような道のりがあった。

(雄也さん)「もともと会社員をいわき市でやっていて、二人とも同じ会社で働いてました。結婚してしばらくしてから二人揃って退職して、僕は雑貨品とかのバイヤーをやりたくて、英語を使えないとなぁとフィリピンに3ヶ月間、語学留学に行きました。そこで会った人たちに感化されて、バイヤー以外にも道があるなと思ったんです。そこで、自分のやりたいことをあらためて整理したんです」

(美奈さん)「そうしたら、自然だったり、自立して生きるということがキーワードとして出てきたんですよね。そうしたら、農業じゃない!?という感じで漠然と思い始めて。あ、インドにヨガしに行ったりもしたよね」

どこへ行くにも何をするにも一緒という笹川夫妻。お二人のやり取りを聞くと、夫婦というよりも同士という感じがする。

(雄也さん)「そこから日本に戻ってきて、山梨の農業生産法人で働いたり、長野の有機農家さんのところで勉強させてもらったりして、その後すぐに独立しても良かったんですが、やっぱりお米も勉強したいと思っていて。ある日、Facebookを見ていたら、とあるNPO法人が、東日本大震災で作付けができなくなってしまった東北の米農家さんのためのサテライトファームをオーストラリアで作る、という活動をたまたま見つけたんです。そのNPO法人の代表住所が実家のすぐ近くだったこともあって、縁を感じて会いに行ったところ、すぐにオーストラリアに行くことになって、現地で研修生としてお米づくりを学べることになったんです」

(写真提供:結農実WORKS)

(美奈さん)「オーストラリアの気候上、1年に3回くらい収穫ができるので、単純に考えて日本でお米づくりを学ぶよりも、3倍仕事が覚えられるんです。あっちの田んぼでは田植えをして、こっちの田んぼでは収穫をしてといような、日本ではあり得ないようなサイクルで。しかも、私たちを現地で指導してくださる予定だった農家さんに事情があって、早々に日本に帰国しなければならなくなって、私たち二人だけが残されて、とにかく必死で試行錯誤しましたね」

(雄也さん)「僕らはオーストラリアのど田舎に行ったので、広大な土地があるんですよね。ひたすら広がるサトウキビ畑の真ん中にある一軒家を与えられて、ちょっと車で行ったら、映画に出てくるようなバーとかがあって。こんな世界あるんだなぁと。田んぼは、100町歩(東京ドーム約21個分)くらいやっていいよと言われてて、でもそもそも田んぼがないので、一から畦を作って、水を入れては、あそこが高いなここが低いなって感じで。バックホーそれまで使ったことなかったんですけど、めちゃくちゃ上手くなって(笑)最終的に、手足のように扱えるようになりました」

(写真提供:結農実WORKS)

(雄也さん)「実は、ビジネス的にもかなりチャンスがあったんです。NPO法人の活動に、オーストラリアのクボタ(Kubota Australia Pty Ltd.)がサポートしてくれていて、重機はすべて無償で借りることができました。しかも、収穫したお米は丸紅(丸紅株式会社)が全部買い取ってくれることになっていて、これに人生賭けてもいいんじゃないかと。でも残念ながら、ビザの更新のタイミングで申請に行ったら、その場であっけなく却下されてしまって。後ろ髪を引かれる思いで、日本に帰ってきたんです」

(美奈さん)「2週間後には帰国しなさいと通告が出たので、最後に何をしようとなったときに、今まで量を増やすための種取りとして出荷してこなかったお米に“希望”という名前をつけて、最初で最後となる出荷だけして帰ってきました」

そんなこと普通あります!?と突っ込みたくなるような、壮大な経験をオーストラリアでしてきたお二人。きっと、学びと挑戦と青春と可能性と未来が一挙に到来した、人生において二度ないような経験だったのではないだろうか。

高萩のほおずき、食べる工芸

摘むと、張りのよいミニトマトのような感触がある。一口かじると、酸味と甘み、その後に少々の苦味がくる。今まで味わったことがないような、アンサンブル。甘じょ苦い?そして最後には、スパイスのような後味が口のなかに広がる。ますます、これがどういった味なのか、言い表すことができない。思わず、もう一粒食べたくなる。そういえば、食用ほおずきを食べたという記憶がない。もしかしたら、初めて食べたのかもしれない。とにかく、美味しい。こんなに美味しいのか。でもとにかく、言葉で言い表すことができない。

オーストラリアから「もやもやが残ったまま」帰国した、笹川夫妻が見つけたのが、食用ほおずきだった。

(雄也さん)「帰国して、すぐに就農しようと農林振興公社に行って、土地を探しました。でも、日本だと学校や研修を経ていないと、すぐには借してくれないみたいで。僕らは色々な経験をしてきたので、土地さえあればできます!と言ったんですが。そうしたら、一週間後に窓口担当の方が連絡をくれて、高萩市で農業関連の地域おこし協力隊の募集がありますよと教えてくれたんです。そもそも、地域おこし協力隊自体を知らなかったのですが、募集内容が、ほおずきの生産と販売PRだったので、ほおずきは面白そうだなと思って、応募して、協力隊になったんです」

地域おこし協力隊の任期は3年。2019年の7月でその任期を終えて、そのまま高萩市内にて独立。収穫時期は8月のお盆過ぎから10月末の霜が降りるまで。なので、この夏が結農実WORKSとしてのはじめての収穫だった。

お盆の時期にご先祖の帰ってくる道を照らす提灯として、観賞用ほおずきは目にするものの、食用ほおずきは、産直やスーパーでもなかなか見ない。だから、僕と同様に食べたことがない人も多いと思う。

(雄也さん)「産地としては、主に長野や山形、岩手、あとは北海道でも作ってますね。ある程度、寒いところが向いてるんですよね。なので、高萩でも標高の高い、このあたり(上君田)だとできますけど、標高の低いところだと失敗していますね。それと、栄養価がすごく高くて、スーパーフードと呼ばれていて、栄養価が高いことを気にするお客さん層って、オーガニックだとかマクロビとかに興味がある人たちだと思うので、栽培するのに、農薬使ったら価値が下がると思うんですよね。生食でも安心して食べてもらいたい。なのでうちは有機で栽培していて、まぁ、単純に有機農法でしか勉強をしてこなかったので、農薬の使用の仕方が分からないというのもあるんですが」

そして、びっくりするほど美味しい。もちろん、結農実WORKSが生産した、ほおずきだからなのだろうけど、その複雑な美味しさは、前述したように言葉で説明ができない。

(雄也さん)「うちも加工業を持っているので、ジャムやバターなどにしてるのですが、加工する人によって、いろいろできるモチベーションがありますよね。それぐらい複雑な味がする。すごく酸っぱいわけでもないし、すごく甘いわけでもないので。だから僕らも、どんな味がするんですか?と聞かれても、言葉ではなかなか説明できないんですよね。なので逆に、ほおずきみたいな味、と言って通じるようになるのを目指したいなと」

結農実WORKSで加工販売している、ほおずきのジャムとバター。どちらも美味。

味もさることながら、その見た目も魅力的な、ほおずき。外側のガクに包まれている姿は、まるで自然の工芸品のようで、とても美しい。特別な機会や贈答品としても、これから結農実WORKSの高萩ほおずきは、ますます知られていくだろう。あいにく、今回は実現しなかったが、再訪する際には、この高萩ほおずきの工芸的な美しさに向き合って、じっくり写真に収めてみたいと思った。

取材後、天皇皇后両陛下が昨年開催された茨城国体に出席するため日立を訪れた際、御昼食で結農実WORKSのほおずきを食されたことを聞き、そんなこと普通あります!?なお二人の冒険は、オーストラリアから続き、まだまだ終わらないのだろうと確信した。

結農実WORKSオンラインショップ > https://shop.yunomi-works.com

山根 晋

映像作家 / プロジェクトディレクター

1985年生まれ、神奈川県在住。大学卒業後、広告営業や雑誌の立ち上げを経験。その後、千葉県九十九里に移住し、大工や林業の仕事をしながら映像制作業を独学で始める。近年は、映像人類・民俗学、思想や文化、古今東西の手仕業などの関心領域から、日常性の中に在る記憶や物語、関係をテーマにした映像をつくる。また、企業や自治体の情報資産の制作や記録を担う。茨城県北クリエイティブプロジェクトでは、2017年4月よりウェブサイトの情報制作ディレクターを務めている。shinyamane.com

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