バイオシミラーの理解とコストへの影響
- 三浦 梨沙
- 26 12月 2025
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バイオシミラーとは、すでに市場に出ているバイオ医薬品と非常に似た効果を持つ薬です。でも、化学薬品のジェネリックのように「同じ成分」ではありません。バイオ医薬品は、酵母や細胞など生きているものから作られる複雑な分子で、製造過程が微妙に違うと、最終的な薬の性質も少し変わります。だから、バイオシミラーは「コピー」ではなく、「非常に似たもの」なのです。
バイオシミラーはなぜ生まれたのか
2009年にアメリカで制定された「バイオロジックス価格競争・革新法(BPCIA)」が、バイオシミラーの道を開きました。それまで、バイオ医薬品は特許保護が12年間あり、他社が真似できない状態でした。その結果、薬の価格は非常に高くなりました。たとえば、関節リウマチや炎症性腸疾患の治療に使われる「ヒュミラ」は、月額7,000ドル(約100万円)以上もする薬でした。 バイオシミラーは、この高価格の壁を壊すために生まれました。FDA(米国食品医薬品局)は、バイオシミラーが「臨床的に意味のある違い」がないことを科学的に証明すれば、承認できるようにしました。2015年に世界で最初のバイオシミラー「ザルクシオ」が承認されてから、2023年10月までにアメリカでは45製品が承認されています。ジェネリックとどう違うの?
ジェネリック薬は、化学的に完全に同じ成分で、製造もシンプルです。だから、価格は80〜85%も下がります。でも、バイオシミラーは違うのです。 バイオ医薬品は、細胞を育てて、その細胞が作るタンパク質を精製して作ります。このプロセスは、温度、pH、培地、時間など、数百の条件で影響を受けます。だから、同じ製造工場でも、同じ薬でも、少しずつ違うことがあります。バイオシミラーは、その「わずかな違い」が患者の安全や効果に影響しないことを、何百もの分析試験と臨床試験で証明しなければなりません。 結果として、バイオシミラーの価格下がり幅は、最初は15〜30%程度です。ジェネリックほどではありませんが、それでも大きな節約になります。ヒュミラのバイオシミラーが2023年に登場したとき、価格は28%下がって月額5,054ドルになりました。これは、患者の自己負担を大きく減らす可能性があります。安全で効果があるの?
「本当に同じ効き目なの?」という疑問は、誰もが持つ自然な疑問です。 FDAは明確に言っています。「バイオシミラーは、元の薬と同等に安全で効果的です。」これは、数万人を対象にした臨床試験の結果に基づいています。ノル・スウィッチ試験(2016年、ランセット誌)では、リウマチの患者がバイオシミラーに切り替えても、免疫反応の増加や効果の低下は見られませんでした。 アーティリトリス財団の2022年の調査では、1,200人の患者のうち87%が「バイオシミラーと元の薬で効果に違いを感じなかった」と答えています。72%は「自己負担が減った」とも述べています。 それでも、患者の中には不安を感じる人がいます。Redditのリウマチコミュニティでは、多くの患者が「切り替えたら効かなくなるのでは?」と心配しています。でも、専門医のコメントによると、「10〜15分、ちゃんと説明すれば、ほとんどの患者は納得する」とのことです。科学は味方です。不安は、情報不足から来ています。
「代替可能」って何?
バイオシミラーには、2つの種類があります。 - 通常のバイオシミラー:医師が「これに変えてください」と指示しないと、薬局では元の薬を出してくれます。 - 「代替可能」バイオシミラー:医師の指示がなくても、薬局が元の薬の代わりに提供できるもの。 2023年7月、FDAはヒュミラの最初の「代替可能」バイオシミラー「ハイリモズ」を承認しました。これは大きな転換点です。今後、薬局で「ヒュミラ」の代わりに「ハイリモズ」が自動的に渡されるようになる可能性があります。 ただし、アメリカの48州では、バイオシミラーの代替には医師の同意が必要です。これは、患者の安全を守るためのルールです。日本でも、今後同様のルールが導入される可能性があります。なぜアメリカよりヨーロッパで普及しているの?
ヨーロッパでは、2006年に世界で最初のバイオシミラーが承認されています。今では、フィルグラスチム(ネウポゲン)の市場の84%がバイオシミラーで占められています。 アメリカでは、同じ薬で28%しかシェアがありません。なぜ? 理由は2つあります。 1. 特許の戦い:製薬会社は、バイオシミラーの参入を防ぐために、複雑な特許を次々に申請して、市場を長く独占しようとしています。これを「プロダクトホッピング」と言います。 2. 薬価交渉の仕組み:アメリカの医療保険は、薬の価格を直接コントロールできません。保険会社や薬価管理会社(PBM)が、製薬会社と裏で契約して、高い薬を優先的に使うように仕向けているのです。 ヨーロッパは、政府が薬価を直接決めます。だから、安いバイオシミラーが自然に選ばれます。日本ではどうなる?
日本でも、バイオシミラーの承認は進んでいます。2023年時点で、リウマチやがんの治療薬のバイオシミラーが複数承認されています。 しかし、普及はゆっくりです。理由は、医師の理解不足と、保険制度の構造にあります。日本では、医師が薬を処方する際に「新薬」を選ぶ傾向が強く、バイオシミラーは「実績が少ない」と思われがちです。 でも、実際には、欧米のデータが日本でも通用します。厚生労働省も、バイオシミラーの有効性と安全性を認めています。今後は、医療現場での教育と、保険点数の見直しが鍵になります。
コスト削減の本当の意味
バイオシミラーの最大の価値は、「患者の自己負担を減らすこと」です。 ヒュミラの月額100万円が、70万円に下がれば、年間360万円の負担が250万円に。1年で110万円の節約です。これは、治療をやめてしまう人の数を減らす力を持っています。 さらに、2024年からアメリカのメディケアPart Dでは、バイオシミラーの自己負担が25%に引き下げられます。これは、高齢者の負担を劇的に減らす政策です。 日本でも、同じ方向性が求められます。医療費の増加は、もう避けられません。バイオシミラーは、その中で「質の高い治療を守りながら、費用を抑える」唯一の現実的な手段です。これからどうなる?
2025年には、ステララ(ウステキヌマブ)やオレンチア(トシリズマブ)といった、年間売上1兆円を超える大物バイオ医薬品のバイオシミラーが次々と登場します。 市場規模は、2022年の93億ドルから、2028年には333億ドルにまで膨らむと予測されています。 一方で、「バイオベター」と呼ばれる、元の薬よりもさらに効果の高い次世代薬も開発中です。これは、バイオシミラーと競合する存在になるかもしれません。 でも、重要なのは、どれだけ多くの患者が、安くて安全な治療を受けられるかということです。バイオシミラーは、それだけの可能性を持っています。患者が今できること
もし、あなたや家族がバイオ医薬品を使っているなら、次のことを考えてみてください。- 現在の薬が、バイオシミラーの対象かどうかを医師に確認する
- 保険がバイオシミラーをカバーしているか、自己負担がいくらか調べる
- 「代替可能」かどうかを薬局に聞いてみる
- 不安があれば、FDAや日本薬剤師会の公式サイトで情報を確認する
バイオシミラーは元の薬と効果が同じですか?
はい、FDAとEMA(欧州医薬品庁)は、バイオシミラーが元のバイオ医薬品と「臨床的に意味のある違いがない」と認定しています。数万人規模の臨床試験で、効果や安全性に差がないことが確認されています。アーティリトリス財団の調査でも、87%の患者が「違いを感じなかった」と答えています。
バイオシミラーはなぜジェネリックより安いけど、もっと高いの?
ジェネリックは化学的に完全に同じ成分で、製造が簡単なので、価格が80%以上下がります。でも、バイオシミラーは生きている細胞から作られる複雑な分子なので、製造に何十億円もかかり、検証にも何年もかかります。そのため、価格下がり幅は15〜30%程度に抑えられています。しかし、市場が広がれば、さらに下がる可能性があります。
バイオシミラーに切り替えたら、副作用が増えるの?
いいえ。大規模な研究(例:ノル・スウィッチ試験)では、バイオシミラーへの切り替えで免疫反応や副作用が増えることはありませんでした。FDAは、バイオシミラーの安全性を「元の薬と同等」と明言しています。不安があれば、医師にデータを確認してもらいましょう。
日本ではバイオシミラーは使えるの?
はい、日本でも複数のバイオシミラーが承認されています。リウマチ、がん、炎症性腸疾患の治療薬として使われています。ただし、医師の認知度や保険の適用ルールがまだ整備途中で、普及はアメリカやヨーロッパより遅れています。今後は、医療現場での教育と保険制度の見直しが重要です。
バイオシミラーの価格はどのくらい下がるの?
初めは15〜30%程度の価格低下です。例えば、ヒュミラの月額価格が7,000ドル(約100万円)から、バイオシミラーは5,054ドル(約70万円)に下がりました。市場に競合が増えれば、さらに下がる可能性があります。アメリカでは、2024年からメディケアの自己負担が25%に引き下げられ、患者の実質負担はさらに減ります。
薬局で勝手にバイオシミラーに変えてもらえるの?
アメリカでは、「代替可能」と認定されたバイオシミラーなら、医師の許可なしに薬局が差し替えられます。日本では、まだこの制度は導入されていません。現在は、医師が「バイオシミラーに変更」と明示しないと、元の薬が処方されます。今後の制度変更に注目が必要です。