茨城県北クリエイティブプロジェクト

高萩市 サウナと犬と宿泊と -里山を楽しむ蔵サウナ「コアミガメ」-

東京から約2時間半。茨城県高萩市下君田。この9月に、蔵をフィンランド式サウナにリノベーションした「コアミガメ」がプレオープンした。10月下旬に本オープンを迎える。

この「コアミガメ」で高萩市地域おこし協力隊として「空き家を活用した民泊事業」に挑戦することになった山形実和さんと岸風花さん。2人の挑戦は、空き家を探すことから始まる。 「地域と訪れた人の案内役」を目指すという2人に、蔵が「カメ」になるまでの物語を聞いた。

取材:2021/9/28

朝ドラ「ひよっこ」の撮影にも使われた昔懐かしい里山の風景。車から降り立つと耳に届いたのは静かな里山の響きだ。川のせせらぎに鳥たちのさえずり。風のそよぐ音と共に聞こえてくる木々のざわめきは心までサワサワと優しく揺らし、それだけで日頃のストレスがスッと抜けていくように感じられる。常磐自動車道高萩ICを降り、山あいへ車を走らせること約20分。昔ながらの民家がポツポツと過ぎていく田舎らしいのどかな景色に和んでいると、気を付けていないと通り過ぎてしまいそうなほどにひっそりと目的地「コアミガメ」が現れた。道路から一段低い位置に立つ古民家の前で看板犬スライリーを連れ2人が出迎えてくれた。

ー素敵な古民家ですね。この古民家も自分たちで物件探しからされたと聞いています。

山形:そうなんです。この物件をお借りするまでに半年かかりました。

ー半年!それは大変でした。お二人のご出身はどちらなんですか?

山形:私は日立市出身です。中学まで日立にいて、そこから県外です。

岸:私は城里町の出身です。

ーでは、もともとの知り合いや市の方経由で物件を探した感じではないんですね。

山形:はい。物件探しを始めたのは、2019年高萩市の地域おこし協力隊になってからです。高萩市地域おこし協力隊は「空き家を活用した民泊事業」が条件で募集されていて、もともとは1人の募集だったんですけど、1人で空き家を活用した事業は厳しい、と市の方に相談して、2人で応募しました。

岸:そこからいいな、と思う物件を2人で探しました。

ーお二人は子どもの頃からのお友達だったんですか?

山形:実は岸さんは小学校時代に入っていたサッカークラブのチームメイトだったんです。
私は帰省していたところ、当時のコーチの呼び掛けで集まることになって、その時に岸さんに再会しました。この募集を知る前です。

ーそうでしたか。ご縁がつながっていて素敵ですね。ちなみに、なぜ高萩市を選ばれたのでしょうか?

山形:知人に県北周辺で沢がある場所を紹介してもらったことがキッカケです。もともと沢登りが好きだったので、高萩ってすごくいい場所だな、と思ったんですよね。
空き家を使って自分の好きなものを詰め込みたいと思っていたそんな時に、たまたま前任の地域おこし協力隊の人が知り合いで、「空き家を活用した民泊事業」での募集があると教えてもらって興味を持ちました。

岸:私はちょうど前職を辞めて、どうしようかなと思っていたタイミングでした。再会もあって、一緒にやろうと決めました。そこから応募して、就任が決まって物件を探して、という感じでした。

ーちなみに、この場所の決め手はなんだったんでしょうか?

山形:沢が近くにあることと・・・

岸:お隣の家からの距離が離れているということですね。やっぱり、ペットと一緒だと、お隣が近いと「騒いで迷惑かけるかも」とか「他人の目が気になる」という方もいると思うんですよね。どんな方でも落ち着ける場所にしたいな、と思ったんです。

ー確かに「コアミガメ」の近くは他の民家との距離もあって、静かで自然の音がよく聞こえますね。蔵をサウナにする計画はいつごろ立てたのでしょうか?

山形:最初にどんな宿を作りたいかということを考えるために、全国のさまざまな施設に足を運びました。そこで長野県野尻湖にある「The Sauna」でいわゆる「ととのう」体験をして衝撃を受けたのがきっかけです。すぐに、支配人の野田クラクションべべーさんにコンタクトを取ってプロデュースしていただく流れになりました。

山形:施設のテーマは「サウナ・犬・宿泊」です。蔵には、薪ストーブを使ったフィンランド式サウナを設置しました。銭湯によく使用されるドライサウナとの違いは、ドライサウナは高温低湿なのに対してフィンランド式サウナは中温多湿という特徴があります。サウナストーンに水を掛けて発生する水蒸気を体に浴びることで体の芯から体温を上げるんです。体の芯まであたたまったあとでは、キンキンに冷たい水風呂に入っても、体は寒くて震えても内側まですぐに冷えることはないんです。私自身、「The Sauna」でのサウナ体験から1週間は体が軽くなったようで、「これだ!」と。

岸:その中で、「ここでしかできないこと」ということで、敷地の隣を流れる川にダイレクトインできるようにしました。古民家を活用した宿泊では、ペットも一緒に過ごせるようにしようと計画しました。あとは、やっぱり、お隣から離れた場所で、誰でも落ち着く隠れ家的なものにしたいなと。

―施設名の「コアミガメ」とはどういった意味なのでしょうか?

山形:コアミガメは漢字では「小網亀」と書きます。長野県小谷村にある「大網」という集落は、限界集落であるにも関わらず、多くの人がそこへ足を運ぶんです。なぜなら、そこには大網に惚れ、大網で生きていく決心をした若い世代が作り出した新たなコミュニティがあるからです。「おかえり」で迎えられ、「いってらっしゃい」で送り出してもらう。そんな場所にしたい、と思い大網にあやかって「小網」としました。

岸:「カメ」は、「カメ」のイメージ通り、訪れた人がゆっくりと自分のペースを保ってくつろげる宿にしたいと考えてつけました。
空き家を探し回っていた半年間に、人が住んでいないことで朽ちてゆく家もたくさん見ました。家も人がいなければ生きることができない。そういった意味でも、生物である亀に見立て、成長していけるように願いを込めています。

―施設には、どのような設備がありますか?

岸:人にサウナなどの楽しみがあるように、ペット目線でも楽しめる場所を、と思い使われなくなった畑を活用したドッグランの整備も進めています。今ちょうど1エリアができたところです。訪れた犬たちには自然を満喫してもらい、「ココは楽しい場所!」と覚えてもらえるようなペットのための体験プランも計画しています。

山形:付近には遊歩道がある滝山渓谷もあって、滝の迫力を間近で感じることができます。ドッグラン周辺の川で遊んだり、大家さんが所有する山へ散策に出かけたりできるので、沢から少し離れた場所で、また違った静けさを楽しめると思います。

―まさに隠れ家的な場所ですね。

山形:はい。施設も、1日1組の貸切とするので、里山暮らしも満喫できます。実は、私、初めて高萩に来た時は、何もないんじゃないかって軽く見ていた部分があったんです。でも、違った。茨城にこんなところがあったんだって、感動したんです。山から流れてくる飲める水もある、沢にはゴロゴロと大きな岩があって、自然の雄大さを感じました。

岸:ここを利用するお客様にもここでしか味わえない「非日常」を体験してほしいです。

―ここまでの取り組みの中でクラウドファンディングにも挑戦されていますが、地域の方との関係性などはいかがですか?

山形:クラウドファンディングを通じて、蔵サウナを作る前の掃除であるとか、古民家の片付け、敷地の整備などに参加してくださる方も多くいます。「暇な時にまた来るよ」ってクラウドファンディングのリターンの後も来てくれる人がいたり、蔵の工事をしてくれた大工さんも「2人じゃ大変でしょ」、っていろいろな作業を手伝ってくれたり。本当にたくさんの人のサポートをいただいています。

岸:サウナのフリードリンクで提供している高萩の花貫フルーツほおずきを使ったサイダーのシロップも、地元の加工場が協力してくれているんです。これから徐々に販売もできたらいいなと思っています。

―地元の事業者や住民の方とのつながりもできているんですね。保護犬や保護猫に関する活動もされているようですが、そのあたりはいかがでしょうか?

岸:今ケージにいる仔猫は1週間前に保護しました。保護した犬はずっとつながれ放置されていた状態でした。今はホームページでの公開と知人経由での里親募集をしています。

―今後、この場所をこうしていきたい、というような希望などはありますか?

山形:将来的には、訪れた人同士が繰り返し交流して、大きな家族のように循環する場として育っていったらいいなと思っています。例えば私たちに興味を持ってくださって、それをきっかけに、次の担い手として運営をしていきたいという人が来てくれてもいいです。私たちは、訪れた人にあれこれ説明するのではなく、あくまで「地域と訪れた人の案内役」でありたいんです。
ひとりはもちろん、子ども、ペット、誰とでも訪れられる秘密基地でありながら、一人ひとりが自立し互いを尊重しあえる空間にしていきたいですね。

Topへ