クレアチンと腎臓病の薬:腎機能モニタリングの正しい方法
- 三浦 梨沙
- 1 2月 2026
- 0 コメント
腎機能評価補正ツール
腎機能評価補正ツール
クレアチンを摂取すると血液検査で測定されるクレアチニン値が上昇します。2024年トロント大学の研究に基づき、このツールでは測定値を10%減算して正確な腎機能評価を補正します。
クレアチンは、筋力トレーニングやスポーツパフォーマンスを高めるために世界中で使われているサプリメントです。しかし、腎臓病の治療薬を飲んでいる人や、腎機能がすでに低下している人にとっては、クレアチンが腎臓の検査結果を誤って悪化させているように見せてしまうリスクがあります。この問題は、単なる「副作用」ではなく、検査値の誤解から生じる「偽の診断」です。
クレアチンは腎臓を傷つけるのか?
多くの人が心配するのは、「クレアチンを飲むと腎臓に悪影響が出るのでは?」という点です。しかし、過去20年間の研究で、健康な人にとってクレアチンは腎臓を傷つけないことが明確になっています。アメリカのUCLAヘルスやアメリカスポーツ医学会は、健康な成人が1日3〜5グラムを長期間摂取しても、腎機能に悪影響を及ぼさないと結論づけています。
では、なぜ「クレアチン=腎臓に悪い」と思われているのでしょうか?その原因は、クレアチンが体内で変化してできる「クレアチニン」にあります。クレアチニンは、腎臓の機能を測るための標準的な指標です。血液中のクレアチニン値が高いと、腎臓がうまく働いていないと判断されます。でも、クレアチンを摂取すると、このクレアチニンの値が自然に上がってしまうのです。
つまり、クレアチンを飲んでいる人の血液検査でクレアチニン値が高くなっても、それは腎臓が壊れているわけではありません。ただ、クレアチンの影響で値が上がっているだけです。この違いが分からなければ、本来健康な人が「慢性腎臓病(CKD)」と誤診される可能性があります。
クレアチニン値が上がる仕組み
人間の体は、毎日自分の筋肉から約1.7%のクレアチンを自動的にクレアチニンに変換しています。クレアチンサプリメントを飲むと、この変換量が20〜40%増加します。例えば、1日5グラムのクレアチンを摂取すると、血液中のクレアチニン値は15〜25μmol/Lほど上昇します。これは、健康な人の平均値(約70〜110μmol/L)に対して10〜30%の上昇にあたります。
この上昇は、腎臓の働きが悪くなったときの上昇とはまったく異なります。腎臓が弱っているときには、クレアチニンだけでなく、尿素窒素(BUN)や尿蛋白、電解質のバランスも異常になります。でも、クレアチンを飲んでいる人の場合、これらの値は普通のままです。腎臓は、クレアチニンが増えても、ちゃんと尿として排出し続けています。
2024年の大規模な遺伝子研究(Mendelian randomization)では、クレアチンのレベルと腎機能の関係に「因果関係」がないことが証明されました。つまり、クレアチンを飲んでも、腎臓の機能が落ちるわけではないのです。この研究は、これまでの「クレアチンは危険」という誤解を根本から覆すものでした。
腎臓病の薬とクレアチンの組み合わせ
腎臓病の治療には、ACE阻害薬、ARB、NSAIDs(消炎鎮痛薬)などが使われます。これらは腎臓に負担をかける可能性がある「腎毒性薬」として知られています。クレアチン自体は安全ですが、これらの薬と一緒に使うと、腎臓への負担が重なるリスクがあります。
特に、すでに腎機能が低下している人(eGFRが60以下)は、クレアチンの摂取を避けるべきです。腎臓が弱っている状態で、クレアチンの代謝物であるクレアチニンの量がさらに増えると、腎臓の負担が増し、悪化する可能性があります。これは、クレアチンが直接腎臓を傷つけるのではなく、「すでに弱っている腎臓に、さらに負荷をかける」状況だからです。
また、腎臓病の薬を飲んでいる人は、他のサプリメントや漢方薬、過剰なタンパク質摂取とも相互作用する可能性があります。クレアチンだけが問題なのではなく、複数の要因が重なってリスクが高まるのです。医師に「何を飲んでいるか」を正直に伝えることが、安全を守る第一歩です。
誤診の現実:クレアチンで「偽の腎臓病」に
実際の医療現場では、クレアチンを飲んでいる人が「慢性腎臓病」と誤診されるケースが少なくありません。
Redditの腎臓病コミュニティには、1日5グラムのクレアチンを飲んでいた人が、eGFRが78と診断され「ステージ2の腎臓病」と宣告されたという投稿があります。その後、クレアチンの摂取をやめたところ、eGFRは95まで回復しました。この人は、実際には腎臓に問題がなかったのです。
アメリカの家庭医療の専門誌では、67%の医師がクレアチンがクレアチニン値に影響を与えることを知らないと報告されています。そのため、クレアチンを飲んでいる患者のクレアチニン値が高くなると、「腎臓の検査をもっと詳しく見よう」と、余計な尿検査やエコー、腎臓専門医への紹介が行われます。患者は、必要のない不安や経済的負担を背負わされるのです。
クレアチンを飲んでいる人で、腎臓に問題が起きたという報告は非常に稀です。1例だけ、3グラムのクレアチンを飲んで急性腎不全になったという症例報告がありますが、その人は他のリスク要因(脱水、感染、薬の飲み合わせ)もあったため、クレアチンが直接の原因とは言えません。
正しいモニタリングの方法
クレアチンを飲んでいる人の腎機能を正しく評価するには、標準的な「クレアチニンベースのeGFR」では不十分です。代わりに、以下の2つの方法が推奨されています。
- シスタチンC(Cystatin C)を使ったeGFR:これは、クレアチニンとは異なる物質で、クレアチンの影響を受けません。シスタチンCの値で計算したeGFRは、実際の腎機能を95%の精度で反映します。日本でも一部の病院で導入され始めています。
- 24時間尿クレアチニンクリアランス:尿を1日分集めて、どれだけのクレアチニンが排出されたかを測る方法です。血液の値ではなく、実際に腎臓がどれだけの物質を濾過したかを直接見ることができます。
クレアチンを始める前に、まずは血液検査でクレアチニンとシスタチンCの両方を測っておきましょう。その後、クレアチンを飲み始めてから3〜6ヶ月後に再検査します。シスタチンCの値が変わらなければ、腎臓は問題なく働いていると判断できます。
もしシスタチンCの検査ができない病院なら、医師に「クレアチンを飲んでいる」と必ず伝えてください。そうすれば、クレアチニン値の上昇を「異常」と判断せず、経過観察に切り替えることができます。
医師に伝えるべきこと
腎臓病の薬を飲んでいる人、または腎機能が気になる人は、医師に次のことを正直に伝えてください:
- 「クレアチンを飲んでいます」
- 「1日何グラム飲んでいるか」
- 「いつから飲み始めたか」
- 「他のサプリメントや漢方薬も飲んでいるか」
医師は、サプリメントの情報を見落としがちです。薬のリストには「アスピリン」「ロキソプロフェン」は書いてあっても、「クレアチン」は書かれていないことが多いのです。あなたが伝えることで、誤診を防ぐことができます。
今後の展望:検査の進化
2024年、トロント大学の研究チームは、クレアチンを飲んでいる人のeGFR値に「0.9の補正係数」をかけることで、正確な腎機能を推定できる可能性を発表しました。つまり、クレアチニン値を10%引き算すれば、本当の腎機能に近づくという提案です。
この方法はまだ標準化されていませんが、今後、米国腎臓学会や日本腎臓学会が新しいガイドラインを出す予定です。2024年後半には、クレアチン使用者のための「腎機能評価の手順」が明確化される見込みです。
クレアチンは、今やアスリートだけのものではありません。高齢者の筋肉減少(サルコペニア)の予防、脳の保護、リハビリの補助など、医療分野での応用も広がっています。だからこそ、正しい使い方と正しい検査の仕方が、ますます重要になっています。
まとめ:安全に使うための3つのルール
- 腎臓病の薬を飲んでいる人や、eGFRが60以下なら、クレアチンの使用は避ける。リスクが高まるだけです。
- 健康な人がクレアチンを飲むなら、必ずクレアチニンだけでなく、シスタチンCも測ってもらう。これだけで誤診のリスクはほぼゼロになります。
- 医師に「クレアチンを飲んでいる」ことを必ず伝える。サプリメントは「薬ではない」と思われがちですが、検査結果に大きな影響を与えます。
クレアチンは、正しい使い方をすれば安全なサプリメントです。でも、腎臓の検査結果を誤解させてしまう可能性があるからこそ、知識を持って使うことが大切です。あなたの腎臓を守るのは、医師ではなく、あなた自身の情報です。