複数の薬を安全に使う方法:重複成分を避ける
- 三浦 梨沙
- 17 11月 2025
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複数の薬を安全に使う方法:重複成分を避ける
あなたは、風邪の薬と痛み止めを一緒に飲んだことがありますか? もしかしたら、それらに同じ成分が含まれているかもしれません。それが原因で、肝臓にダメージを受けて入院した人もいます。日本でも、高齢者の多くが複数の薬を飲んでいます。厚生労働省の調査では、65歳以上の約4割が5種類以上の薬を日常的に服用しています。その中で、実は「同じ成分が重複している」ことが原因で起きる副作用が、非常に多く報告されています。
なぜ重複成分は危険なのか
重複成分とは、違う名前の薬に同じ有効成分が含まれていることです。例えば、痛み止めの「アセトアミノフェン」は、処方薬の「ビコディン」にも、市販の「タイレノール」や「コンタック」にも入っています。患者は「違う薬だから大丈夫」と思いがちですが、両方飲むと、1日で許容上限を超える量を摂取してしまうことがあります。
米国疾病対策予防センター(CDC)のデータでは、65歳以上の高齢者が、重複成分による入院の65%を占めています。アセトアミノフェンの過剰摂取だけで、米国では年間5万6千人が救急搬送されています。日本でも、同じ問題が起きています。特に、風邪薬、花粉症薬、睡眠薬、痛み止めの組み合わせで、眠気やめまい、肝機能障害、胃出血が起こるケースが増えています。
問題は、薬のラベルに「他の薬と重複する成分」が明確に書かれていないことです。FDAの調査では、処方薬の45%が、市販薬と成分が重複していることを明示していません。さらに、患者の半数以上が、漢方薬やサプリメントを医師に話していません。これらも、重複成分の原因になります。
重複成分が起きやすい薬の種類
特に注意が必要な成分は、以下の5つです:
- アセトアミノフェン:痛み止め、解熱薬、風邪薬に広く使われています。肝臓に負担がかかり、過剰摂取で肝不全を引き起こす可能性があります。
- ジフェンヒドラミン:眠気を誘う成分で、花粉症薬、風邪薬、睡眠補助薬に含まれます。高齢者では幻覚や認知機能低下の原因にもなります。
- フェニレフリン・ pseudoephedrine:鼻づまりを解消する成分。血圧を上げる作用があり、心臓病や高血圧の人が飲むと危険です。
- NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬):イブプロフェン、ロキソプロフェンなど。胃潰瘍や腎臓への負担が大きく、複数の薬で重複すると出血リスクが高まります。
- 抗コリン作用のある成分:尿トラブルや認知症の薬に多く、記憶力低下や排尿困難を引き起こします。
日本では、2023年に「ベアーズ・クライテリア」の日本版が改訂され、これらの成分の重複リスクが明確に指摘されています。特に、高齢者が同時に飲むと危険な組み合わせが15パターン以上、リストアップされています。
重複成分を防ぐための5つの行動
この問題は、医療従事者の責任だけではありません。患者自身が行動すれば、89%は防げます。次の5つを、今日から始めてください。
- 薬のリストを常に持つ
処方薬、市販薬、漢方、サプリメントをすべて書き出してください。薬の名前、用量、服用時間、処方医の名前を記入します。スマホのメモでも構いませんが、財布や手帳に印刷したものを入れて、病院に行くたびに見せましょう。 - すべての薬を同じ薬局で調剤する
複数の薬局を使っていると、薬剤師が他の薬の情報を把握できません。1つの薬局に統一すれば、システムが重複成分を自動でチェックしてくれます。研究では、この方法で重複リスクが63%減りました。 - 新しく薬をもらうとき、必ず「他の薬と重複しないか?」と聞く
「この薬は、私の他の薬と一緒だと危険ですか?」と、薬剤師に直接尋ねてください。薬剤師は、薬の成分を熟知しています。調剤の際に、87%のケースで重複を発見できます。 - 年1回、すべての医師に薬のリストを渡す
内科、整形外科、精神科、歯科…複数の医師にかかっているなら、それぞれに同じリストを渡しましょう。医師は「あなたの薬はどれ?」と聞かないことが多いですが、あなたから渡すことで、診断と薬の整合性が保てます。 - 市販薬を買うとき、成分表を必ず読む
「風邪薬A」と「風邪薬B」は、名前が違っても、成分は同じです。パッケージの「有効成分」欄を、指でなぞって確認してください。2025年までに、すべての市販薬は成分を太字で明確に表示するよう義務づけられます。それまでは、自分で確認するしかありません。
医療現場の変化と、あなたにできること
日本でも、電子カルテに「薬の重複チェック」機能が導入され始めています。大手医療機関では、処方された薬と患者が飲んでいる市販薬を照合するシステムが、2023年までに87%の病院に導入されました。しかし、そのうち43%は、サプリメントや漢方薬をまだ追えていません。
Apple HealthやGoogle Healthなどのアプリも、2023年から薬の重複を警告する機能を搭載しました。iPhoneの「ヘルス」アプリに薬を手入力すれば、アセトアミノフェンやジフェンヒドラミンが重複していると、赤いアラートが表示されます。これは、高齢者だけでなく、家族がサポートするのにも役立ちます。
でも、一番効果があるのは、あなたが「自分の薬を知ること」です。医師や薬剤師に頼るだけでは、防げない事故がたくさんあります。あなたの命を守るのは、あなた自身の行動です。
実際の体験談:重複成分で救急搬送された人
大阪で暮らす71歳の女性は、風邪をひいて市販の「鼻づまり用薬」と「痛み止め」を飲みました。その両方に「フェニレフリン」が含まれていたことに気づかず、血圧が急上昇。救急車で運ばれ、入院しました。薬剤師が調べると、彼女が飲んでいた3種類の薬すべてに、同じ成分が入っていました。
「薬の名前が違うから、大丈夫だと思った…」
彼女の言葉は、多くの人の心に響きます。同じような事故は、毎日どこかで起きています。でも、それは「運が悪かった」のではなく、「知らなかった」から起こった、予防可能な事故です。
複数の薬を飲んでいる場合、何をチェックすればいいですか?
まず、自分が飲んでいるすべての薬をリストアップしてください。処方薬、市販薬、漢方、サプリメントをすべて含めます。次に、それぞれの薬の「有効成分」を確認します。アセトアミノフェン、ジフェンヒドラミン、イブプロフェン、フェニレフリンの4つは特に注意が必要です。同じ成分が2つ以上ある場合は、医師や薬剤師に相談してください。
市販薬と処方薬の重複は、医師が気づいてくれないのですか?
多くの医師は、患者が市販薬やサプリメントを飲んでいることを知らないまま処方しています。日本では、患者が自ら報告しない限り、医師はそれらを問診しません。そのため、あなたが薬のリストを渡すことが、医師の判断を助ける唯一の方法です。診察のたびに、薬のリストを手渡す習慣をつけてください。
薬局で重複をチェックしてもらえるのは、どんなときですか?
新しく薬を処方されたとき、または市販薬を買うときに、薬剤師に「他の薬と重複しないか?」と聞くと、必ずチェックしてくれます。特に、薬局で「薬剤師による薬の使い方相談(薬剤管理指導)」を受けると、重複成分のチェックが標準的に行われます。これは無料で受けられるサービスです。年に1回は利用しましょう。
スマホのアプリで薬の重複をチェックできますか?
はい、iPhoneの「ヘルス」アプリや、Androidの「Google Health」アプリに薬を登録すれば、重複成分を自動で警告してくれます。また、日本でも「薬の手帳アプリ」が複数リリースされており、薬の成分をスキャンして重複を検出する機能があります。ただし、アプリは補助ツールです。最終的には、薬剤師や医師に確認することが不可欠です。
漢方薬やサプリメントも重複の原因になりますか?
はい、非常に大きな原因です。例えば、葛根湯には「ジフェンヒドラミン」に似た成分が含まれていることがあります。また、サプリメントの「睡眠サポート」には、アセトアミノフェンや抗ヒスタミン成分が混ざっていることもあります。これらは「自然だから大丈夫」と思われがちですが、薬と同じように体に作用します。医師や薬剤師には、漢方やサプリメントも「薬」として報告してください。
次にすべきこと
今すぐ、財布や手帳の中を確認してください。薬の袋や箱、サプリメントのパッケージが入っていませんか? それらをすべて出して、有効成分を書き出しましょう。そして、来週の診察のとき、それを医師と薬剤師に渡してください。
重複成分は、誰にでも起こりうる事故です。でも、あなたが「知る」ことで、防げる事故でもあります。あなたの命を守るのは、誰でもない、あなた自身の行動です。