高血圧治療の三大薬剤:ベータブロッカー、ACE阻害薬、ARBの比較とリスク
- 三浦 梨沙
- 4 12月 2025
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高血圧は、日本でもっとも多くの人が抱える慢性疾患の一つです。薬で血圧を下げる必要がある人は、数千万人にのぼります。その中で、ACE阻害薬、ARB、ベータブロッカーは、最もよく処方される3つの薬剤です。でも、これらは同じように効くわけではありません。それぞれに、効き方、副作用、使うべき人、使わないべき人が違います。
ACE阻害薬:効果は強いが、咳が続く人が多い
ACE阻害薬は、1980年代から使われている古くからある薬です。代表的な薬はリシノプリルやエナラプリルです。この薬は、体内で血圧を上げる物質(アンギオテンシンII)の生成をブロックします。その結果、血管が広がり、血圧が下がります。さらに、腎臓への負担も減らすため、糖尿病の腎臓病がある人には特に効果的です。
しかし、大きな副作用があります。それは乾いた咳です。10人中1~2人は、この咳に悩まされます。咳は、薬のせいで体内にたまったブラジキニンという物質が原因です。この咳は、夜にひどくなったり、眠れなくなるほどひどいこともあります。咳が続くと、薬をやめたくなるのは当然です。実際、患者の78%が、この咳が原因でACE阻害薬を中止しています。
まれに、顔や喉がむくむ「血管性浮腫」も起こります。これは命に関わる緊急事態です。1000人に1人ほどですが、気をつける必要があります。アメリカのデータでは、ACE阻害薬を飲んでいる人の42%が「副作用で不満」と回答しています。
ARB:同じ効き目で、副作用が少ない
ARBは、ACE阻害薬と似た効き方をしますが、仕組みが違います。ACE阻害薬は「作るのを止める」のに対し、ARBは「できた物質をブロックする」のです。代表的な薬はロサルタンやバルサルタンです。
この違いが、副作用の違いを生みます。ARBはブラジキニンを増やさないため、咳の頻度はACE阻害薬の半分以下です。患者レビューのデータでは、ロサルタンの満足度は7.1/10、リシノプリルは5.8/10です。Redditの患者コミュニティでは、「リシノプリルからバルサルタンに変えたら、咳がなくなった」という声がたくさんあります。
血管性浮腫のリスクも、ACE阻害薬より半分ほど低いです。また、最近の研究では、ARBが高齢者の認知機能の低下を遅らせる可能性があることも示されています。2021年の大規模研究では、ARBを飲んでいる人の認知機能低下のリスクが、ACE阻害薬を飲んでいる人より18%低かったのです。
ただし、ARBも完全に安全ではありません。腎機能が悪い人では、血中カリウムが上がりすぎることがあります。また、妊娠中は絶対に使ってはいけません。胎児に深刻な障害を引き起こす可能性があります。
ベータブロッカー:心臓を落ち着かせるが、疲れやすくなる
ベータブロッカーは、心臓の動きを抑える薬です。代表的な薬はメトプロロールやカルベジロールです。心臓の拍動を遅くし、拍出量を減らすことで、血圧を下げます。
この薬は、心臓発作のあとや、心不全の患者には欠かせません。心臓発作のあとにベータブロッカーを飲むと、死亡リスクが23%も下がります。心不全の患者では、カルベジロールを飲むと、死亡リスクが35%下がるというデータもあります。
しかし、健康な高血圧の人に使うと、問題が出てきます。まず、強い倦怠感です。患者の28%が「朝から疲れが取れない」「仕事に集中できない」と言っています。これは、心臓の動きを抑えすぎているからです。また、運動耐容能が下がり、歩くのがしんどくなることもあります。
さらに、血糖や脂質に悪影響を及ぼすこともあります。中性脂肪が10~15%上がり、善玉コレステロール(HDL)が5~10%下がることがあります。これは、糖尿病の人に特に注意が必要です。また、気管支が狭くなる「気管支攣縮」を起こすリスクもあります。特に、ぜんそくの人は、非選択型のベータブロッカー(プロプラノロールなど)は使えません。
最近の研究では、ベータブロッカーが脳卒中を防ぐ効果があるという新しいデータも出ています。しかし、他の薬と比べて、脳卒中を防ぐ力は弱いとされています。そのため、日本やアメリカのガイドラインでは、単純な高血圧の第一選択薬としては推奨されていません。
どれを選べばいい?医師が実際に使っている基準
どの薬を選ぶかは、患者の状態によって変わります。
- 糖尿病の腎臓病がある人 → ACE阻害薬が最適。たんぱく尿を減らす効果がARBより強い。
- 心臓発作のあと → ACE阻害薬かカルベジロール。死亡リスクを減らす効果が明確。
- 心不全(心臓の拍出量が低い) → カルベジロールか、サクビトリル・バルサルタン(新薬)。ACE阻害薬より効果が高い場合が多い。
- 咳がひどい、またはACE阻害薬で中止した人 → ARBが第一選択。副作用が少なく、効果は同等。
- 若くて健康な高血圧、特に脳卒中予防が目的 → ARBやカルシウム拮抗薬。ベータブロッカーは避けたほうが良い。
2023年の日本での調査では、心臓専門医の82%が、心不全や心臓発作の患者にはACE阻害薬かカルベジロールを第一選択にしています。一方、一般の内科医は、副作用の少なさを重視して、ARBを新規患者に使う割合が高くなっています。
薬を変えるタイミングと注意点
薬を変えるのは、副作用がひどいときだけではありません。効果が十分でないとき、または他の病気が増えたときも、見直しが必要です。
例えば、ACE阻害薬を飲んでいて、咳が3週間以上続くなら、ARBに変えるのが普通です。変更後、咳は通常1~2週間で改善します。ベータブロッカーを飲んでいて、疲れや息切れがひどいなら、ネビベロールという薬に変えると、副作用が減ることがあります。ネビベロールは、他のベータブロッカーと比べて、疲労感が14%しかありません。
重要なのは、薬を勝手にやめないこと。急にやめると、血圧が急に上がったり、心臓に負担がかかったりして、心臓発作や脳卒中のリスクが高まります。薬を変えるときは、必ず医師と相談してください。
未来の高血圧治療:新しい選択肢が増えている
2022年には、ACE阻害薬の代わりに使える新薬「サクビトリル・バルサルタン」が、心不全の治療で標準になりました。この薬は、ARBと別の働きをする成分が合わさったもので、従来のACE阻害薬よりも、心臓の死亡リスクをさらに20%下げることが証明されています。
2023年には、高血圧がなかなか下がらない人向けに、4種類の薬を1錠にまとめた「四重配合薬」が日本でも承認されました。これで、薬を複数飲む負担が減ります。
今、研究が進んでいるのは、高齢者における認知機能への影響です。2025年に結果が出る予定の「PRECISION試験」では、8500人の高齢者を対象に、ARBとACE阻害薬のどちらが脳の健康に良いかを比較しています。もしARBが優れていると証明されれば、高齢者の高血圧治療の常識が大きく変わります。
まとめ:薬は「効く」だけじゃなく「続けられる」かが大事
高血圧の薬は、血圧を下げるだけでなく、心臓や腎臓、脳のダメージを防ぐためのものです。だから、効果だけでなく、副作用の少なさ、生活の質、継続しやすさも、とても重要です。
ACE阻害薬は、効果は強いが、咳でやめてしまう人が多い。ARBは、同じ効果で、副作用が少なく、続けやすい。ベータブロッカーは、心臓の病気がある人には必須だが、健康な高血圧には向かない。
あなたが飲んでいる薬が、本当に「あなたのため」の薬なのか? 一度、医師と相談してみる価値があります。薬の選択は、一生の健康を左右する大事な決断です。
コメント
利音 西村
あー、ACE阻害薬で咳が止まらなくて、結局ARBに変えたんだけど、ほんと人生変わったわ…夜中に咳で目が覚めるの、地獄だったから!!
12月 6, 2025 AT 06:19