認可ジェネリック:特許満了に対するブランド製薬会社の対応

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特許が切れるとき、ブランド薬の製造会社はただ待っているわけではありません。むしろ、その直前に認可ジェネリックを市場に投入する戦略を取るのが普通です。これは、ブランド名を外した同じ薬を、自社で安く売ることで、ジェネリックメーカーの参入を抑え、収益を守るための仕組みです。

認可ジェネリックとは何か

認可ジェネリックは、ブランド薬と同じ成分、同じ配合、同じ製造工場で作られた薬です。パッケージにはブランド名がなく、代わりに「ジェネリック」と表示されているだけ。でも、中身はまったく同じ。有効成分も、添加物も、色や形の違いさえも、ブランド薬と完全一致しています。

これは、普通のジェネリックとは大きく違います。普通のジェネリックは、有効成分が同じであれば、添加物は変えてOK。でも認可ジェネリックは、ブランド薬の「コピー」そのもの。FDAの公式見解では、「認可ジェネリックは、ブランド薬と同じ薬物である」と明言されています。

なぜこんなことが可能かというと、認可ジェネリックは、ブランド薬の新薬申請(NDA)の下で販売されるからです。ジェネリックメーカーが提出する「簡略新薬申請」(ANDA)は必要ありません。製造元がブランド薬のNDA所有者である限り、FDAに通知するだけで販売できます。そのため、認可ジェネリックはFDAのオレンジブックには載っていません。

なぜ特許満了前に動き出すのか

アメリカの医薬品市場では、特許が切れた直後に最初のジェネリックメーカーが180日間の独占販売権を得ます。この期間、他のジェネリックメーカーは市場に入れず、価格は下がりにくい状態になります。

ここでブランドメーカーが登場します。180日間の独占期間が始まる前に、自社で認可ジェネリックを売り始めるのです。するとどうなるか? 他のジェネリックメーカーは、すでに「自分と同じ薬」が市場に出ていることに気づきます。価格競争が起き、結果的に患者の負担は減ります。

連邦取引委員会(FTC)の2011年の調査では、認可ジェネリックが導入された市場では、180日間の価格が15~20%低かったことが示されています。つまり、ブランドメーカーが「自分たちで競争を起こす」ことで、消費者は安くなるのです。

認可ジェネリックと普通のジェネリックの違い

認可ジェネリックと普通のジェネリックの比較
項目 認可ジェネリック 普通のジェネリック
成分 有効成分・添加物すべて同じ 有効成分は同じ、添加物は異なる場合あり
承認プロセス NDAの下で販売、FDA通知のみ ANDAによるバイオ同等性証明が必要
FDAオレンジブック掲載 されない される
製造元 ブランドメーカーまたはその子会社 独立したジェネリックメーカー
Colcrysの認可ジェネリック(Prasco) メトホルミンのジェネリック(Tevaなど)

特に治療範囲が狭い薬(例:甲状腺ホルモン薬、抗てんかん薬)では、添加物の違いが効果に影響する可能性があります。そのような薬では、認可ジェネリックが安定した治療を続けるために重要になるのです。

薬局の棚前で困惑する患者たちの間に、全く同じ薬を握る薬剤師が立つシーン。

患者と薬剤師の混乱

しかし、このシステムには大きな問題があります。それは「患者の混乱」です。

多くの患者は、薬局で「ジェネリック」と言われて受け取った薬が、ブランド薬とまったく同じ見た目だったとき、「これは本当にジェネリックなの?」と疑問に思います。実際、Drugs.comのレビューには、「ブランドと同じ見た目なのに、ジェネリックって書いてある…これは詐欺?」という声が多数あります。

薬剤師の調査(US Pharmacist、2020年)では、68%の薬剤師が、認可ジェネリックの説明に苦労していると答えています。患者が「ジェネリックは安いけど、効きが悪い」と思っている場合、認可ジェネリックは「同じ薬なのに、なぜ安いの?」と逆に不信感を招くのです。

2021年の全米地域薬局協会の調査では、57%の薬局が、患者からの質問が増加したと報告しています。特に、FDAが2019年に認可ジェネリックのラベル表示を明確化した後、混乱はさらに広がりました。

薬局の現場での課題

薬局のシステムも、認可ジェネリックに対応しきれていない部分があります。オレンジブックに載っていないため、薬局のソフトウェアが「この薬はジェネリック」と自動判定できないのです。

多くの薬局では、認可ジェネリックを「特別なジェネリック」として手動で分類する必要があります。AmerisourceBergenの2022年のトレーニング資料によると、薬局の技術スタッフの73%が、2~3週間の追加教育を必要としています。

また、保険請求のエラーも発生します。41%の薬局が、認可ジェネリックの保険適用で問題が起きたと報告しています。Epic Systemsのような大手医療IT企業は、2021年のソフトウェアアップデートで「認可ジェネリック」を明示的にフラグ付けする機能を導入し、識別ミスを67%削減しました。

ブランド製薬会社の巨像がジェネリック市場に認可ジェネリックを放出し、患者たちがその恩恵を求めて手を伸ばす戦場の風景。

市場の実態と今後の動向

2010年から2019年までの10年間で、アメリカでは854種類の認可ジェネリックが導入されました(Health Affairs、2022年)。これは、ジェネリック全体の15~20%に相当します。

特に神経系疾患の薬(例:うつ病、ADHD、てんかん)では、67%のブランド薬が認可ジェネリックを導入しています。これは、添加物の違いが患者の反応に影響しやすいからです。一方、抗生物質では22%と、導入率は低めです。

2022年には、トップ50のブランド薬のうち38種が、特許満了から12ヶ月以内に認可ジェネリックを投入しています。Evaluate Pharmaは、2027年までに45%の主要ブランド薬が認可ジェネリックを持つと予測しています。

しかし、反対の声もあります。ジェネリック薬協会(GPhA)は、認可ジェネリックが「本当のジェネリックの市場参入を遅らせる」と批判しています。ハーバード大学のジェリー・アヴォーン教授は、2019年のJAMA論文で「これはブランドメーカーの市場操作であり、長期的には患者の利益にならない」と指摘しました。

一方、FTCは「認可ジェネリックは、価格を下げる効果がある」と結論づけています。2026年には、新たな調査結果が発表される予定です。今のところ、患者の多くは「同じ薬が安くなるなら、ありがたい」と思っています。Roperの2005年の調査では、80%以上のアメリカ人が認可ジェネリックを望んでいました。

結論:誰のための制度か

認可ジェネリックは、一見すると「ブランドメーカーの策略」に見えます。でも、結果として、患者の負担は減っています。価格が下がり、治療の安定性も保たれています。

問題は、情報が伝わっていないことです。薬剤師が正しく説明できず、患者が混乱する。それが、この制度の最大の弱点です。

今後は、薬局のシステムと、医療従事者の教育が鍵になります。認可ジェネリックは、単なる「安い薬」ではありません。それは、ブランド薬とまったく同じ薬を、より安く手に入れるための、複雑で巧妙な仕組みです。

あなたの薬が「ジェネリック」になったとき、それは単なるコピーではなく、同じ薬が、違うラベルで届いているだけかもしれません。それを知ることが、正しい選択につながります。