製造品質問題の通報における内部通報者保護の実情と対応手順

工場で働く従業員が、製品の品質問題を報告したとき、本当に守られるのでしょうか？日本の製造業でも、米国と同様に、不良品や安全基準違反を内部で告発する人が増えています。しかし、報告した瞬間に昇進が止まったり、無理な転勤を命じられたり、あるいは解雇されたりするケースも実際に起きています。法律が整備されていても、実際の保護は甘くありません。

なぜ製造業の品質問題を報告することが重要なのか

製品の品質が悪いと、消費者が怪我をしたり、命を落としたりする可能性があります。米国消費者製品安全委員会（CPSC）の2021年報告によると、製品リコールの72%は、社内の従業員が通報したことがきっかけでした。これは、外部の監査や検査ではなく、現場の人が気づいた問題が、多くの命を救っていることを意味します。

たとえば、子供用おもちゃに鉛が含まれていたり、医療機器の部品に不適切な材料が使われていたり、自動車のブレーキ部品に亀裂が入っていたりする場合--これらは、誰かが声を上げなければ、そのまま市場に出回っていた可能性が高いです。通報者は「会社のため」ではなく、「人のため」に行動しているのです。

米国で認められている主な保護法

米国では、製造業における品質問題の通報を保護する法律が複数存在します。その中でも特に重要なのは、次の3つです。

• CPSIA（Consumer Product Safety Improvement Act）：おもちゃ、家具、衣類などの消費者製品に関係する品質・安全違反を報告した従業員を保護。2022年には、58%の通報が鉛含有量の違反、27%が繊維の可燃性問題でした。
• FSMA（FDA Food Safety Modernization Act）：食品製造工場で衛生基準違反（例：カビ、異物混入、温度管理不備）を報告した人を保護。2022年には142件の通報があり、その63%が不衛生な加工環境に関するものでした。
• MAP-21（Moving Ahead for Progress in the 21st Century Act）：自動車や部品メーカーの従業員が、車両の安全上の欠陥を報告した場合に適用。2022年には、全車両リコールの41%が内部通報が原因でした。

これらの法律は、単に「外部の政府機関に通報した」場合だけでなく、「会社の上層部に報告した」場合も保護対象です。つまり、まず社内に声を上げてみる--それが法律的にも推奨されている第一歩です。

通報の手続きと期限：間違えると保護されない

保護を受けるためには、期限を守ることが絶対条件です。期限を過ぎれば、どんなに正しい通報でも、法律は守ってくれません。

• CPSIAやFSMA：通報は発生から180日以内に労働省OSHAに提出
• MAP-21（自動車関連）：30日以内
• 環境関連：45日以内

2021年の政府監査院（GAO）の報告では、41%の通報が「期限切れ」で却下されていました。これは、多くの人が「あとで考えよう」と思って、結局行動しなかったことを示しています。

OSHAは通報を受け取ってから60〜90日以内に調査結果を出し、違法な報復が確認されれば、復職、遅延給与の支払い、慰謝料、弁護士費用の補填などの救済措置を命じます。2022年の平均救済額は28万7,500ドルでした。

報復の実態：法律があっても、現実は厳しい

法律が整備されていても、実際には多くの人が報復を受けています。米国司法省の2022年報告では、通報した人の68%が何らかの報復を経験しました。

最も多かったのは：

• 「建設的解雇」（32%）：職務を変更され、働きにくくして自ら辞めさせる
• 「ブラックリスト」（27%）：業界内で転職が難しくなるように情報が回る
• 「昇進の拒否」（24%）：能力があっても、なぜか選ばれない

特に医療機器や自動車部品の製造現場では、品質問題の証拠を集めるのに8〜12週間かかります。その間、上司や同僚から冷ややかな目で見られ、孤立する人も少なくありません。

重要なポイント：証拠を残すことが生存の鍵

「言った・言わない」の水掛け論にならないために、必ず記録を残してください。

• 問題が起きた日付
• どの製品番号、ロット番号か
• どの基準に違反しているか（例：ISO 9001、FDA 21 CFR Part 820）
• 誰に、いつ、どのように報告したか（メール、書面、会議のメモ）
• 報告後に起こった変化（昇進が止まった、仕事の内容が変わったなど）

証拠がなければ、いくら「品質が悪い」と言っても、単なる「不満」や「個人的な恨み」と見なされます。特に、医療機器や航空部品のような高度な製品では、技術的な説明が求められます。専門家に相談しながら、正確なデータを積み上げることが必要です。

会社の内部通報制度はどれだけ整備されているか

2022年の製造エンジニア協会（SME）の調査では、79%の従業員が「品質保証部門に正式な通報制度が必要」と答えました。しかし、実際にそのような制度を導入している企業はたったの34%でした。

これはつまり、多くの会社が「通報は悪」だと無意識に思っているということです。制度がないなら、まずは上司や人事に「通報のルールをつくりましょう」と提案してください。法律は「会社が制度を持っていなくても」保護しますが、制度があるほうが、報復を防ぐ力になります。

最近の変化：保護の範囲が広がったが、壁もできた

2023年、OSHAはすべての通報制度の調査手順を統一し、平均調査期間が192日から147日に短縮されました。また、CPSCは「内部通報者オムブズマン」を新設し、通報者への相談窓口を強化しました。

一方で、2022年の最高裁判所の判決（Murray v. UBS Securities）で、通報内容が「明確で詳細」でなければ保護されないという基準が導入されました。これにより、通報件数は直後6か月で15%減少しました。つまり、「ちょっと気になった」だけではダメ。証拠と論理が必要になったのです。

また、非開示契約（NDA）に従っているからといって、通報が禁止されるわけではありません。2023年1月、エネルギー省は、政府契約企業の従業員が、NDAの存在に関わらず、品質問題を報告する権利を明確に保証しました。

行動の手順：通報を考えている人のためのチェックリスト

もし、あなたが製造現場で品質問題に気づいたなら、次の手順で行動してください。

1. 証拠を記録する：日付、製品番号、基準、写真、メール、メモをすべて残す
2. 社内報告を試す：品質管理部門や人事に、書面で報告する。口頭だけは避ける
3. 期限を確認する：どの法律が適用されるかを調べ、180日以内にOSHAに通報する準備をする
4. OSHAに相談する：1-800-321-OSHA（6742）に電話。無料でアドバイスをもらえる
5. 報復が起きたら、すぐに行動：解雇、冷遇、転勤などがあれば、直ちにOSHAに通報。30日以内が期限

多くの人が「会社をやめるのが怖い」と思いますが、法律はあなたを守るための武器です。正しく使えば、あなたは一人で戦っているわけではありません。

通報者に必要なのは、勇気ではなく、知識

「通報＝裏切り」と思われがちですが、本当の裏切りは、品質が悪い製品を放置して、誰かが怪我するのを待つことです。

あなたの通報は、工場の責任者を責めるためではありません。安全な製品をつくるために、正しいことをするための行動です。そして、法律は、その行動を守るよう設計されています。

知識を持って、冷静に、記録を残して、声を上げてください。あなたが動けば、誰かの命が救われるかもしれません。