HBV再活性化:生物学的製剤、化学療法、予防の最新ガイド

alt

HBV再活性化は、免疫抑制療法を受けている患者で、かつてコントロールされていたB型肝炎ウイルス(HBV)が急激に再増殖する危険な状態です。この現象は、無症状のキャリアや過去に感染した人が、がんの化学療法やリツキシマブなどの生物学的製剤を使うことで、肝不全や死亡に至る可能性があります。日本でも、高齢者のがん治療が増えている中で、このリスクは無視できません。

なぜHBV再活性化は致命的なのか

HBVは、感染後、多くの人が無症状のキャリアになります。血液検査でHBs抗原が陰性でも、抗HBc抗体が陽性なら、ウイルスが肝臓に潜んでいる可能性があります。この状態で、化学療法や免疫抑制剤を使い始めると、体の免疫がウイルスを抑えられなくなり、ウイルスが爆発的に増殖します。その結果、肝酵素(ALT、AST)が急上昇し、急性肝炎を起こします。最悪の場合、肝不全で死亡します。

2015年から2020年にかけての複数の研究で、高リスク患者で予防をしないと、HBV再活性化の発生率は20~50%にもなることが確認されています。しかし、抗ウイルス薬を事前に投与すれば、そのリスクは5%以下にまで下げられます。これは、死亡を防ぐための非常に効果的な手段です。

どの治療が最もリスクが高いのか

HBV再活性化のリスクは、使う薬によって大きく異なります。最も危険なのは、B細胞を破壊する抗CD20モノクローナル抗体です。リツキシマブやオファトムマブは、悪性リンパ腫の治療に使われますが、HBs抗原陽性の患者では、再活性化率が38~73%にも達します。これは、化学療法の2倍以上です。

次に危険なのは、造血幹細胞移植です。自己移植では66%、他人の細胞を使う同種移植では81%の患者で再活性化が起き、そのうち75%は移植後1年以内に発生します。また、アントラサイクリン系化学療法(例:ドキソルビシン)も25~40%のリスクがあります。

一方で、TNF-α阻害薬(例:アダリムマブ)やイブリチニブなどのキナーゼ阻害薬は、再活性化率が3~8%と中程度です。非細胞毒性の標的療法や、ステロイドを含まない通常の化学療法は、リスクが低めですが、過去にHBVに感染していた人(HBs抗原陰性・抗HBc陽性)では、1~18%のリスクがあります。

特に注意が必要なのは、チェックポイント阻害薬(例:ニボルマブ、ペムブロリズマブ)です。これはがん免疫療法の主力薬ですが、2019年の研究では、HBs抗原陽性で抗ウイルス薬を飲んでいない患者の21%で再活性化が起きました。このタイプの肝炎は、免疫の過剰反応と間違われやすく、診断が遅れると致命的になります。

予防の基本:スクリーニングが命を救う

すべての免疫抑制療法を始める前に、HBs抗原抗HBc抗体の2つの血液検査が必須です。この2つで、現在の感染(HBs抗原陽性)と過去の感染(抗HBc陽性)を判別できます。HBs抗原陽性なら、すぐに抗ウイルス薬を始めます。抗HBc陽性でHBs抗原陰性の人は、リスクが高い治療(リツキシマブ、移植、アントラサイクリンなど)を受ける場合も、予防的に薬を投与します。

スクリーニングのコストは、1回の検査で数千円です。一方、再活性化が起きた場合の治療費は100万円以上、入院や人工肝補助、肝移植をすれば数千万円かかります。さらに、死亡すれば家族の人生が変わります。米国肝臓学会(AASLD)は、『スクリーニングのコストは、再活性化の被害に比べれば微々たるものだ』と明言しています。

予防薬:テノホビルとエンテカビルが標準

予防に使う抗ウイルス薬は、テノホビル(テノフォビル・ディソプロキシル・フマルエート)とエンテカビルが国際的に推奨されています。これらの薬は、ウイルスの増殖を99%以上抑え、耐性もほとんどできません。リツキシマブや移植を受ける患者には、治療開始の1週間前から投与を始め、治療終了後も6~12ヶ月続けます。

2022年の新研究(NEJM)では、ほとんどの場合、6ヶ月の投与で十分であることが示されました。以前は12ヶ月とされていましたが、過剰な投与を避けるため、ガイドラインは柔軟に更新されています。ただし、リツキシマブや造血幹細胞移植の後は、12ヶ月続けることが推奨されます。

がん治療とHBV再活性化の内部対立を、抗ウイルス薬の盾で描いた内臓のイメージ。

実際の医療現場での課題

ガイドラインは明確ですが、実際の医療現場では、実施が不十分です。2020年の調査では、大学病院では89%の医師がスクリーニングを実施していましたが、地域の診療所では58%にとどまりました。理由は、『忙しい』『検査の仕組みがない』『HBVのリスクを軽視している』などです。

ある症例では、52歳の悪性リンパ腫の患者が、リツキシマブ治療を始める前にスクリーニングを受けず、治療開始2週間後に急性肝不全で死亡しました。検査を受けていれば、抗ウイルス薬で防げた死でした。

一方、UCサンフランシスコ病院では、電子カルテに自動アラートを導入した結果、再活性化率が12.3%から1.7%に激減しました。スクリーニングを『必須』にし、誰も逃さないようにする仕組みが、成功の鍵です。

今後の展望:点検と技術の進化

2023年には、OraQuickのような迅速HBV検査キットがFDA承認を受ける予定です。これなら、診察室で15分以内に結果が出ます。がんの遺伝子検査と連携して、HBVステータスを自動的に患者のプロファイルに組み込む動きも進んでいます。テムプス・ラボとギリアド・サイエンスが2023年1月に提携し、がん患者の遺伝子解析レポートにHBV感染状態を統合するプロジェクトを発表しました。

今後は、『すべてのがん患者にHBV検査』が、『すべての患者に血圧測定』のように当たり前になるでしょう。医療の質と安全性を高めるための、最もシンプルで効果的な手段の一つです。

患者が自分でできること

もし、あなたや家族が化学療法や免疫抑制剤を始める予定なら、次の3つを必ず確認してください:

  1. 『HBVの検査はしましたか?』と医師に聞く
  2. 過去にB型肝炎の検査を受けたことがあるか、記録を確認する
  3. HBs抗原や抗HBcの結果を、医師と共有する

医師がスクリーニングを提案しない場合、自ら声を上げてください。それは、あなたの命を守る第一歩です。

HBV検査の重要性を象徴する手首のブレスレットと迅速検査キットの構図。

再活性化のリスク分類:一覧表

免疫抑制療法によるHBV再活性化のリスク分類
治療タイプ 代表的な薬剤 再活性化リスク 予防の必要性
高リスク リツキシマブ、オファトムマブ 38-73% 必須(HBsAg陽性・抗HBc陽性とも)
高リスク 造血幹細胞移植 66-81% 必須
高リスク アントラサイクリン系化学療法 25-40% 必須(HBsAg陽性)
中リスク チェックポイント阻害薬 21%(HBsAg陽性) 必須
中リスク TNF-α阻害薬 3-8% 抗HBc陽性なら推奨
低リスク 非細胞毒性標的療法 <1% 通常不要

よくある質問

HBVキャリアとは何ですか?

HBVキャリアとは、B型肝炎ウイルスに感染しているが、肝機能が正常で、自覚症状がない人のことです。血液検査でHBs抗原が陽性であれば、キャリアと診断されます。日本では、約100万人がキャリアと推定されています。この状態でも、免疫が弱るとウイルスが再活性化するリスクがあります。

過去にB型肝炎にかかったことがある人は、検査が必要ですか?

はい、必要です。HBs抗原が陰性でも、抗HBc抗体が陽性なら、ウイルスが肝臓に潜んでいる可能性があります。特に、リツキシマブや造血幹細胞移植、アントラサイクリン系の化学療法を受ける場合は、予防的に抗ウイルス薬を投与する必要があります。過去にかかったことがある人でも、再活性化のリスクは1~18%あります。

抗ウイルス薬を飲むと、副作用はありますか?

テノホビルやエンテカビルは、非常に安全な薬です。主な副作用は、軽い頭痛や胃の不快感程度です。腎臓や骨への影響は、長期使用(10年以上)で稀に起こる可能性がありますが、数ヶ月~1年程度の予防投与では、ほとんど心配いりません。再活性化による肝不全のリスクより、はるかに安全です。

予防薬はいつまで飲めばいいですか?

治療の種類によって異なります。リツキシマブや造血幹細胞移植の後は、治療終了後12ヶ月続けるのが標準です。それ以外の高リスク治療(アントラサイクリンなど)では、6ヶ月で十分です。中リスク治療(TNF-α阻害薬)では、治療期間中に飲むだけでも効果があります。医師と相談して、最適な期間を決めてください。

HBV検査は保険適用されますか?

はい、日本では、免疫抑制療法を受ける前にHBs抗原と抗HBc抗体の検査は、保険適用されます。自己負担は、1回の検査で約2,000~3,000円です。治療を始める前に、必ず検査を受けてください。これは、あなたの命を守るための最低限の行動です。

次にすべきこと

もし、あなたが免疫抑制療法を受ける予定なら、今日中に次の2つを行動してください:

  1. 過去の血液検査の記録を確認する。HBs抗原や抗HBcの結果がわからないなら、病院に問い合わせる
  2. 医師に『HBVの検査はいつ行いますか?』と直接尋ねる。答えが曖昧なら、検査を求める

HBV再活性化は、予測可能で、予防可能な死です。あなたの声が、命を救うかもしれません。