乳幼児の熱さまし薬:アセトアミノフェンとイブプロフェンの安全性比較
- 三浦 梨沙
- 2 12月 2025
- 3 コメント
子どもが熱を出すと、親はすぐに薬をあげたくなるものです。でも、アセトアミノフェンとイブプロフェン、どちらをどれだけ与えればいいのか? どっちが安全なのか? これは毎日のように親たちが悩む問題です。
どちらも使えるけど、年齢で制限がある
アメリカ小児科学会(AAP)の2021年のガイドラインでは、アセトアミノフェンは生後3か月以上、イブプロフェンは生後6か月以上の乳児に使用することを推奨しています。それより小さい赤ちゃんには、医師の診断なしに与えないでください。理由は単純です:安全なデータが足りないからです。特に生後3か月未満の赤ちゃんは、肝臓や腎臓の機能が未発達で、薬の代謝が遅い。誤った用量で肝障害や腎障害を起こすリスクが高まります。
だからといって、6か月以上になったら両方とも安全というわけではありません。正しい用量を守ることが何より大事です。
用量は体重で決める。年齢じゃない
多くの親が「1歳だからこの量」と、年齢で薬の量を決めがちです。でも、これは大きな間違いです。薬の量は、体重で決まります。アメリカ小児科学会のデータによると、小児の薬の誤用量の68%は、年齢で決めた結果です。
アセトアミノフェンの標準用量は、1回あたり7〜15mg/kg。1日最大75mg/kgまでです。イブプロフェンは1回4〜10mg/kg。1日最大40mg/kgまでです。たとえば、8kgの赤ちゃんなら、アセトアミノフェンは56〜120mg、イブプロフェンは32〜80mgが1回の用量になります。
市販の小児用シロップは、1mLあたり80mg(旧製品)と160mg(新製品)の2種類があります。2011年にFDAが濃度を統一して、誤用量を減らしましたが、古い製品を使っている家庭や、薬のラベルを読まない親がまだいます。必ずパッケージの「濃度」を確認してください。間違った濃度で与えれば、過剰摂取で肝不全になるリスクがあります。
熱を下げる効果はイブプロフェンの方が強い
2021年にアメリカ家庭医学会誌で発表された85件の研究をまとめたメタアナリシスでは、イブプロフェンの熱さまし効果がアセトアミノフェンより優れていることが確認されました。
薬を飲んでから4時間後に熱が下がった子どもの割合を比べると、イブプロフェンはアセトアミノフェンの1.86倍も効果的でした。6時間後では2.22倍。つまり、同じ体重の子どもに同じ量を与えた場合、イブプロフェンの方が熱が下がりやすいのです。
これは、イブプロフェンの薬の持続時間が長いからです。アセトアミノフェンは体内で1.25〜3時間で半分になりますが、イブプロフェンは1.8〜2時間。つまり、1回の投与で、より長く熱を抑えることができます。
痛み止めの効果はほぼ同じ。でも、持続性はイブプロフェンが上
熱を下げる効果はイブプロフェンが勝ちますが、痛み止めの効果はどうでしょうか?
2010年のコクランレビューでは、2時間・4時間後の痛みの軽減効果は両方でほぼ同じでした。しかし、2020年の別の研究では、4〜24時間後にイブプロフェンの方が痛みが少なかったという結果が出ています。特に、耳の感染症や歯の生え変わりによる痛みでは、イブプロフェンの方が長く効く傾向があります。
つまり、熱だけならどちらでもいいけど、熱+痛みがあるなら、イブプロフェンのほうが安心です。
副作用は?胃の不快感と喘息のリスク
イブプロフェンは、胃の不快感や嘔吐を起こす可能性がやや高いです。Redditの育児コミュニティでは、32%の親がイブプロフェンで胃の不調を経験したと報告しています。一方、アセトアミノフェンは胃への影響が少ないですが、別のリスクがあります。
2022年のヨーロッパ呼吸器学会のメタアナリシスでは、生後1年以内にアセトアミノフェンを使った子どもは、喘息を発症するリスクが1.6倍高くなる可能性があると報告されています。原因はまだ完全には解明されていませんが、体内の酸化ストレスや免疫反応の変化が関係していると考えられています。
腎臓への影響も心配されましたが、2014年の大規模な研究では、両方の薬で腎障害の発生率に差はないと結論づけられています。つまり、正しく使えば、どちらも安全です。
交互に使うのはやめたほうがいい
「熱が下がらないから、アセトアミノフェンとイブプロフェンを交互に使おう」というのは、多くの親の常套手段です。BabyCenterの調査では、63%の親がそうしていると答えています。
でも、これは危険です。アメリカ小児科学会は、医師の指示がない限り、交互使用を推奨していません。理由は2つあります。
- 1つ目:薬の投与タイミングが複雑になり、過剰摂取のリスクが高まる
- 2つ目:どちらの薬も1日最大用量を超える可能性がある
2023年の小児科学会の研究では、交互使用が4〜6時間後に熱を下げる効果を少し高める可能性はありますが、そのリスクはメリットを上回ります。特に、親が薬の用量を間違えやすいからです。
熱が長く続くなら、薬を変えるのではなく、医師に相談しましょう。
正しい飲み方:姿勢と計量器が命
薬の効果は、正しい量を飲ませることで決まります。でも、それ以上に大事なのが「飲み方」です。
Boston Children’s Hospitalの2023年ガイドラインによると、小児の薬関連の事故の22%は、飲み方のミスが原因です。たとえば、赤ちゃんを横に寝かせて薬を飲ませると、気道に流れ込んで窒息するリスクがあります。
正しい方法は:
- 赤ちゃんを座らせるか、背中を少し傾けて抱く
- 必ず付属の計量器(シリンジやスプーン)を使う
- 薬を舌の奥ではなく、頬の内側に少しずつ垂らす
- 飲ませた後、水を少しずつ与えて薬を喉に流す
市販の薬の計量器は、設計が悪くて誤って量をはかってしまうことがよくあります。Amazonのレビューでは、41%の親が「計量カップが使いにくい」と不満を述べています。必ず薬の容器に付いているものを使い、他のスプーンやコップで計らないでください。
大人用の薬は絶対に使わない
2022年のアメリカ中毒対策センターの報告によると、小児の薬物中毒の17%は、大人用の薬を間違えて与えたことが原因です。
大人用のアセトアミノフェンは、1錠あたり325mg〜650mg。赤ちゃんに1錠与えたら、致死量を超えます。イブプロフェンも同様です。1錠で腎不全を起こす可能性があります。
「大人用の薬を半分にすればいい」と思うかもしれませんが、それは危険です。薬の濃度や吸収速度は子どもと大人で全く違うからです。
市販薬の選び方:ブランドより用量と濃度
「タイレノール」「モーティン」などのブランド名が有名ですが、実は76%の親がジェネリック薬を使っています。価格も安いし、有効成分は同じです。
2023年のIQVIA調査では、アセトアミノフェンの市場シェアは58%、イブプロフェンは42%です。都市部の親はイブプロフェンを好む傾向があり、地方ではアセトアミノフェンが主流です。これは、医師の推奨の違いや、薬局での勧め方の違いによるものです。
でも、ブランド名ではなく、ラベルの「有効成分」と「濃度」を見て選びましょう。たとえば:
- アセトアミノフェン:1mLあたり160mg(最新規格)
- イブプロフェン:1mLあたり100mg(標準)
古い製品(1mLあたり80mg)は、もう流通していませんが、実家に残っている可能性があります。古い薬は捨てて、新しいものに買い替えてください。
薬以外の対処法も大事
薬は、熱を下げるための「補助」です。根本的な対処は、体を冷やしすぎず、水分をしっかり与えることです。
- 厚着をさせない。汗をかいたら着替えさせる
- 水分をこまめに与える。母乳・ミルク・水・イオン飲料
- 冷やしすぎはNG。氷枕や冷やしタオルは、額やわきの下に軽く当てる程度
- 機嫌が良くて、ミルクを飲めて、尿が出ているなら、様子見でOK
熱が39℃以上でも、子どもが元気なら、すぐに病院に行く必要はありません。しかし、以下のような症状があれば、すぐに受診してください:
- 2か月未満の赤ちゃんが38℃以上の熱
- ぐったりしている、反応が悪い
- 呼吸が速い、苦しそう
- 痙攣を起こした
- 尿が12時間以上出ていない
今後の動向:2025年にガイドラインが更新される
アメリカ小児科学会は、2025年1月に小児の熱の対処ガイドラインを更新する予定です。特に注目されるのは、生後6か月未満の赤ちゃんへの薬の使用に関する新しいデータです。
現在、2024年から2025年にかけて、ボストン小児病院で「PAIN-RELIEF試験」という大規模な臨床試験が進行中です。1,200人の赤ちゃんを対象に、正確な体重ベースの用量を比較しています。結果は2024年後半に発表される予定です。
一方で、アセトアミノフェンと小児喘息の関連については、FDAが2024年から本格的に調査を進めています。将来的には、アセトアミノフェンの使用制限が強まる可能性もあります。
でも、現時点では、正しい用量で正しく使えば、アセトアミノフェンもイブプロフェンも、どちらも安全で効果的な薬です。不安なら、薬剤師に「体重は何kgですか?」と聞けば、正しい量を教えてくれます。薬は、親の判断で勝手に使うものではありません。子どもを守るのは、知識と冷静さです。
コメント
Yoshitsugu Yanagida
イブプロフェンの方が効くって、それなら最初からこれだけでいいじゃん。
12月 4, 2025 AT 02:54
Kensuke Saito
アセトアミノフェンと喘息の関連は研究の相関でしかなく因果関係は証明されてないよ
12月 4, 2025 AT 04:19
aya moumen
でも…でも…私の子がアセトアミノフェン飲んだら咳が止まらなくて…泣いてるのを見ると心が壊れそう…涙が止まらないの…
12月 5, 2025 AT 21:56