錠剤やカプセルの湿気による劣化を防ぐ正しい保管方法
- 三浦 梨沙
- 3 2月 2026
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薬が湿気で劣化する仕組み
錠剤やカプセルが湿気でダメになる理由は、単に「濡れる」からではありません。薬の有効成分(API)は、水分と反応して化学的に分解する性質を持っています。この反応を「加水分解」といいます。たとえば、アスピリンは湿気に触れると酢酸とサリチル酸に分解され、胃を刺激する原因になります。ビタミンCも同様で、湿気と酸素の影響で急速に劣化し、効果が半減します。
日本のような高温多湿の環境では、特に注意が必要です。気温25℃、湿度50%の環境でさえ、数ヶ月で薬の有効成分が減少するケースがあります。アメリカのデータでは、薬の供給不足の67%が品質問題、その多くが湿気による劣化が原因とされています。つまり、薬が効かない、あるいは体に悪影響を及ぼす可能性があるのは、単なる保管ミスから来ているのです。
最も効果的な対策:フィルムコーティング
製薬会社が薬を作る段階で使う、最も重要な技術の一つが「フィルムコーティング」です。これは、錠剤やカプセルの表面に薄い膜を塗る工程で、水分の侵入を防ぐバリアになります。
このコーティングにはいくつかの種類がありますが、特に効果的なのは「ポリビニルアルコール(PVA)」を使ったもの。例えば、Colorcon社の「Opadry® amb II」は、従来のHPMCコーティングと比べて、約3倍も水分を通しにくい性質を持っています。実験では、アモキシシリン・クラビュラン酸の錠剤を10日間、容器から取り出して放置したところ、HPMCコーティングのものは有効成分がすべて失われましたが、PVAコーティングのものはほぼ変化がありませんでした。
この違いは、患者が薬を手に取ってからも影響します。薬をカバンやポケットに入れて持ち歩くとき、あるいは薬箱に移すとき、外気の湿気が直接薬に触れる可能性があります。PVAコーティングは、こうした「使用中の湿気」にも強いのです。
家庭でできる対策:シリカゲルの活用
製薬会社が作った薬は、基本的には保護されています。でも、あなたが薬を瓶から取り出して、薬箱やカプセルケースに移すと、その保護は無効になります。1つの500錠入りの瓶を、1日2錠ずつ使うと、瓶を開ける回数は250回以上。そのたびに、湿った空気が瓶の内部に侵入します。
この問題を解決するのが、小さな乾燥剤の袋--シリカゲルです。シリカゲルは、自分の重さの40%もの水分を吸収できる能力を持っています。Wisesorbent社の実験では、シリカゲルを薬瓶に入れた場合、24ヶ月間で薬の水分量は3.1%から3.4%にしか増えていませんでした。逆に、シリカゲルなしでは、同じ期間で4.0%以上に上昇しました。
家庭での使い方は簡単です。薬の瓶に付いているシリカゲルの袋は、絶対に捨てないでください。もし袋がなくなった場合は、100円ショップで売っている「食品用シリカゲル」を、ガーゼやティッシュに包んで瓶の底に置けば代用できます。ただし、食品用は薬用と純度が違うので、長期保存には薬局で売っている「医薬品用乾燥剤」を使うのが安心です。
薬の容器選び:プラスチック瓶は危険?
多くの薬が入っているのは、透明なプラスチックの瓶(HDPEやPP)です。見た目は便利ですが、実は水分を通しやすい素材です。プラスチック瓶は、液体の水は防げますが、空気中の水蒸気は簡単に通過します。そのため、単にプラスチック瓶に入っているだけでは、十分な保護にはなりません。
信頼できる薬は、アルミの泡パック(アルクラーブ)や、アルミ箔で包まれた包装を使っています。これらは、水分をほとんど通さないため、湿気対策として最適です。でも、これらは病院や薬局で直接渡される場合に限られます。市販薬や処方薬がプラスチック瓶に入っている場合、必ずシリカゲルが同封されているか確認してください。
シリカゲルが入っていない瓶の薬は、特に湿度の高い季節(梅雨や夏)は、冷蔵庫の乾燥した場所(野菜室ではなく、冷蔵庫の奥)に保管するのがおすすめです。ただし、冷蔵庫は湿気が多い場所でもあるので、薬を密閉できる容器に入れてから保管しましょう。
間違った保管方法:薬箱と冷凍庫
多くの人がやってしまう間違いが、薬箱に入れる行為です。薬箱は、毎日開け閉めするため、湿気や温度変化が激しい場所です。特に、玄関や浴室の近くにある薬箱は、湿気の影響を最も受けやすい場所です。
また、「冷凍庫で保存すれば長持ちする」と思い込む人もいますが、これは大きな誤解です。冷凍庫は、湿度が高く、温度が急激に変化する場所です。薬が凍ったり、解凍されたりすると、成分が分離したり、結晶化したりして、効果が失われます。冷凍保存は、製薬会社が明確に「冷凍保存可」と記載している薬だけに限られます。
薬の保管は「常温、乾燥、暗所」が基本です。湿気を避け、直射日光を避け、開封後は早めに使い切ることが、何よりの対策です。
薬の劣化を見分ける方法
薬が劣化しているかどうか、自分で見分ける方法があります。
- 錠剤が変色している(黄色や茶色に変化)
- 表面がベタベタしたり、カビのように白い斑点が浮いている
- カプセルが柔らかくなったり、形が崩れている
- 薬のにおいが変わった(酸っぱい、酢のようなにおい)
- 錠剤が砕けやすくなったり、崩れやすい
これらの兆候が見られたら、その薬はもう使わないでください。効果が落ちているだけでなく、体に有害な物質が生成されている可能性があります。
特に、抗生物質や心臓の薬、糖尿病の薬など、生命に直結する薬は、少しでも疑わしいなら、必ず薬局や医師に相談してください。
薬の処分:安全に捨てる方法
劣化した薬や、期限が切れた薬は、そのままゴミ箱に捨ててはいけません。水道に流すと、環境汚染の原因になります。また、子どもやペットが誤って口にすることもあります。
正しい処分方法は、市町村の「薬の回収ボックス」を利用することです。大阪市では、すべての薬局と一部の保健センターで、使用済み薬の回収をしています。薬を袋に入れて、シリカゲルや包装紙と一緒に持参してください。
回収ボックスがない場合は、薬を水で溶かして、コーヒーのカスや猫砂と混ぜてから、密封して燃えるゴミに出す方法があります。ただし、薬の容器はリサイクルできるので、薬を捨てた後は、容器だけは洗って分別してください。
まとめ:3つの基本ルール
- 湿気を遮断する:薬瓶のシリカゲルは絶対に捨てない。必要なら追加で入れる。
- 容器は変えない:薬を薬箱やケースに移すのは避け、元の瓶で保管する。
- 場所は乾燥した場所:浴室や台所、玄関の近くはNG。寝室の棚や、冷蔵庫の奥が最適。
薬は、あなたの命を守る道具です。その効果を最大限に保つためには、保管方法を「当たり前」ではなく、「意識的」に考えることが必要です。小さな工夫が、健康を守る大きな違いになります。
薬の瓶に入っているシリカゲルの袋は、捨てていいですか?
いいえ、絶対に捨てないでください。シリカゲルは、薬が湿気から守られるために重要な役割を果たしています。瓶を開けたとき、空気中の湿気が入り込むのを吸収してくれます。もし袋がなくなった場合は、医薬品用の乾燥剤を新たに追加してください。食品用のシリカゲルは、純度が低いので、薬の保管には推奨されません。
冷蔵庫で薬を保管しても大丈夫ですか?
冷蔵庫は、湿度が高い場所なので、薬の保管には不向きです。ただし、製薬会社が「冷蔵保存可」と明記している薬(一部の抗生物質や注射薬)は例外です。それ以外の薬は、冷蔵庫の奥(野菜室ではなく、温度が安定している場所)に密閉容器に入れて保管するなら、やむを得ない場合に限って可能です。基本は「常温、乾燥、暗所」です。
薬がカビたように白い斑点が出た場合、どうすればいいですか?
その薬は、すでに劣化している可能性が高いです。カビや変色、ベタつきは、有効成分が分解し、有害な物質が生成されたサインです。絶対に飲まないでください。最寄りの薬局に持ち込んで、処分方法を相談してください。自己判断で飲むと、胃腸障害やアレルギー反応を引き起こすことがあります。
薬の期限は、開封後も有効ですか?
いいえ、開封後は期限が短くなります。製造元の期限は、未開封の状態での保証です。開封後は、湿気や空気の影響で劣化が進みます。一般的には、錠剤やカプセルは開封後1〜3ヶ月以内に使い切るのが望ましいとされています。特に、湿度の高い季節は、2週間〜1ヶ月で使い切るよう心がけてください。
薬を薬箱に移すと、なぜダメなのですか?
薬箱は、毎日開け閉めするため、温度と湿度が大きく変動します。また、多くの薬箱はプラスチック製で、湿気を通しやすい素材です。薬の瓶に付いている保護膜や乾燥剤は、瓶の密閉性によって機能します。薬箱に移すと、この保護がすべて無効になります。結果、薬が湿気で劣化しやすくなります。できるだけ、元の瓶で保管するのが最良の方法です。