グローバルジェネリック医薬品市場の未来:2025-2030年の予測とトレンド

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世界中で処方される薬の9割以上がジェネリック医薬品だ。アメリカでは、処方箋の90%がジェネリックでまかなわれているが、その市場価値は全体の23%に過ぎない。なぜか?ジェネリック医薬品は、ブランド薬と全く同じ有効成分を含みながら、80~85%も安いからだ。この価格差が、世界中の医療制度を支えている。2023年の世界のジェネリック市場は4,353億ドル。2028年には6,558億ドルに達すると予測されている。しかし、その先の2030年には、市場の成長が鈍化し始めている。

ジェネリックとバイオシミラーの違いが市場を分ける

ジェネリック医薬品は、従来の小さな分子の薬(小分子薬)が中心だ。心臓病、糖尿病、感染症の治療薬のほとんどがこれに当たる。しかし、これから伸びるのはバイオシミラーだ。これは、がんや関節炎の治療に使われる複雑な生物由来の薬(バイオ薬)の後発品だ。バイオ薬は、化学的に合成できない。細胞を使って作る。だから、ジェネリックのように簡単にコピーできない。

小分子のジェネリック開発には100万~500万ドル、数年で済む。一方、バイオシミラーの開発には1億~2億5千万ドル、10年以上かかる。製造工程は10~20倍も複雑だ。それでも、市場は急成長中だ。2025年から2030年まで、バイオシミラー市場は年平均12.3%の成長を見込む。価格はブランドの15~30%安くなる。ジェネリックの80%安さとは違うが、それでも医療費削減の大きな手立てになる。

アジアが世界の製薬を支える

世界のジェネリック医薬品の約35%は、中国とインドで作られている。インドは、6万種類以上のジェネリックを生産し、世界のジェネリック薬の20%を供給している。中国は、原料薬(API)の40%を製造している。この2カ国がなければ、世界のジェネリック市場は成り立たない。

インド政府は2024年、製薬産業を支援するために13.4億ドルを投じた。この資金は、国内での製造能力を高め、海外依存を減らすためだ。中国も同様に、『健康中国2030』という国家戦略で、ジェネリックの自国生産を推進している。しかし、その裏にはリスクがある。世界のジェネリック原料薬の65%は中国から輸入されている。供給が止まったら、世界中の薬が足りなくなる可能性がある。

新興市場が成長のエンジン

先進国では、ジェネリック市場の成長はゆっくりだ。アメリカやヨーロッパでは、価格が政府によって厳しく抑えられている。ドイツではジェネリックの利用率が72%だが、イタリアは28%。国によって差が激しい。一方、新興市場(ファーマエマージング)は、爆発的に伸びている。インド、中国、ブラジル、トルコ、サウジアラビアなどだ。

これらの国々では、医療保険の拡大と慢性病の増加が、ジェネリック需要を押し上げている。2020年から2024年まで、新興市場は世界の医薬品支出の65%を占めた。2025年までに、これらの国々で1,400億ドルの追加支出が見込まれる。サウジアラビアは『ビジョン2030』で、ジェネリック医薬品の普及を国家の優先課題にしている。アラブ首長国連邦(UAE)やエジプトも、2025年までに必須薬品の50%を国内生産する方針を決めた。

インドのバイオシミラー工場と発展途上国のジェネリック工場の対比、FDA検査官が見守る。

品質問題が最大のリスク

ジェネリックは安い。でも、安全か?アメリカ食品医薬品局(FDA)は2023年、海外のジェネリックメーカーに187件の是正命令を出した。その40%が品質管理の不備が原因だった。工場の衛生状態、製造プロセスの不整合、データの改ざん--こうした問題は、特に新興国の製薬会社で頻発している。

インドの一部の工場では、FDAの検査を逃れるために、製造記録を偽装していた事例もあった。中国の原料薬工場では、汚染物質が混入したケースが複数報告されている。世界には78もの異なる薬品規制体系がある。国ごとに基準が違うため、品質の担保が難しい。FDAのエレナ・ロドリゲス氏は、2024年にこう警告した。「グローバルなジェネリック供給チェーンの品質管理は、依然として重大な課題だ」。

大手は合併し、中小は淘汰される

ジェネリック市場は、競争が激化しすぎた。2020年には、メーカーの利益率は18%あった。2024年には12%に下がった。価格競争に勝てない中小企業は、次々と撤退している。代わりに、大手が市場を支配しつつある。アメリカのテルモ、インドのドラレク、中国の恆瑞製薬--これらの企業は、規模を拡大し、製造コストを下げ、バイオシミラー開発に投資している。

また、製造と販売の間に入る中間業者を排除する動きも進んでいる。メーカーが直接、病院や薬局と契約する。これでコストがさらに下がる。KPMGのサラ・トンプソン氏は、「ジェネリックメーカーは、大きくなるか、消えるかの二択だ」と指摘している。

2030年の病院でジェネリック薬と遺伝子治療が共存し、市場シェアの減少が視覚化される。

将来の市場は、ジェネリックの割合が減る

2030年までに、世界の処方薬市場は1.7兆ドルに達する。しかし、ジェネリックの市場シェアは、2024年の57.56%から53%まで下がると予測されている。なぜ?新しい薬、特にGLP-1ダイエット薬や遺伝子治療薬のような「特化薬」が急成長しているからだ。これらの薬は、特許が切れない。ジェネリックが作れない。だから、ジェネリックの占める割合は減る。

でも、それはジェネリックが不要になるという意味ではない。むしろ、その重要性は増している。慢性病の患者が増え続け、医療費は年々膨らんでいる。ジェネリックがなければ、多くの国で治療が受けられなくなる。ジェネリックは、医療の「基礎」だ。特化薬が高級車なら、ジェネリックは公共交通機関だ。どちらも必要で、どちらも欠かせない。

次に何が起こる?

2025年以降、ジェネリック市場は3つの流れで動く。

  1. バイオシミラーの拡大:がんや自己免疫疾患の治療で、バイオシミラーが主流になる。インドと中国がこの分野で技術を急速に習得している。
  2. 供給チェーンの多様化:中国への依存を減らすため、インド、韓国、ベトナム、メキシコが原料薬の生産を拡大。アメリカとEUも、自国での製造を促進する政策を強化。
  3. 規制の統一:国際調和会議(ICH)に2024年だけで15カ国が参加。規制の基準が世界で統一されれば、品質管理が格段に向上する。

しかし、最大の課題は「信頼」だ。安い薬は、誰でも使える。でも、安全でない薬は、命を奪う。ジェネリック市場の未来は、価格ではなく、品質と透明性で決まる。