トラマドールの発作リスク:最も危険な人は誰か
- 三浦 梨沙
- 25 2月 2026
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トラマドール発作リスクチェックツール
このツールは医療相談の代わりではありません。必ず医師に相談してください。
トラマドールは、中程度から中等度の痛みを和らげるために広く使われている鎮痛薬です。しかし、この薬には、予想外の発作を引き起こすリスクがあります。多くの人が、トラマドールは「安全なオピオイド」だと思っていますが、実際には、特定の条件や他の薬との組み合わせで、発作のリスクが急激に高まります。特に、高齢者や既に神経系に問題のある人にとっては、命に関わる危険になることがあります。
トラマドールが発作を引き起こす仕組み
トラマドールは、単なるオピオイド薬ではありません。二つの異なる働きを持っています。一つは、脳内のオピオイド受容体に作用して痛みを和らげる仕組み。もう一つは、セロトニンとノルエピネフリンという神経伝達物質の再取り込みを阻害する働きです。この後者の作用が、発作のリスクを高める原因になっています。
セロトニンが過剰に蓄積されると、脳の神経細胞が過剰に興奮し、異常な電気信号が広がります。これが発作の直接的な引き金になります。特に、薬の量が増えたり、他の薬と混ざったりすると、このバランスが崩れやすくなります。
研究によると、トラマドールの投与量が多いほど、発作のリスクは高くなります。緊急外来でトラマドール中毒の患者を調査したデータでは、発作を起こした人の半数以上(58%)が、一度に大量のトラマドールを摂取していたことが分かりました。単一の発作では平均850mg、複数回の発作では2800mgという極端な差がありました。つまり、量が多ければ多いほど、発作の確率は跳ね上がります。
最も危険なのはこの5つの人
すべての人が同じリスクでトラマドールを使えるわけではありません。以下のような人は、特に注意が必要です。
- 過去に発作やてんかんの歴史がある人:このグループは、トラマドールによる発作のリスクが3.7倍も高くなります。脳がすでに過敏な状態なので、トラマドールの刺激に耐えられません。
- 抗うつ薬と併用している人(特にSSRIやTCA):これは最も深刻なリスクです。セロトニンを増やす抗うつ薬(例:フルオキセチン、パロキセチン、アミトリプチリン)とトラマドールを一緒に使うと、セロトニンが急激に過剰になります。2023年の研究では、65歳以上の高齢者で、このような組み合わせをしていた人の発作発生率は、他の抗うつ薬と比べて9%も高くなりました。
- 腎臓の機能が低下している人:トラマドールは腎臓から体外に排出されます。腎機能が悪いと、薬が体内に長く残り、濃度が高くなりすぎます。FDAは、クレアチニンクリアランスが30mL/min以下の人はトラマドールの使用を禁忌としています。30~60mL/minの人は、1日400mgではなく、300mgまでに抑える必要があります。
- 高齢者(65歳以上):年齢とともに肝臓や腎臓の機能は低下します。また、多くの高齢者が複数の薬を飲んでいます。この「多剤併用」が、トラマドールのリスクを隠れた形で引き上げています。アメリカの高齢者医療学会は、2023年のガイドラインで、トラマドールを高齢者への「不適切な薬」として明確に警告しています。
- 大量摂取や静脈注射をした人:医師の指示を超えて大量に飲んだり、医療機関で静脈注射された場合、発作のリスクは数倍に跳ね上がります。ニュージーランドの報告では、静脈注射された患者のうち、3人が発作を起こしています。
なぜ抗うつ薬との併用が危険なのか
多くの人が気づかないのは、抗うつ薬とトラマドールの組み合わせが、単なる「薬の重なり」ではなく、化学的な「爆発」を引き起こす可能性があることです。
トラマドールは、体内で「O-デメチルトラマドール(M1)」という活性代謝物に変換される必要があります。この変換は、肝臓のCYP2D6という酵素が行っています。しかし、一部の抗うつ薬(例:パロキセチン、フルオキセチン)は、このCYP2D6酵素をブロックします。
すると、トラマドールは活性化されず、そのまま体内にたまります。同時に、活性代謝物の生成も減るため、痛みが十分に取れなくなります。その結果、患者は「効かない」と思い、自分で薬の量を増やしてしまいます。これが悪循環です。
研究では、この組み合わせで発作が起きるリスクが、他のオピオイド(例:ヒドロコドン)では見られなかったことから、このリスクはトラマドール特有であることが証明されています。
医師が見落としがちな現実
多くの医師は、トラマドールを「軽いオピオイド」として扱い、リスクを軽視しています。しかし、実際には、アメリカでは2022年に3850万回以上も処方されています。高齢者の慢性疼痛治療では、依然としてよく使われています。
しかし、患者の多くは、医師から「発作のリスク」について全く説明されていません。Redditの投稿には、「神経科医がセトラリンとトラマドールの併用の危険性を教えてくれなかった。32歳で初めて発作を起こし、今では一生抗てんかん薬を飲んでいる」という悲しい声が数多くあります。
薬の説明書には「他の薬と併用する場合は医師に相談」と書いてありますが、実際の診療では、この警告が形骸化しています。特に、精神科と整形外科の両方で薬を処方される患者は、情報がつながっていないケースが多々あります。
安全に使うための4つの行動指針
トラマドールをどうしても使わなければならない場合、以下の4つのルールを守ってください。
- 1日300mgを超えない:65歳以上の高齢者は、最大でも300mgまで。若い人でも、400mgを超えるのは危険です。
- 抗うつ薬と併用しない:特にSSRI(フルオキセチン、パロキセチン)やTCA(アミトリプチリン)とは絶対に併用しない。代わりに、CYP2D6を抑制しない抗うつ薬(セイチュラム、エスシタロプラム)を検討しましょう。
- 腎機能をチェックする:処方前にクレアチニン値を確認し、腎機能が低下している場合は、必ず用量を減らす。
- 発作歴やてんかんの既往歴を伝える:医師に「過去に発作を起こしたことがある」「てんかんの薬を飲んでいる」ことを必ず伝えてください。隠すと命に関わります。
代替薬はありますか?
トラマドールの代わりに使える安全な選択肢は、実はたくさんあります。
- アセトアミノフェン(パラセタモール):肝臓に負担はありますが、発作リスクはゼロです。軽度~中等度の痛みには十分効きます。
- NSAIDs(イブプロフェン、ナプロキセンなど):胃や腎臓に注意は必要ですが、神経系への影響はほぼありません。関節痛や筋肉痛には有効です。
- 非オピオイド系の神経痛薬(ガバペンチン、プレガバリン):神経由来の痛み(坐骨神経痛、糖尿病性神経障害など)には、トラマドールより効果的で安全です。
痛みが強いからといって、リスクの高い薬を選ぶ必要はありません。医師と相談して、自分に合った安全な選択肢を見つけることが、長期的な健康を守る第一歩です。
トラマドールで発作が起きたらどうすればいいですか?
すぐに救急車を呼んでください。発作が続くと脳にダメージが蓄積する可能性があります。救急隊員に「トラマドールを飲んだ」と伝えることが、治療の鍵になります。病院では、抗てんかん薬(例:ロラゼパム)が投与され、体内のトラマドールを排出するための処置が行われます。自力で対応せず、必ず医療機関に連れて行ってください。
トラマドールとSSRI(例:セロキセチン)は絶対に一緒に飲んではいけないのですか?
はい、基本的には一緒に飲んではいけません。2023年の大規模研究では、この組み合わせで発作リスクが9%上昇することが明確に示されています。特に高齢者では、このリスクが現実的な命の危険になります。どうしても両方必要なら、医師と薬剤師が連携して、CYP2D6を抑制しない抗うつ薬(例:エスシタロプラム)に切り替える必要があります。自己判断で薬を変更しないでください。
トラマドールを飲んでいて、てんかんの薬を飲んでいる場合、どうすればいいですか?
トラマドールは絶対に避けてください。てんかんの薬は、脳の興奮を抑えるために使われています。トラマドールは逆に、そのバランスを崩して発作を引き起こす可能性があります。過去の症例では、トラマドールを始めた直後にてんかん発作が急増したケースが報告されています。痛みの管理には、アセトアミノフェンやガバペンチンなどの代替薬を医師と相談して選んでください。
トラマドールの処方を減らす動きがあると聞きましたが、なぜですか?
2018年から2023年の間に、アメリカでのトラマドールの処方量は18.7%減少しています。理由は、発作リスクや依存性の問題が明らかになったためです。FDAは2022年に、腎機能が悪い人への用量制限を強化し、欧州やニュージーランドも同様に警告を強化しました。高齢者への処方を減らす動きは、医療の安全性を高めるための自然な進化です。
CYP2D6の遺伝子検査を受けるべきですか?
現在のところ、一般的な推奨ではありませんが、将来は可能性があります。CYP2D6の遺伝子型が「低代謝型」の人だと、標準用量でもトラマドールの血中濃度が3.2倍になることが分かっています。こうした人は、発作リスクが非常に高くなります。今後、高齢者や複数の薬を飲んでいる人を対象に、遺伝子検査が臨床現場に導入される可能性があります。まずは、医師に「自分の体質に合った薬」を相談することが大切です。
トラマドールは、痛みを和らげるための便利な薬ですが、安全な薬ではありません。特に、高齢者や他の薬を飲んでいる人にとっては、リスクが隠れている可能性があります。医師の指示を盲信せず、自分の体と薬の関係を理解することが、本当の「自己管理」です。