バイオシミラーの償還とコード設定:請求の仕組みを解説

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バイオシミラーは、既存の生物製剤(バイオ薬)と同等の効果と安全性を持つ後発医薬品です。しかし、一般のジェネリック薬とは異なり、その請求と償還の仕組みは非常に複雑です。特にアメリカのメディケアPart Bでは、バイオシミラーの支払いがどのように行われているのかを理解することが、医療機関の財務運営に直結します。

バイオシミラーの請求コードはなぜ個別に設定されるのか

2018年以前、同じ参考薬(例:レミケード)のすべてのバイオシミラーは、同じHCPCSコード(Q5101)を使って請求していました。この「ブレンドされた償還率」では、すべてのバイオシミラーの平均販売価格(ASP)に、参考薬のASPの6%を加えた金額が支払われていました。この仕組みでは、安価なバイオシミラーが市場に参入しても、その価格メリットが支払いに反映されませんでした。結果として、メーカーは低価格で参入するインセンティブがなく、市場の競争が抑制されていました。

2018年1月から、CMS(メディケア・メディケイドサービスセンター)は方針を大きく変更しました。各バイオシミラーに個別のHCPCSコードを割り当てる方式に移行したのです。これにより、Inflectra(レミケードのバイオシミラー)はJ1745、RenflexisはJ1746というように、それぞれ独自のコードを持つようになりました。支払い額は、そのバイオシミラー自身のASPの100%に、参考薬のASPの6%を加えた金額になります。

この変更の目的は明確です。「フリーライダー問題」を解消すること。つまり、安価な製品が市場に参入しても、高価な製品の価格に引きずられて支払いが高くなるという構造をなくすことです。個別コード化によって、各バイオシミラーの価格競争が正しく反映され、メーカーはより安い価格で参入する動機が生まれました。

支払い額の計算方法:106%のルールの実態

メディケアPart Bでは、医師が診療所で投与する生物製剤の支払いは、一律で「ASPの106%」です。これは、薬の実際の販売価格(ASP)の100%に、6%の加算額を足したものです。この6%は、薬の保管・投与・管理にかかるコストをカバーするためのものとされています。

ここで重要なのは、この6%が参考薬のASPに基づいて計算される点です。たとえば、レミケードのASPが1薬剤あたり2,500ドルで、Inflectraが2,000ドルだとします。このとき、レミケードの支払いは2,500 × 1.06 = 2,650ドル。Inflectraの支払いは2,000 × 1.06 = 2,120ドルになります。つまり、1薬剤あたり530ドルの差があります。

しかし、実際の利益差はもっと大きくなります。なぜなら、6%の加算額は参考薬の価格に連動するからです。Inflectraの加算額は2,500 × 0.06 = 150ドル。レミケードの加算額も150ドル。つまり、Inflectraは500ドル安いのに、医療機関が得る加算収入は同じです。この構造は、医療機関に「安いバイオシミラーを使うメリットがほとんどない」というメッセージを送っています。

MITのマーク・トゥルシム博士は、この仕組みを「逆効果のインセンティブ」と呼びました。安い薬を投与しても、収益は変わらない。むしろ、高価な薬を使えば、薬のコストは高いけど、加算額は同じ。結果として、医療機関はリスクの少ない高価な参考薬を選びがちになります。

2023年導入されたJZモディファイア:新たな負担

2023年7月1日から、インフリキシマブ(レミケードとそのバイオシミラー)の請求にはJZモディファイアが必須になりました。これは「廃棄量がゼロである」ことを証明するためのコードです。

バイオシミラーは、1本の薬剤で複数の患者に分けて投与できる場合があります。しかし、残った薬を廃棄した場合、その分は請求できません。JZモディファイアは、1本すべて使い切ったことを証明するためのものです。たとえば、1本で2人の患者に投与できた場合、JZを付けて請求すれば、2回分の支払いが可能です。

しかし、この仕組みは現場に大きな負担をかけました。ある消化器科の診療所では、JZモディファイアの導入後、請求スタッフの作業時間が30%増加したと報告されています。なぜなら、各患者の投与量を正確に記録し、廃棄がゼロであることを毎回証明しなければならないからです。薬剤師と看護師が共同で投与量を確認し、電子カルテに正確に記入するプロセスが必須になりました。

高価な参考薬と安価なバイオシミラーの投与を対比させる医療現場の二重シーン。

医療機関が直面する実際の課題

2022年のコミュニティ腫瘍联盟の調査では、217の腫瘍治療センターの68%が、2018年の個別コード移行時に請求の混乱を経験したと答えています。42%は、コードの選択ミスで請求が却下された経験があります。

主な問題は以下の3つです:

  • コードの誤使用:CMSが毎四半期に更新する薬剤価格リストを追跡できず、古いコードを使い続けてしまう
  • モディファイアの見落とし:JZモディファイアを忘れると、支払いが半分以下になることも
  • 保険プランの差異:メディケアPart BとメディケアAdvantage、民間保険では支払い率が異なり、患者の自己負担額も変動する

一方で、成功している施設は明確な対策を取っています。たとえば、ミシガン大学病院では、薬剤師が投与する薬と請求コードを二重確認する仕組みを導入しました。その結果、請求ミス率は業界平均の12~15%から3%以下に低下しました。また、フレスニウス・カビのようなバイオシミラー製造メーカーは、2023年に「STIMUFEND®請求ガイド」を公開し、87%の医療機関が「役に立った」と評価しています。

アメリカとヨーロッパの違い:なぜ普及が遅れているのか

アメリカでは、インフリキシマブのバイオシミラーの市場シェアは、導入から5年経っても約35%にとどまっています。一方、ヨーロッパでは同じ期間で75~80%に達しています。

その違いの大きな要因は、償還制度の設計です。ヨーロッパでは、参考薬とバイオシミラーを「同一価格帯」として扱い、最安価格に合わせて支払う「参照価格制度」を採用しています。つまり、参考薬が2,500ドルでも、バイオシミラーが2,000ドルなら、すべての薬の支払いは2,000ドルに固定されます。医療機関は、安い薬を使うことで、薬のコストを20%節約できるため、自然とバイオシミラーを選択します。

アメリカの現行制度では、医療機関は薬の価格差を収益に反映できません。そのため、リスクを避けて高価な参考薬を使い続ける傾向が強いのです。Avalere Healthの分析では、もしバイオシミラーの加算額を「参考薬のASP」ではなく「バイオシミラー自身のASP」に基づいて計算すれば、利用率は15~20%向上する可能性があると推計しています。

生物製剤の価格戦争を描いた戦場風イメージ、金鎧の参考薬と灰鎧のバイオシミラーが対峙。

今後の見通し:政策変更の可能性

CMSは2023年2月、加算額の見直しを検討するための「提案通知」を発表しました。今後、以下の改革が検討されています:

  • バイオシミラーの加算額を「参考薬のASP」ではなく、自社のASPに基づくように変更
  • 複数のバイオシミラーが存在する場合、最安価格の薬のASPに統一して支払う「最安代替品(LCA)」制度の導入
  • 6%の加算額を固定金額(例:150ドル)に変更

メディケア支払諮問委員会(MedPAC)は、2023年6月、3種類以上のバイオシミラーが市場にある場合、LCA制度を導入するよう勧告しました。もし実現すれば、バイオシミラーの市場シェアは2027年までに65~70%に達する可能性があります。

一方、現在の制度を維持した場合、RAND Corporationは2022年の分析で、2030年までに市場シェアは40~45%で頭打ちになると予測しています。これは、ヨーロッパの水準の半分以下です。

医療機関が取るべき実践的対応

バイオシミラーの請求を正しく行うには、以下のステップが不可欠です:

  1. 毎四半期、CMSの薬剤価格リストを最新版に更新する
  2. 投与するバイオシミラーの正しいHCPCSコードを薬剤師と確認する
  3. インフリキシマブの場合、JZモディファイアを必ず付ける(廃棄なしの場合)
  4. 薬剤師と看護師が二重確認システムを導入する
  5. 患者の保険プラン(Part B vs. Advantage)に応じて、自己負担額を正確に説明する

特に重要なのは、CMSの公式ガイドラインだけでは不十分だということです。多くの医療機関が「技術的だが実務に足りない」と評価しています。製造メーカーが提供する請求ガイド(例:フレスニウス・カビのSTIMUFEND®ガイド)を活用し、現場の経験を基に内部ルールを整備することが、ミスを減らす鍵です。

結論:制度は進化中、現場は対応を急げ

バイオシミラーの償還制度は、単なる「薬の値段」の話ではありません。医療機関の収益構造、患者の負担、薬の選択、そして医療費全体の持続可能性に直結するシステムです。

現在の制度は、バイオシミラーの市場参入を可能にしましたが、その普及を阻害する構造も持っています。医療機関は、制度の変化をただ待つのではなく、自らの請求プロセスを改善し、誤りを減らす努力を続ける必要があります。次に来る政策変更は、おそらく「加算額の見直し」です。そのとき、準備ができている医療機関だけが、コスト削減と収益向上の両方を実現できるでしょう。