薬局で間違った薬を渡されたときの対処法

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薬局で渡された薬が、あなたの処方箋と違うものだったと気づいたら、すぐに行動することが生死を分けることがあります。日本でも、薬の誤剤は決して珍しい話ではありません。処方箋の読み間違い、薬のパッケージの混同、名前が似た薬の誤配--どれも実際に起こっているミスです。間違った薬を飲んでしまったら、どうすればいいのか? その手順を、医学的・法的観点から丁寧に解説します。

1. すぐに薬の服用をやめる

気づいた瞬間、その薬を飲むのをやめてください。たとえ「ちょっと違うだけ」「似たような薬」と思っても、絶対に飲み続けないでください。薬は化学物質です。間違った薬は、あなたの体に予期せぬ反応を引き起こす可能性があります。高血圧の薬を糖尿病の薬と間違えたら? 薬の効果が逆に働き、血圧が急激に下がって失神するケースもあります。抗凝固薬を間違えて飲めば、内出血のリスクが急上昇します。日本薬剤師会のデータでは、薬の誤配のうち、15%以上が「服用開始後数時間以内に異常症状が出た」事例です。一刻を争うのは、薬を飲んだかどうかではなく、「いつ気づいたか」です。気づいたら、即座に服用を中止してください。

2. 処方した医師に連絡する

薬局に連絡する前に、まずあなたの主治医に連絡してください。医師は、その薬が何であるか、あなたの体にどんな影響を与えるかを正確に把握しています。薬局は「薬を渡した」だけの立場ですが、医師は「あなた全体の健康」を管理している人です。連絡の仕方は、電話でもメールでも構いません。ただし、必ず「今、薬局で間違った薬を渡された」と明確に伝え、その薬の名前と見た目を説明してください。医師は、その薬の成分を確認し、すでに飲んでしまった分のリスクを評価します。必要なら「すぐに病院に来てください」「今夜は様子を見て、朝一番で受診してください」「今すぐ救急車を呼んでください」と指示します。特に、めまい、吐き気、皮膚の発疹、呼吸困難、意識の混濁などの症状があれば、迷わず救急受診してください。医師の判断が、あなたの命を守ります。

3. 薬局に連絡し、責任者と話す

医師に連絡した後、今度は薬局に連絡します。ただ「間違った薬を渡された」と伝えるだけでは不十分です。必ず「店長か薬剤師長」と直接話してください。店員は、ミスを隠そうとする可能性があります。責任者は、内部のミス報告システムを動かす権限を持っています。電話で伝えるだけでなく、内容をメモに残すことが重要です。日付、時間、話した人の名前、伝えた内容、相手の返答--すべて書き留めてください。薬局は、このミスを内部で「報告」しなければなりません。日本では、薬局の誤剤は「医療安全情報報告制度」に登録される義務があります。しかし、報告がされないケースも少なくありません。あなたが記録を残すことで、後で「本当に報告されたのか?」を確認できるようになります。

薬剤師が処方箋をめくっている様子、空中に誤った薬のイメージが浮かんでいる。

4. 薬と関連物を絶対に捨てない

これほど重要なポイントは他にありません。間違った薬の容器、薬のパッケージ、レシート、未使用の薬、空の瓶--すべてをそのまま保管してください。 これらは、あなたが「間違った薬を渡された」という事実を証明する唯一の証拠です。写真を撮っておくのも有効です。薬の名前が書かれたラベルと、薬の形や色をはっきりと写してください。薬局が「それは違う薬じゃないですよ」と言い出しても、証拠があれば反論できます。日本では、薬の誤配で損害賠償を請求する場合、この証拠の有無が勝敗を左右します。薬局が「返してください」と言っても、絶対に渡さないでください。証拠を渡せば、あなたが主張する事実が消える可能性があります。弁護士に相談する場合でも、この証拠がなければ、ほとんど対応してもらえません。

5. 薬の誤配を公的機関に報告する

薬局に連絡しても、改善されないケースがあります。薬局は「ミスをした」と認めても、再発防止策を取らないこともあります。その場合、公的機関に報告することが重要です。日本では、薬の誤配は「薬事・食品衛生審議会」や「都道府県の保健所」に報告できます。厚生労働省の「医療安全情報報告システム」にも、個人から直接報告が可能です。報告は匿名でも受け付けています。2023年の厚生労働省の調査では、薬局の誤配報告件数は年間約1,200件ですが、実際には10倍以上が報告されていないと推定されています。あなたが報告することで、他の人が同じミスに遭うのを防ぐことができます。報告は、あなたのためだけでなく、社会のための行動です。

女性が医療資料を持ち、壁に幻の犠牲者たちが浮かぶ病院の廊下。

6. 損害があれば、法律的な対応を検討する

間違った薬を飲んで、病院に通う必要が生じた、仕事に行けなくなった、長期の後遺症が残った--このような被害が出た場合、薬局に賠償を求める権利があります。日本では、薬局の誤配は「医療過誤」に該当する可能性があります。弁護士に相談する前に、次の3つの資料を準備してください:
  • 処方箋のコピー(医師が書いたもの)
  • 薬局で渡された薬の写真と容器
  • 医療費の領収書、診断書、休職証明
薬局の保険会社から「示談をしましょう」と連絡が来ることもありますが、必ず弁護士に相談してから返事してください。示談金は、医療費の実費だけを払う場合が多いです。しかし、後遺症や精神的苦痛、収入の損失を考慮すれば、それ以上を求めるべきです。2023年の日本医療過誤弁護士ネットワークの統計では、薬の誤配による賠償請求の平均額は約120万円、重い後遺症が残ったケースでは500万円以上が支払われています。薬局は、あなたが弁護士を立てた時点で、対応を本気で始めます。

7. 今後、薬の誤配を防ぐための習慣

薬局で間違った薬を渡された経験がある人ほど、次の3つの習慣を身につけています。
  1. 薬を受け取るとき、必ず「これは私の処方箋の薬ですか?」と確認する
  2. 薬の名前と、処方箋の薬の名前を、手元のメモと照らし合わせる
  3. 薬の形や色が前回と違う場合、すぐに薬剤師に「これは同じ薬ですか?」と聞く
薬剤師は、忙しくて確認を怠ることがあります。でも、あなたが「確認する人」であることで、ミスは防げます。薬局の店員は「確認します」と言いますが、実際には「薬の名前と数量」だけをチェックしているケースが多いです。薬の色や形、形状(錠剤かカプセルか)、刻印の有無--これらは、薬の正しさを判断する重要な手がかりです。たとえば、同じ成分でも、メーカーが違うと色が違うことがあります。それも「同じ薬」ですが、あなたが「前と違う」と気づけば、疑問を抱くきっかけになります。あなたの「疑う姿勢」が、命を守ります。

間違った薬のリスクは、意外に高い

厚生労働省の2023年報告によると、薬の誤配によって発生した緊急搬送件数は、年間で約2,100件に上ります。そのうち、37%は「高齢者」が対象です。高齢者は、複数の薬を飲んでいるため、薬の名前や形を混同しやすくなります。また、薬の効果が弱いと感じて「もう一錠飲もう」としてしまうことも、誤配のリスクを高めます。薬の誤配は「誰かのミス」ではなく、「システムの不備」です。薬局は、1日に数百の処方箋を処理します。人間がやる以上、ミスはゼロにはなりません。だからこそ、あなたが「自分自身の安全」を守る行動を取る必要があるのです。

間違った薬を飲んでしまった場合、どのくらいで症状が出ますか?

薬の種類によって異なります。降圧薬や糖尿病薬は、30分〜2時間でめまいや動悸、汗が出ることがあります。抗生物質の誤配では、アレルギー反応が数時間後に現れることがあります。一方、鎮痛薬やビタミン剤の誤配では、数日経っても症状が出ないこともあります。ただし、症状がなくても、体に負担がかかっている可能性があります。必ず医師に確認してください。

薬局が「間違いはなかった」と言い張ったらどうすればいいですか?

薬局が認めない場合、あなたが持っている証拠がすべてです。処方箋のコピー、薬の写真、レシート、医師の診断書--これらをまとめて、都道府県の保健所や薬事当局に正式に報告してください。薬局は、公的機関からの調査を恐れます。また、弁護士に依頼すれば、薬局の内部記録を法的に開示させることが可能です。必ず証拠を残しておきましょう。

薬の誤配で保険は使えますか?

健康保険は、治療費の一部を負担します。しかし、薬局のミスによる追加の医療費(たとえば、緊急受診や入院)は、薬局の保険が支払うべきものです。健康保険は「あなたが病気になった」場合に使うもので、「薬局がミスした」場合の補填には使えません。そのため、薬局に賠償を求めるべきです。健康保険を使って治療を受けた後、薬局にその費用の支払いを請求できます。

薬の誤配を防ぐために、薬局はどんな対策を取っていますか?

大手薬局では、バーコードスキャンシステムを導入しています。薬剤師が薬を渡す前に、処方箋のバーコードと薬のバーコードを読み取り、一致するか確認します。このシステムで、誤配は85%減るとされています。しかし、日本ではまだ半分以下の薬局で導入されています。また、高リスク薬(抗凝固薬、インスリンなど)では、二人で確認する「ダブルチェック制度」を導入している薬局もあります。でも、すべての薬局が徹底しているわけではありません。あなた自身が確認する習慣が、最も効果的な防衛策です。

薬の誤配で後遺症が残ったら、どうすればいいですか?

まず、長期的な治療が必要なら、医師に「この後遺症は薬の誤配が原因です」と診断書に明記してもらいます。次に、すべての医療記録と薬局の記録を保管してください。弁護士に相談し、賠償請求の手続きを進めます。後遺症の場合は、精神的苦痛や生活の質の低下も補償対象になります。示談ではなく、裁判で正しく賠償を求めることが重要です。多くのケースで、薬局は初期の示談金を低く提示しますが、弁護士を通せば、それ以上の金額が得られる可能性が高くなります。