小児の年齢に応じた一般的な疾患に対する適切な薬剤の選び方

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子どもに薬を出すとき、大人の半分の量でいいと思っていませんか?実は、それはとても危険な間違いです。子どもは小さな大人ではありません。体の仕組み、薬の吸収や分解の仕方、代謝のスピードが大人とはまったく違うからです。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)のデータでは、小児の入院の約4%が不適切な薬の使用が原因で、その半分は1〜10歳の子どもたちです。薬の選び方、量の決め方、形態(錠剤かシロップか)まで、年齢に合わせて細かく調整しなければ、命に関わる事態にもなりかねません。

子どもに使える薬と使えない薬の明確な境界線

小児に絶対に使ってはいけない薬があります。それはコデイントラマドールです。これらは成人ではよく使われる鎮痛薬ですが、子どもでは呼吸が止まるリスクが非常に高くなります。なぜなら、子どもはこれらの薬を体内でモルヒネに変換する酵素の働きが大人と大きく異なるからです。一部の子どもは、たった1錠で劇的にモルヒネが増えて、呼吸が止まってしまうのです。アメリカ小児科学会(AAP)とFDAは、18歳以下の子どもへの使用を完全に避けるよう強く警告しています。

もう一つ注意が必要なのはアスピリンです。子どもにアスピリンを飲ませると、レイ症候群というまれだが致死的な病気を引き起こす可能性があります。この病気は肝臓と脳に深刻なダメージを与えます。そのため、18歳以下の子どもにはアセトアミノフェン(タイレノールなど)やイブプロフェン(ブロフェンなど)が第一選択薬です。ただし、イブプロフェンは胃に負担をかける可能性があり、1日あたりの用量を守らないと胃炎を起こすことも。用量は体重に応じて決まります。通常、1回あたり4〜10mg/kgを6〜8時間おきに投与し、1回の最大量は600mgまでです。

抗生物質は年齢で大きく変わる

中耳炎や風邪の二次感染でよく処方される抗生物質も、年齢によって使い分けが必須です。第一選択はアモキシシリンです。アメリカの小児科ガイドラインでは、小児の耳の感染症の87%でアモキシシリンが第一選択とされています。用量は体重に基づき、1日あたり25〜35mg/kgを3回に分けて投与。1回の最大量は500mgです。7日間続けるのが基本です。

一方で、フルオロキノロン系(シプロフロキサシンなど)は、子どもには原則として使われません。成人では効果的ですが、子どもでは軟骨にダメージを与える可能性があるため、18歳以下では避けるべきです。また、アジスロマイシンはアレルギーがある場合の代替薬ですが、耐性菌の増加が問題で、25〜40%の肺炎球菌がすでに耐性を示しています。だからこそ、必ず必要なときだけ、正確な量で使うことが大切です。

年齢別に薬の形態が決まる理由

薬の形態も年齢によって変わります。生後3か月〜2歳の乳児には、液体が基本です。錠剤を飲み込める年齢ではありません。でも、液体薬は味が苦くて、子どもが拒否することもよくあります。そこで、最近ではイチゴやグレープフルーツの風味をつけたオセルタミビル(タミフル)のシロップが開発され、2〜7歳の子どもでの服薬遵守率が58%も向上しました。

2〜11歳の子どもには、噛める錠剤舌で溶ける錠剤が適しています。これらは水がなくても飲めるので、学校や外出先でも使いやすいです。12歳以上になると、大人と同じ通常の錠剤カプセルが使えるようになります。ただし、体重が軽い12歳の子どもには、大人の1錠を半分に割るのではなく、小児用の正確な用量を守ることが重要です。

薬剤師が正確な量を測定し、破壊されるアスピリンとコデインの薬片が浮かぶシーン。

体重で決める投与量の計算方法

「何歳だから○mg」という決め方は、子どもには通用しません。なぜなら、同じ年齢でも体重は大きく違うからです。正しいのは、体重(kg)に応じたmg/kgで計算することです。たとえば、アセトアミノフェンの1回の用量は15mg/kg。体重15kgの子どもなら、1回225mgです。最大用量は1日あたり75mg/kg、上限は3,750mgまでです。この上限を越えると肝臓に深刻なダメージを与えます。

計算ミスは、小児薬の誤用の最大の原因です。米国薬物誤用防止協会(ISMP)のデータでは、小児薬の誤用の32%が小数点の間違い(例:2.5mlを25mlと読み間違える)です。だから、薬の量を測るときは、必ず薬局で貰った専用のスプーンや注射器を使いましょう。キッチンのスプーンやお茶碗では、誤差が大きすぎて危険です。子どもが18か月のとき、イブプロフェンの2.5mlを正確に測るのに、親が化学実験をしているように感じると、SNSで話題になるほどです。

薬の選び方で困ったときの頼れるツール

小児の薬の処方には、専門的な知識と経験が必要です。新米の医療従事者でも、正確に処方できるようになるまでには6〜12ヶ月の指導が必要です。そんなときに頼れるのが、Lexicomp小児用投与ハンドブック(2024年版)です。1,247種類の薬について、年齢別・体重別の正しい用量が詳しく載っています。また、FDAが提供する小児用投与計算アプリは、小児薬剤師の63%が日常的に使っています。

病院では、電子カルテ(Epicなど)に小児用安全モジュールを導入することで、不適切な投与量のミスが61%も減りました。これは、システムが「この体重の子どもにこの薬をこの量で出すと危険」と自動で警告してくれるからです。地域のクリニックではまだ導入が進んでいませんが、子どもたちの安全のため、できるだけ導入を進めるべきです。

3Dプリンターで子ども専用の薬を作り、世界の薬の格差を象徴する二つの世界が対比される。

薬が苦手な子どもへの対処法

「薬を飲ませるのが毎日の大変な戦い」と感じている親はとても多いです。Redditの小児科ナースが「2歳の子どもに苦い抗生物質を飲ませるのは、小さなテロリストと交渉するようなもの」と表現するほどです。その原因の一つは、薬の味です。薬の製造会社は、味を改善するための研究を続けています。例えば、モテルカスト(シングレア)は、アレルギー性鼻炎や喘息に使われますが、18歳以下では眠気や気分の変化のリスクがあるため、注意が必要です。しかし、味が悪く、子どもが拒否するケースが多かったため、現在はフレーバーを改善した形態が登場しています。

対策として、薬をジュースやアイスクリームに混ぜるのはNGです。薬の吸収が変わったり、味が悪くなって全体を拒否してしまう可能性があります。代わりに、薬を口の奥に直接流し込む方法や、薬の後に冷たい飲み物を飲ませることで味を和らげるのが効果的です。また、子どもが薬を飲んだら、すぐにほめること。小さな褒め言葉が、服薬の習慣をつける第一歩になります。

今後の小児薬の未来:個別化とアクセスの格差

小児薬の開発は、ここ数年で大きく進んでいます。世界保健機関(WHO)の2023年版小児用必須医薬品リストでは、1か月〜5歳と5〜12歳で明確に分けて薬の選択を示しています。また、アメリカのFDAは、2024年に「小児用薬の開発ガイドライン」を更新し、味や飲みやすさのテストを必須にしました。

将来の技術としては、3Dプリンターで一人ひとりに合わせた薬をつくる方法が研究されています。 Cincinnati Children’s Hospitalでは、体重10kgの子どもにぴったりの用量の薬を、3Dプリンターで作る実験が進んでいます。これで、薬を割ったり、液体を正確に測ったりする必要がなくなります。

しかし、問題も残っています。低所得国では、必要な小児用薬の34%しか手に入りません。一方、高所得国では92%が利用可能です。薬は、子どもが生まれた国によって、生きるか死ぬかの差になるのです。WHOは2030年までに、低所得国でも90%の小児用薬を手に入れられるようにする目標を掲げています。それは、子どもたちが「大人の薬を小さくした物」ではなく、子どもにちゃんと効く薬を受ける権利があるからです。