HER2陽性乳がん:標的療法をわかりやすく解説

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HER2陽性乳がんは、乳がんの約15~20%を占める特殊なタイプです。このがんは、細胞表面に過剰に現れるHER2というたんぱく質によって、がん細胞が急激に増える特徴があります。25年前、このHER2が治療のターゲットになることが分かってから、乳がんの治療は大きく変わりました。かつては予後が悪かったHER2陽性乳がんは、今では多くの患者さんが長く生きられる病気になりました。

HER2とは?なぜ治療のターゲットになるのか

HER2は「ヒト上皮成長因子受容体2」というたんぱく質で、細胞が正常に増えるために必要なサインを送る役割を持っています。しかし、HER2陽性乳がんでは、この受容体が異常に多く作られ、がん細胞に「どんどん増えてください」という誤った信号が送り続けられます。その結果、がんは急成長し、他の臓器に転移しやすくなります。

このメカニズムが分かったことで、医療界は「HER2をブロックすれば、がんの成長を止められる」と考えました。それが標的療法の始まりです。従来の化学療法は、がん細胞だけでなく正常細胞も攻撃するため、吐き気や脱毛などの強い副作用がありました。しかし、HER2にだけ反応する薬は、がん細胞にピンポイントで働きかけるため、副作用が比較的少ないのが大きなメリットです。

主要な標的療法の種類と仕組み

現在、HER2陽性乳がんには4つの主要な薬のクラスがあります。それぞれ、異なる仕組みでHER2を攻撃します。

  • モノクローナル抗体:トリズツマブ(ハーセプチン)やペルツツマブ(ペルジェタ)など。これらはHER2の表面に直接くっつき、がん細胞に「増えてください」という信号を送らせなくします。トリズツマブは静脈注射または皮下注射で使われ、多くの患者さんの治療の基盤になっています。
  • 抗体薬複合体(ADC):これは「がん細胞に爆弾を運ぶミサイル」のような薬です。トリズツマブ・エムタシン(T-DM1/カドセラ)やトリズツマブ・デルクテカン(T-DXd/エンヘルツ)は、HER2に結合する抗体の部分と、がん細胞を殺す薬の部分がくっついています。HER2がある細胞だけに薬が届くため、他の細胞へのダメージが少なく、効果が強いです。
  • チロシンキナーゼ阻害剤(TKI):ラパチニブ(タイカーブ)、ネラチニブ(ネリンクス)、ツカチニブ(チューキサ)など。これらは飲み薬で、細胞の中のHER2の信号を遮断します。特にツカチニブは、脳への転移がある患者さんに効果が高く、脳への薬の浸透が得意です。
  • 新世代の抗体:マーゲトキシマブ(マージェナ)は、他のHER2治療が効かなくなった患者さんに使われます。既存の抗体とは違う方法でHER2を攻撃するため、耐性ができた場合でも有効なことがあります。

治療の流れ:ステージごとの選択肢

HER2陽性乳がんの治療は、がんの進行度によって大きく異なります。

  1. 早期(手術可能な段階):手術前にトリズツマブとペルツツマブを併用して化学療法を行う「ニューアジュバント療法」が標準です。これにより、腫瘍が小さくなり、手術の範囲を減らすことができます。手術後は、約1年間トリズツマブを継続して投与します。
  2. 転移性(広がった段階):1番目の治療として、トリズツマブ+ペルツツマブ+化学療法の組み合わせが使われます。2番目はT-DM1(カドセラ)が選ばれることが多いです。3番目以降では、T-DXd(エンヘルツ)やツカチニブ+トリズツマブ+カペシタビンの組み合わせが有効です。

特に注目されているのが、T-DXd(エンヘルツ)です。2023年の臨床試験では、T-DM1と比べて、がんの進行や死亡のリスクが72%も減りました。この薬は、HER2の量が少ない「HER2-low」と呼ばれる患者にも効果があることが分かっており、乳がん全体の約50~60%の患者がこの治療の対象になります。

人体内での戦い:T-DXdミサイルがHER2受容体を破壊し、がん細胞が爆発するダイナミックなシーン。

副作用とその対処法

標的療法は従来の化学療法より副作用が少ないですが、それぞれ特有の問題があります。

  • 心臓への影響:トリズツマブやペルツツマブは、心臓の筋肉に影響を与えることがあります。約2~7%の患者が心不全を起こす可能性があります。そのため、治療開始前と3か月ごとに心臓の機能(左室駆出率)をエコーでチェックします。
  • 肺の問題:T-DXdは、間質性肺炎(肺の炎症)を起こすリスクがあります。臨床試験では10~15%の患者で症状が出ました。咳が続く、息苦しい、発熱がある場合は、すぐに医師に相談が必要です。
  • 下痢:ネラチニブなどのTKIは、重度の下痢を引き起こすことがあります。対策として、治療開始から2週間は下痢止め(ロペラミド)を予防的に飲むルールがあります。
  • 血小板減少・肝機能異常:T-DM1を使うと、血小板が減ったり、肝臓の数値が上がることがあります。定期的な血液検査で見つけて対応します。

皮下注射の新薬「フェスゴ」は、従来の90分の点滴が5分の注射に変わり、患者の生活の質を大きく改善しています。多くの患者が「通院時間が短くなって、仕事や家庭のスケジュールが立てやすくなった」と話しています。

最新の研究と未来の治療

HER2陽性乳がんの研究は、今も急速に進んでいます。

  • HER2-ultralowへの拡大:T-DXdは、HER2の量が極めて少ない(IHC 0でも膜にわずかに反応する)患者にも有効である可能性が出てきました。現在、臨床試験(DESTINY-Breast06)が進行中で、将来的には70%以上の乳がん患者がこの治療の対象になるかもしれません。
  • 脳転移への対応:ツカチニブは、脳にがんが広がった患者の生存期間を延ばす唯一の薬です。従来の薬は脳に届きにくかったため、脳転移は治療の難点でしたが、この薬で大きな進歩がありました。
  • 新しい薬の登場:複数の抗体を同時にターゲットにする「ビセクシック抗体」や、次世代のADCが臨床試験段階にあります。中には、従来の薬が効かない患者でも35~45%が反応するものもあります。
  • 免疫療法との組み合わせ:T-DXdと免疫チェックポイント阻害剤(例:ペムブロリズマブ)を組み合わせる試みも始まっています。がん細胞を直接攻撃するだけでなく、自分の免疫システムを活性化させる戦略です。
5分の注射を受けている女性。過去の長い化学療法の幻影が消え、静かな朝の光に包まれている。

治療の選択で大切なこと

HER2陽性乳がんの治療は、単に「薬を飲む」だけでなく、患者の生活、心臓の健康、脳の状態、治療の順番を総合的に考えなければなりません。例えば、若い女性で仕事を持っている人なら、週1回の点滴より5分の注射が良いかもしれません。脳転移のリスクがある人なら、ツカチニブが最初から選ばれる可能性があります。

薬の価格も現実的な問題です。T-DXdはアメリカでは月に約17,000ドル(約250万円)かかります。日本では公的医療保険が適用されていますが、それでも負担は大きいです。そのため、医師としっかり話し合い、治療のメリットとリスクを理解することが、本当に大切なことです。

患者の声:治療のリアル

ある患者は、「トリズツマブの点滴は毎週2時間も病院にいる必要があって、子どもを保育園に迎えに行くのが大変だった。フェスゴになって、5分で終わるようになって、生活が変わった」と話しています。

一方で、T-DXdの治療を受けたある患者は、「咳が止まらなくて、肺がんかと思った。病院で検査したら、薬の副作用だと分かってホッとした」と語っています。

また、ネラチニブを飲んで重度の下痢に悩まされ、「治療をやめてしまった」という声もあります。それでも、「再発を防ぐためなら我慢しよう」と思っていたのに、体が耐えられず中止したのです。

こうした声は、薬の効果だけでなく、生活の質や心理的な負担も治療の一部であることを教えてくれます。

HER2陽性乳がんは、なぜ他の乳がんと違うのですか?

HER2陽性乳がんは、がん細胞の表面にHER2というたんぱく質が異常に多くあることが特徴です。このたんぱく質ががんの成長を加速させるため、従来の治療では効きにくく、進行が早かったのです。しかし、このHER2を狙う薬(標的療法)が開発されたことで、他のタイプの乳がんとは異なる、効果の高い治療法が確立されました。

T-DXd(エンヘルツ)は、なぜ注目されているのですか?

T-DXdは、従来の薬よりもはるかに効果が高いことが複数の臨床試験で確認されています。特に、T-DM1で効果が弱くなった患者でも、がんの進行や死亡のリスクを72%も減らすことができます。さらに、HER2の量が少ない「HER2-low」の患者にも効果があり、乳がん全体の半数以上が対象になる可能性があります。これは、乳がん治療の常識を変えるほどの進歩です。

脳転移がある場合、どの薬が有効ですか?

従来の抗体薬(トリズツマブなど)は、脳への浸透が悪く、脳転移には効きにくいでした。しかし、ツカチニブ(チューキサ)という飲み薬は、脳にしっかり届くように設計されており、臨床試験で脳転移のある患者の生存期間を延ばす効果が証明されています。現在、脳転移があるHER2陽性乳がんの患者には、ツカチニブが標準的な選択肢の一つです。

標的療法の副作用で、最も怖いのは何ですか?

患者の多くが心配するのは、心臓の機能低下と肺の炎症(間質性肺炎)です。心臓の問題は、定期的な検査で早期に見つければ対応できます。しかし、肺の炎症は急に重くなることがあるため、咳や息切れが続く場合は、すぐに医師に連絡することが重要です。T-DXdでは、この副作用が10~15%の患者で起こるため、注意が必要です。

治療を続けるべきか、やめるべきか、どう判断すればいいですか?

治療の継続は、がんの反応だけでなく、生活の質や体の負担とバランスを取ることが大切です。がんが小さくなっていても、重度の下痢や疲労が毎日続くなら、薬の量を減らしたり、別の薬に変える選択肢があります。医師と「何を重視したいか」を話し合うことが、正しい判断の鍵です。治療は、がんを倒すだけではなく、患者さんが「どんな生活を送りたいか」にも応えるものです。

コメント

Hana Saku
Hana Saku

この記事、ちょっと整理されてないよね。HER2-lowの話が中途半端。T-DXdの臨床試験データはちゃんと引用してほしい。医療情報は誤解を招くと命に関わるんだよ?
あと、『25年前』って書いてあるけど、ハーセプチンの承認は1998年で、26年前だよ?Grammar Naziとして指摘しておく。

2月 11, 2026 AT 15:38

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