静脈瘤出血:バンドリング、ベータブロッカー、予防のすべて

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静脈瘤出血は、肝硬変が原因で起こるportal hypertension(門脈圧亢進)の最悪の合併症の一つです。この状態では、肝臓の血流が詰まり、代わりに食道や胃の静脈が膨らんで壊れやすくなります。出血が起きたら、数時間以内に治療しないと命に関わる緊急事態です。アメリカ肝臓病学会(AASLD)のデータでは、出血後6週間以内の死亡率が15〜20%にもなります。でも、正しい治療をすれば、多くの人が助かります。

静脈瘤出血とは何ですか?

肝臓が硬くなり、血の通り道が狭くなると、血液は他の道を探します。その結果、食道や胃の静脈が太くなり、薄く脆くなります。これが静脈瘤です。門脈圧が12mmHgを超えると、この静脈が破裂して出血し始めます。出血は突然、大量に起こることが多く、嘔血や黒い便(タール便)が典型的な症状です。気づかないうちに失血が進み、ショック状態になることもあります。

この問題は、肝硬変の患者に特に多く見られます。アルコール性肝障害、B型・C型肝炎、脂肪肝が原因で肝臓がダメージを受けた人で、血圧が長年高くなっていた場合、静脈瘤が形成されやすいです。しかし、静脈瘤があっても、必ずしも出血するわけではありません。出血リスクが高いのは、静脈瘤が大きい人や、赤い斑点(赤いサイン)が見える人、肝機能が悪化している人です。

急性期の治療:バンドリングが標準

出血が起きたら、まずやるべきことは、すぐに止血することです。これには、内視鏡的バンドリング(EBL)が最も効果的です。これは、内視鏡で静脈瘤にゴムの輪をかけ、血流を遮断して血の塊を作り、静脈を閉じる方法です。

この治療は、出血が起きてから12時間以内に実施することが推奨されています。2021年のメタアナリシスでは、90〜95%の患者で最初の出血を止めることができました。1回の治療で6〜8本のバンドをかけることができ、最新の機械(例:Boston ScientificのSix-Shot)を使うと、処置時間が35%短縮されます。

しかし、すべての患者に効くわけではありません。出血が激しく、内視鏡で見えない場合や、胃の静脈瘤(胃静脈瘤)の場合は、バンドリングだけでは不十分なことがあります。その場合、バルーンで静脈を塞いで薬を注入するBRTOや、肝臓の中を通って門脈と体循環をつなぐTIPSという手術が必要になります。

バンドリングは、1回で治るわけではありません。通常、3〜4回の治療を、1〜2週間おきに繰り返して、静脈瘤を完全に消します。治療後は、喉の痛みや飲み込みにくさが2週間ほど続くこともあります。しかし、多くの患者が「出血が止まって3日で退院できた」と言っています。

再出血を防ぐ:ベータブロッカーの役割

出血が止まっても、また同じ静脈瘤が破裂するリスクは高いです。だから、急性期の治療のあとには、ベータブロッカーという薬を飲み続ける必要があります。

代表的な薬は、プロプラノロールカルベジロールです。これらは、心臓の拍動を弱め、肝臓に流れる血の量を減らして、門脈圧を下げます。目標は、門脈圧を12mmHg以下、または基準値から20%以上下げることです。

2021年の研究では、カルベジロールがプロプラノロールより効果的で、門脈圧を22%下げたのに対し、プロプラノロールは15%でした。どちらも、再出血のリスクを約50%減らすことができます。しかし、副作用が問題です。疲れやすさ、めまい、低血圧、脈が遅くなるなどの症状が出ます。25〜30%の患者が、薬を続けることができません。

プロプラノロールは、月に4〜10ドルと安価ですが、カルベジロールは25〜40ドルと高めです。多くの患者が「プロプラノロールで寝たきりになった」「カルベジロールに変えたら体が楽になったけど、保険の自己負担が高すぎる」と語っています。

重要なのは、ベータブロッカーは出血が起きた後の治療(二次予防)には必須ですが、急性期の出血を止めるだけでは効果がありません。AASLDは明確に、「薬だけでは出血を止めるのは50〜60%の成功率」としています。だから、バンドリング+ベータブロッカーの組み合わせが、再出血を防ぐ標準治療です。

薬の力で肝臓の赤い静脈が抑えられ、体の片側は光に包まれている。

胃静脈瘤と他の治療法

静脈瘤は食道だけでなく、胃にもできます。胃の静脈瘤は、食道のものよりさらに危険で、出血量が多いため、死亡率が高いです。

胃の静脈瘤には、バンドリングはあまり効果がありません。代わりに、BRTO(バルーン閉塞逆流性経静脈性閉塞術)が推奨されます。これは、足の静脈からカテーテルを入れ、胃の静脈を直接塞ぐ方法です。2023年のデータでは、BRTOを併用した患者の30日死亡率は2.8%でしたが、バンドリングだけでは6.2%でした。

さらに、肝機能が非常に悪い人(Child-Pugh Cクラス)や、出血が止まらない人は、TIPS(経静脈的肝内門体シャント)が有効です。TIPSは、肝臓の中に金属のチューブ(ステント)を入れて、門脈の血を体循環に直接流す手術です。1年生存率は86%と高く、出血を防ぐ効果は非常に強いです。

しかし、TIPSには大きなリスクがあります。30%の患者が、肝性脳症(意識がもうろうとして、記憶や判断力が低下する)を起こします。また、この手術は、専門の放射線科医がいなければできません。米国では、病院の45%しかこの手術ができないのが現状です。

予防:出血する前にできること

出血が起きる前に、静脈瘤を予防する方法もあります。肝硬変の患者で、静脈瘤がまだ小さく、出血のリスクが低い人には、ベータブロッカーの単独使用が推奨されています。特にカルベジロールは、2023年の新しい研究で、バンドリングと同等の予防効果があることが示されました。

しかし、すべての人に薬を飲ませるわけではありません。肝機能がまだ良い人(Child-Pugh A)で、静脈瘤が小さい場合は、定期的な内視鏡検査だけでも十分です。毎年1回、内視鏡で静脈瘤の大きさと形をチェックし、危険な兆候があれば、予防的にバンドリングをします。

また、アルコールを完全にやめること、塩分を制限すること、肝臓に負担をかける薬(鎮痛剤や漢方薬)を避けることも、予防の基本です。脂肪肝がある人は、体重を減らすことで肝臓の状態を改善できます。

TIPSステントが肝臓を貫く巨大病院の風景、AIが診断データを解析している。

治療の現実:医療現場の課題

理想の治療は明確ですが、現実には多くの壁があります。

  • 出血が起きた後、12時間以内に内視鏡検査ができる病院は、米国でたった68%。
  • ベータブロッカーを、目標の量まで増量できる患者は、3か月以内で55%にとどまる。
  • 高齢者や経済的に困っている人は、薬を続けられず、再出血しやすい。
  • 静脈瘤の治療は、専門の医師がいなければできません。特にTIPSやBRTOは、大病院にしかありません。

アメリカ肝臓財団の調査では、78%の患者が治療に満足していますが、42%が薬の副作用で苦しんでいます。また、1年以内に再出血した患者は、65%にも上りました。これは、治療が完璧ではないことを示しています。

一方で、新しい技術が登場しています。2023年に承認されたオクトレチドLARという薬は、毎日注射ではなく、1か月に1回だけです。これで、薬を飲み忘れてしまう患者の数が減る可能性があります。

今後の展望:AIと新薬の可能性

2024年には、Baveno VIIIという新しい国際ガイドラインが発表される予定です。その中では、カルベジロールを、静脈瘤の予防の第一選択薬として推奨する可能性があります。

さらに、人工知能(AI)を使って、どの患者がいつ出血するかを予測する研究が進んでいます。肝臓の画像や血液検査のデータをAIが分析すれば、静脈瘤が破裂する前に、予防的な治療を始められるようになるかもしれません。

2023年の予測では、AIと新薬の組み合わせで、今後10年で静脈瘤出血の死亡率を40%減らせる可能性があるとされています。しかし、医療格差は依然として大きな問題です。保険がない患者は、保険がある患者より35%も死亡率が高いというデータがあります。

静脈瘤出血は、肝硬変の合併症の一つですが、適切なタイミングで適切な治療をすれば、命を救えます。バンドリングとベータブロッカーの組み合わせは、今も変わらないゴールデンスタンダードです。でも、それだけでは不十分。医療チーム全体が連携し、患者一人ひとりの状態に合わせたケアを続けることが、本当の予防につながります。