茨城県北クリエイティブプロジェクト

#01 ローカルディスタンスが育ってきた|連載:いま、どうしてますか?

新型コロナウィルスの感染拡大は、わたしたちの身の回りにさまざまな変化をもたらしました。そしてそれは、現在進行形で続いています。

歴史的にも語り継がれるであろう潮目のさなかを、人はどのように過ごし、何を思うのか。

不定期連載「いま、どうしてますか?」。茨城県北地域に暮らす、年代も生業もさまざまなみなさんの「いま」を記録します。

 

まず連絡をとったのは、北茨城市の楊枝方(ようじかた)集落に住む芸術家・石渡のりおさんです。

2017年から地域おこし協力隊としてこの地にやってきて、奥さんのちふみさんとともにアートユニット「檻之汰鷲(おりのたわし)」の活動を展開。築およそ150年の古民家を改修してギャラリー&アトリエ「ARIGATEE」としたり、この集落も含めた北茨城全域を巻き込んで「桃源郷芸術祭」を開催したりと、芸術を切り口にさまざまなことに取り組んできました。

過去には、夫婦でスペイン、イタリア、ザンビア、エジプト、モロッコの5カ国を旅しながら、滞在制作を重ねてきた経験もある石渡さん。SNSなどへの投稿からは、日々たくましく過ごしている様子が伺えます。

コロナ禍の前後で変わったもの、変わらないものってなんだろう。画面越しに話を聞きました。

取材日:2020/5/14

 

ーー そちらはどこですか?

石渡さん(以下、石):いまね、ARIGATEEです。

(写真:中川晃輔)

ーー 普段はその周辺で。

石:そう。最近は廃墟を改修してつくった家のほうに普段いて。ARIGATEEはほとんど使ってないですね。

ーー その廃墟というのは、もともとどういう場所だったんですか。

石:工務店が資材置き場にしてたところで。昔はその、家を解体したときの資材を引き取って、どんどん積み上げてたんですよね。でもそうこうしてるうちに工務店はつぶれちゃって、ゴミと資材がそのまま残ってて。いつかきれいにしたいなと思っていたんです。

そしたら持ち主がスミちゃんで。

ーー ああ、スミちゃん。地域のお母さん的な存在。

石:そのスミちゃんが「片付けたら、あとは自分で好きにしていいよ」って言ってくれて。そこを住宅にしたっていう感じですね。

(写真:石渡のりおさん)

ーー 改修工事も、ご自分で?

石:うん。この地域自体、下水が来てないんですよ。だからみんな井戸を使ってるし、トイレも汲み取り式。いろいろ課題はあるんだけど。その辺は適当に、トイレをコンポストにしてみたりとか、水はARIGATEEから汲んできて使うとか。キャンプよりキャンプみたいな生活してる。ふふふ。

ーー すごい(笑)。その工事が落ち着いたところに、コロナウィルスがやってきて。

石:そう。2月の中旬から東京・有楽町のマルイで個展やらせてもらってて。その最中にどんどんコロナの猛威が。お客さんも来なくなって、日曜日のマルイっていったらすごい人いっぱいいるのに、ほとんど人が来なくなっちゃって。そんなうちに会期が終わって、それからずっと北茨城にいるんですけど。

ーー 東京はしばらく厳しい状況が続いていますけど、北茨城は今どんな感じですか。

石:コロナウィルスが発生したことによって、外から来る人がいなくなって。この地域に住んでる人も、出かける場所がなくなった。何するようになったかっていうと、身の回りのことをやるようになったんです。

ーー 身の回りのこと。

石:以前は「この地域は何もない」っていうことで、週末はどっかに行ったりしてたんだけど、今は親からもらった土地を手入れしようとか、食べものが手に入らなくなったときのために畑やろうとか。荒れてた土地が、どんどん変わっていってる。

みんなが畑をするから、顔を合わせる機会も増えて。ちょっと立ち話したり、お茶飲みにおいでよとか、交流が生まれてて。そういう当たり前のものがなくなってたんだなっていうことを、すごく思うんですよね。

ーー なくなっていたものが、復活してきた。

石:うん。地に足のついた暮らしが見えてきた。そういう感じはしますよね。

ーー 今って、暗いニュースというか、「あれができない」「これができない」っていう報道も多いですけど。細かく見ていくと希望もあるんだなって、お話を聞いて感じました。

石:うん。

(写真:石渡のりおさん)

石:なんかね、自分のやってることが芸術だって言ってるけど、絵描くよりも、草を刈ったり、畑を耕したり、家を直したりとか。そういうことの割合がどんどん増えていて。芸術が、生活によって浸食されていく、みたいな。

ーー 浸食…!

石:それも、どんどん古いものに置き換わっていく。たとえば「水がないから水道ひきましょう」じゃなくて、「井戸を掘りましょう」「水を汲みにいきましょう」。汚い話だけど、バケツにうんこして、腐葉土かけて蓋をして置いとけば、全然臭くならないんだよね。水洗トイレが…ウォシュレットが…って思ってたんだけど、それだけで事足りちゃった。

バケツにうんこして、蓋して終わり。こんな潔さがあったんだなって。2ヶ月ぐらい放置しておけば、完全に堆肥になって、畑にまけるらしいですよ。まだ2ヶ月経ってないからあれだけど。

ーー 「自分でやってみる」ことのうれしさって、ありますよね。慣れていないと、不便だったり、手間がかかったりするかもしれないけど、「案外できるんだ」とか、「これも自分でつくれた!」っていう喜びは、ほかでは味わえないもので。

石:うんうん。今は“そこにあるものを最大限活用する”っていうのが楽しくて。この流れで言うと、集落のなかに一個、壊れた炭焼き窯があったので、それをじゃあ再生してみようってことになったんですよ。ARIGATEEのもともとの持ち主の有賀さんが炭焼きできる人だったから、じゃあ一緒に炭焼きやっか、みたいな感じで。

やってみてすごく驚いたのが、泥をこねて窯をつくる作業が、アフリカのザンビアで泥の家を建てたときとまったく同じやり方なのね。

(写真:石渡のりおさん)

ーー ご夫婦で旅されたアフリカの家づくりの技術と、日本の炭焼き窯のつくり方が一緒だった。

石:それ、すごい人間の根源的な部分なんじゃないかと思って、結構衝撃を受けて。

なんかね、遡って考えると、希望が見出せるっていうか。今回のコロナウィルスがつぶそうとしてるものは、この100年のあいだに出来上がったものばっかりなんじゃないかなと思って。

たとえば車がなかったら、人はそんなに長い距離を移動できない。自転車しかなければ、これほど問題にはならなかったはずですよね。

ーー 移動できることが、ある意味では脅威を生んでいる。

石:たまたま昨日、車の調子が悪くなって。今までだったらやばいって感じるんだろうけど、それならそれでしばらく歩いて生活するのもおもしろいかなって。この状況のなかで、どうやって遊べるだろう?って頭を切り替えられたんです。

ーー なるほど。

ただその一方で、頭を切り替えられない人も多い気がしていて。最近は「新しい生活様式」が話題になりますけど、じゃあ自分はどうしよう?と思うと、なかなか前向きになれない。

身近な人との関わりだったり、自然の豊かさだったり、これまでの経験だったり。石渡さんだからこそ、という部分も大いにありそうです。

石:もちろん、みんながみんな変わるってことはなくて。ただ、今までもやもやと考えていた人にとっては、ひとつのきっかけになるでしょうね。これからどんな変化が起こっていくか、ぼくはちょっと楽しみなんです。

ーー ご夫婦でアートユニットとして活動されていますけど、創作についての変化は何かありましたか。

石:生活と芸術っていう両輪をこれまで回してきて。その2つが融合していく地点に、“景色をつくること”があるのかな、と思っています。

ーー 景色をつくる。

石:絵って、フレームのなかに描くものでしょう。でもさっき話した通り、今は自分の目の前の現実をきれいにしていく、景色をつくっていくっていう作業が主になっていて。草刈りとか、ここに桜を植えましょうとか、そういうことですよね。

何年かかるかわからないけど、この一周2キロぐらいの集落をきれいに手入れしていったら、今まで自分が考えてきたものとは違う何かができるんじゃないかなって思っているんです。

(写真:石渡のりおさん)

ーー はああ。すごいなあ。

でも、景色って売ることができないですよね。絵なら商品として販売してお金を得られますけど、端的に言ってしまえばお金にならない。そのあたりのことは、どんなふうに考えているんでしょう。

石:前提として、お金の使いどころが全然ないんですよ。本とか音楽とか、道具を買うのに使うぐらい。あとは友だちのお店にご飯食べにいくとか。

自分が生きていくうえで必要なお金が少なくなるほど、そのぶんのお金を人に回したり、稼ぐために使っていた時間を作品づくりに充てられる。そういう循環を生みたいし、できるだけ自然な状態でお金と関わっていたいと思っていて。

で、最近「ソーシャルディスタンシング」って言葉が使われてますよね。あれを聞いた時からずっと思ってるのが、物事との距離のとり方を巧みに使い分けることで、もっと生きやすくなるんじゃないかなって。

ーー 物事との、距離のとり方。

石:たとえば都市と田舎のどちらに住むか?っていう二択じゃなくて、必要なときは都市の間合いに踏み込んでいけばいいし、タッチしたくないときにはサッと避ければいい。

お金もそうで、絶対に必要な額なんて決まっていないし、3ヶ月集中して稼いで、しばらくは考えなくていいやっていうことがあってもいい。そういう立ち回りができたら理想だね。

 

「いま、楽しいですよ」

そんなふうに、飄々と話す石渡さんの姿が印象的でした。

海外を旅して回ったバックグラウンドや、芸術家という仕事、そして自然豊かな北茨城の土地。それらがあってこそ、石渡さんのライフスタイルは成り立っているようにも思えます。たしかに、簡単に真似できるものではないかもしれません。

ただ、同時に、「いいな」と感じたことはいつから実践しはじめてもいいんだよな、ということを思いました。今までの“当たり前”が崩れて、むずかしくなったこともあれば、「こうでなきゃ」と縛られていたことから解き放たれるチャンスでもある。

楊枝方集落のみなさんが、耕作放棄地に手を入れはじめたように。身の回りのことから、少しずつ耕していけたらいいのかもしれません。

Text  / 中川晃輔 Photo / 石渡のりおさん(一部、中川晃輔)

1992年生まれ。求人サイト「日本仕事百貨」編集長。全国各地の仕事場を訪ね、働く人のストーリーやその地の暮らしを取材・編集してきた。県北クリエイティブプロジェクトでは、2018年「しごとをつくる合宿」や2019年「地域を編集するゼミ」の企画・運営を担当。https://shigoto100.com/

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