茨城県北クリエイティブプロジェクト

「うまくいかないのが普通」経験を次に活かす 日立で挑戦と発信を続ける内山味噌店

茨城県日立市南部、奈良時代に編纂された常陸国風土記で「密筑(みつき)の大井」として記された「泉が森湧水地区」のそばにある「みずきの庄」(味噌蔵「内山味噌店」の直売所)。日々多くの来店客でにぎわいを見せています。

1872年、文明開化によって世の中が変化しながらも、暮らしの中には江戸時代からの習慣が残るという新旧の文化が入り交じる中、味噌蔵「内山味噌店」の歴史は始まります。
水木の浜での漁を生業としていた庄之丞翁(しょうのじょうおきな)が、隠居仕事として味噌・醤油の醸造を始め、当時貴重な米をふんだんに使い、「古式大豆玉麹造り」という複雑な作業工程を要する醸造方法によって贅沢な味噌を完成させました。
いわゆる自家醸造が当たり前だった時代に、「本当に良い味噌を造ろう」と取り組んだ「古式醸造みそ」と共に、庄之丞翁の情熱と、時代の流れの中で挑戦し続ける姿勢は今でも脈々と受け継がれています。
今回は、味噌の製造販売だけでなく、味噌を土台にした「味噌スイーツ」や「甘酒」、「食パン」、「フルーツサンド」の事業を展開する6代目当主の内山庄栄さんに県北で続ける挑戦について伺いました。


文・写真=高木真矢子
取材:2021/10/19

ー内山味噌店さんは、さまざまな事業を手掛けているとウェブサイトなどでも拝見しました。改めて、現在展開されている具体的な事業を教えてください。

内山:味噌と麹を利用した発酵食品の製造販売、麹を使った食パン専門店「うち山」、フルーツサンド専門店「otofui(オトフル)」などを手掛けています。

ーフルーツサンド専門店は10月に2店同時オープンされたばかりですね。「内山味噌店」では、以前からこのような形で味噌以外の多角的な経営をされていたのでしょうか?

内山:そうですね。このように味噌以外の展開をするようになったのは、私が平成15年に跡を継いでからですね。平成18年くらいに、味噌と麹というその当時の主力商品だったものを生かした発酵食を展開していこうと試行錯誤が始まりました。僕らなりの発酵食へのこだわりがあるんですが、僕らの味噌や味噌蔵として手掛ける発酵食品の魅力というものを多くの方に知っていただく、ということを事業の柱にしています。

ー平成18年ころ、とのことですが、その頃にどんなきっかけがあったのでしょうか?

内山:平成のはじめのころから兆候はあったんですが、私が社長になる前後から、地域に量販店やスーパーなどの大手の流通企業が進出してくるようになったという背景があります。それまでは、地域の商店、例えば米屋さんだとか酒屋さんだとかがまちの中にあったんですが、その頃から価格競争であるとか取引先の減少だとか、大きな流通形態の変化によって廃業していく商店があって・・・僕ら味噌蔵もやはりそういった状況に直面したんです。

ーそうだったんですね。

内山:毎年毎年少しずつ取引先が減っていくのを体感しました。大手の流通が入ってくれば取引先に「こだわっています」と言っても大手の味噌屋さんとどう違うの?と聞かれるんですよね。そんな時、今までの商店って流通は地域に限定されていたので、地域で効率よく作って売るっていうところで伸ばしてきたんですけど、でも、流通が発達すると、効率よく作るのはメーカーです。結局変えられるのは原料ぐらいですよね。どこどこの原料を使ってますからとか、地元の使ってますから、というくらいでは、やっぱり価格競争に負けてしまう。

ーそんな中で、大手と戦えないと判断をしたときに、どう転換していこうというふうに考えたんでしょうか?

内山:そうですね。僕らが作っているのは「古式醸造」という創業以来の造り方の味噌なんですが、そこは、味噌を売るというよりも、まずは僕らの造る味噌や麹を知っていただくということが大事だと考えました。
伝統的な味噌醸造を守り続ける一方で、味噌・麹などの発酵食品を生かした食文化を築き、発信していきたい、と。

ーまずは「知ってもらう」発信ですね。

内山:ええ。味噌って、やっぱり家庭で味噌汁にすることが多いので、おいしい、まずいって中々わかりづらいんですよね。日本酒だったら、飲んですぐ、おいしいとか、自分に合う・合わないが分かりますけど、味噌はそれが難しい。そういう意味で、おいしさをわかってもらうには、料理として提供した方がいいだろうと考え、平成18年に「味噌カフェ」という名前で味噌料理を洋風に提供するレストランを始めました。味噌料理は和食の料理が多いですが、現代の食生活にマッチした提供をということで、オムライスのデミソースに味噌を入れたり、プレートのサラダのドレッシングに味噌を使ったりして、そこから徐々に味噌だけでない発酵食を取り入れていきました。その料理に味噌汁を添えて、「味噌汁もおいしい店」として、販売所(直売所)でレストランの帰りに買っていただくという販売の仕方をまずはやってみました。

ー転換の一歩目ですね。ちなみに味噌蔵は当時どれくらいあったんでしょうか?

内山:当時が茨城県内で30軒、今は15軒ほどですね。今年も、自分の代で終わりにします、という連絡がありました。
そのような流れはありますが、日本人にとって味噌は必要ですし、なくなることはないです。でも、「地域の味噌」はあってもなくてもどちらでもいいという現状です。やっぱり僕はそこをなんとかしたい。

ーそこからどのように進んでいったんでしょうか?

内山:今は一昔前と違って3食味噌汁を飲む食生活ではありません。10年ほど前に、日本人の朝食のご飯食とパン食の割合がクロスしたんです。そういった中でまた業界的にも危機感があって、ジャムのようなものを造ろうだとか、パンに合う味噌製品を造ろうとか工夫をした時期もありました。でも、うまく世の中に広まる製品はなかなかなくて。だけど、ここ数年、味噌だけでなく、麹も含めて発酵食品への興味関心が高い。そこである時、ふと僕らが持ってる麹の技術で何か作れないかという風に考えました。たまたまパン職人の方と話している時に、「パンの原料って何?」ときいたら、小麦と塩と酵母と水だというんです。あれ、味噌って、大豆と塩と麹菌と水で似ているよね、と。

ーパンに合うもので考えていたら、パンそのものにたどり着いたんですね。

内山:ええ。そこからそのパン職人さんに、麹を天然酵母として活用できないか相談して開発が進んでいきました。

ーパン自体の製法などはやはりこだわりがあるのでしょうか?

内山:甘みだけでなく、旨味を付与させるというところを一つの特徴としています。味噌蔵で培われた麹種酵母を生かした食パンは、「甘酒のような優しい甘み」と「独特の弾力ある柔らかさ」があります。味噌の使用というところでは限りがあるので、より麹に着目したというところです。そういった麹の良さをお客様に知っていただくことが購入にもつながるんじゃないかなと思っています。

ー県北、日立ならではのものというものは何かありますか?

内山:僕らはどの製品づくりでも、水というものをとても重要視しているんですが、水源域は「泉が森湧水地区」と呼ばれていて、環境省が選定した『平成の名水百選』にも全国各地の「名水」と共に茨城県で唯一選ばれているほどのものです。一般的に水道水は硬度が30~40程度の軟水なんですが、当社の仕込水である「泉が森」の水は硬度が140~150もある硬水で、カルシウムや各種ミネラル分が豊富です。この硬水が微生物の発酵活動を促して、旨みの深い味わいを生み出しています。
そういった水を利用して製品化できるという部分でも、この地域はすごく恵まれているなって感じますね。

ー今、伺っているだけでも本当に多くの挑戦をされてきているなと感じています。折れないとか、諦めないとか、そういったマインドはどうやって育まれているんでしょうか?

内山:なんでしょうね。とりあえずこういうのはどうかなって、思ったことをまずやってみるという感じなんですよね。食パンへの挑戦の間にも、「甘酒」や「みそプリン」にもチャレンジしてきました。
味噌はどうしても味が強いので製品化しづらいので、味噌味にするのではなく、濃厚さみたいなものを表現できればいいかなと、麹の割合が高くて塩分が少し低い甘味噌というものを作ってプリンに使いました。「みそプリン」とか、「甘酒」、「食パン」だとかって、これはたまたま少しうまくいった感じのものだけなんですけど、このほかにうまくいっていないものも無数にあります。だから、僕のマインドは「やってもうまくいかないのが普通」がまずベースにあります(笑)。でも、うまくいかなくても、それが一つの経験となって、次の開発に活かされるっていうところですね。

ー「やってもうまくいかないのが普通」気が楽になりますね。

内山:そうですね。僕はもう6代目になった時点で味噌屋という感覚はもう既になくて、「味噌と麹を使って、発酵食品として商品を提供する企業」と思っています。味噌屋だと味噌を使わなきゃいけない、できるだけ多く売らなくちゃいけないというマインドになっちゃうんですけど、僕らは僕らが持っている技術で「発酵食品の魅力を創造する」というのが使命であり、やるべきことだと捉えてるんです。だから、それを生かして何ができるかっていうことですね。

ーさまざまな事業を展開されていますが、今後、例えば約10年後の2030年ころのイメージや今後の展望はいかがでしょうか?

内山:そうですね。お客様がいるところに行くっていうのは商売の基本ではあるので、県北以外でも展開していくと思います。一方で、やはり、ここ(日立市水木)は創業の地ですから、私たちの造る味噌やパンはもちろん、この地域を発信していく使命はあると思っています。
発酵食の魅力を広げたいという思いが強いので、日常の製品にもっと広げていきたいですし、ドリンクなどの展開もやってみたいです。
長年味噌で培ってきた発酵技術をしっかり守りつつ、時代に合わせてこの地からどんどん挑戦も、発信もしていきたいですね。

みずきの庄(内山味噌店オンラインショップ)

Topへ