IBD手術:腸切除、人工肛門、術後ケアのすべて

alt

IBD手術とは何か?

炎症性腸疾患(IBD)には、クローン病と潰瘍性大腸炎の2つがあります。薬で症状がコントロールできなくなったとき、手術が選ばれます。これは「最後の手段」ではなく、生活の質を大きく改善するための有効な選択肢です。日本の医療現場でも、薬が効かない患者の多くが手術を受けています。

クローン病の患者の約75%、潰瘍性大腸炎の患者の15~30%が、生涯に一度は手術を必要とします(クローン・潰瘍性大腸炎財団、2023)。手術の目的は、痛みや下痢、血便をなくし、大腸がんのリスクをゼロにすること。そして、毎日トイレに駆け込む生活から解放されることです。

腸切除(レセクション):病変部分を切り取る

クローン病では、腸の一部が炎症や狭窄(きょうさき)で詰まりやすくなります。その部分だけを切除するのが「腸切除」です。特に右側の大腸(回腸と結腸のつなぎ目)がよく affected されます。この手術では、病気の部分を切り取り、残った健康な腸をつなぎ直します。この方法を「回腸結腸吻合術」といいます。

この手術は、開腹ではなく、腹腔鏡(みぞおちに小さな穴を数個あけて行う)で行われることが増えています。入院期間は3~5日。術後、痛みはありますが、早期に歩けるようになり、食事も普通に戻ります。ただし、クローン病は再発しやすい病気です。5年後には60~70%の人が再発せず、10年後には80%が再発してしまうというデータもあります。だから、手術後も薬を飲み続けることが大切です。

人工肛門(オストミー):便の通り道を体外に作る

潰瘍性大腸炎の重症例では、大腸と直腸をすべて取り除く「全結腸直腸切除術」が必要になります。そのとき、便を体外に排出するための出口を作るのが「人工肛門」です。これは、腹部に小さな穴(ストーマ)を開け、腸の先端を皮膚の上に固定します。ストーマの大きさは、約2.5cm。おへその大きさくらいです。

このストーマからは、便が自然に出てきます。専用のバッグを貼って、便を受け止めます。このバッグは、1日に4~6回、空にする必要があります。最初は怖いかもしれませんが、慣れれば日常生活に支障はありません。多くの人が「トイレの心配がなくなった」「血便がなくなった」と言います。

人工肛門は「永久的」か「一時的」の2種類があります。一時的なのは、腸をつなぎ直す前の「治癒のための休憩」です。通常、8~12週間で取り除きます。永久的なのは、直腸をすべて取り除いた場合、または腸をつなげられない場合です。

永久人工肛門を持つ人物が朝の浴室で静かに立っている。

IPAA(Jパウチ手術):自然な便通を再現する

潰瘍性大腸炎で、直腸の機能が保てるなら、最も人気の手術が「IPAA(回腸肛門吻合術)」、通称「Jパウチ手術」です。大腸と直腸を切除した後、末梢の小腸(回腸)を8~10cmほど切り取り、Jの字に折りたたんで肛門に縫い付けます。これが「パウチ」です。便はこの袋にたまり、自然に肛門から出ます。

この手術は、通常、3段階で行われます。

  1. 最初に大腸を全部取り、一時的な人工肛門を作ります(入院5~7日)
  2. 8~12週後、Jパウチを作り、肛門とつなぎます(入院4~6日)
  3. さらに数週間後、一時的な人工肛門を閉じます(入院3~5日)

この手術を受けると、1日に4~8回、便が出るのが普通です。夜中に漏れることもありますが、多くの患者は「以前よりずっと楽になった」と言います。長く生き残るパウチの割合は、10年で90%にのぼります(アメリカ結腸直腸外科医学会、2022)。

手術後のケア:生活を再構築する

手術が終わっても、ケアは始まったばかりです。特にJパウチの患者は、最初の6~12ヶ月で便の回数や質が安定するまで、試行錯誤を繰り返します。最初は1日に10回以上出ることもありますが、徐々に4~8回に落ち着きます。

食事は、最初は繊維の少ないものから始めます。野菜の皮、ナッツ、ポップコーンは避けるのが基本です。水分は1日8~10杯(約2リットル)をしっかり摂る必要があります。脱水になると、パウチが詰まったり、体調を崩したりします。

人工肛門の患者は、皮膚のケアが重要です。バッグの粘着部分が肌に合わないと、かぶれや痛みが出ます。専門の「傷・オストミー・便失禁看護師(WOC看護師)」に、手術前に相談するのがベストです。彼らは、バッグの選び方、貼り方、皮膚のケアを丁寧に教えてくれます。

Jパウチ手術の三段階と、術後の自由な生活を象徴するシーン。

リスクと合併症:知っておくべきこと

どんな手術にもリスクがあります。Jパウチでは、パウチが炎症を起こす「パウチ炎」が、40%の人に起こります。これは抗生物質で治りますが、何度も繰り返すこともあります。また、パウチと肛門のつなぎ目(吻合部)が壊れる「吻合部漏れ」は、5~15%の人に起こります。これは重篤な合併症で、再手術が必要になることもあります。

女性の場合、Jパウチ手術後、不妊のリスクが15%から50~70%に上昇します。男性では、勃起不全のリスクが15~20%高まります。これらのリスクは、手術前にしっかり説明され、同意を得る必要があります。

人工肛門の患者は、皮膚トラブル(41%)、体のイメージの変化(29%)に悩む人もいます。でも、多くの人が「最初は怖かったけど、今では普通の生活ができている」と言います。

最新の進歩:ロボットとスマートバッグ

手術はどんどん進化しています。ロボット支援手術では、手術時間が20%短くなり、合併症が15%減るというデータもあります(メイヨー・クリニック、2022)。また、2023年には、漏れを感知する「スマートオストミーバッグ」(OstoLert)がFDA承認されました。価格は約80ドルですが、夜間の漏れを防ぐ安心感は大きいです。

今後は、3Dモデルでパウチを個別に設計する技術や、腸の癒着を防ぐ新しい材料の開発が進んでいます。また、腸内細菌を移植してパウチ炎を防ぐ研究(NCT04872345)も始まっており、12か月で40%の減少効果が確認されています。

手術を決断するとき

「手術は怖い」と思うのは当然です。でも、薬で毎日苦しんでいるなら、手術は解放の道です。若い人(40歳以下)はJパウチを選ぶ傾向が強く、65歳以上では、リスクを避けて永久人工肛門を選ぶ人が78%います。

手術の成功率は、専門チームで行うと35%も上がります。だから、IBD専門の外科チームがいる病院を選ぶことが、結果を左右します。

「手術後、人生が変わった」という声は、実際に多くの患者から聞かれます。痛みがなくなり、外出できるようになり、友人と食事に行けるようになる。それは、薬では得られない、本当の自由です。

IBDの手術は、必ず必要になるのですか?

いいえ、必ずではありません。多くの患者は、薬で症状をコントロールできます。しかし、薬が効かない、副作用が強い、大腸がんのリスクが高い、または急に重篤な状態(中毒性巨結腸など)になったときは、手術が最適な選択になります。クローン病では75%、潰瘍性大腸炎では15~30%の人が、生涯に一度は手術を受けるとされています。

Jパウチと人工肛門、どちらがいいですか?

どちらがいいかは、個人の状況によります。Jパウチは、自然な便通を維持できるので、多くの人が選びます。でも、パウチ炎や吻合部漏れのリスクがあります。人工肛門は、手術が1回で済み、合併症が少ないのが利点です。肛門の機能が弱い人や、高齢者には、人工肛門が向いています。専門医とよく話し合い、自分のライフスタイルに合う方を選んでください。

手術後、仕事や旅行はできますか?

はい、できます。手術後3~6か月で、ほとんどの人が普通の仕事に戻れます。旅行も問題ありません。人工肛門のバッグは、薄くて目立たないものが多く、水着を着てもわかりません。Jパウチの患者は、便の回数を減らすために、旅行先の食事に注意する必要があります。でも、多くの人が海外旅行を楽しんでいます。

手術の費用はどれくらいですか?

日本では、医療保険が適用されるため、患者負担は3割(70歳未満)です。Jパウチ手術の総額は約150万~200万円(保険適用後)、人工肛門の手術は120万~180万円程度です。オストミーバッグやケア用品は、医療費控除の対象になります。また、自治体の障害者手帳や高額療養費制度を利用すれば、さらに負担を減らせます。

手術後に、痛みは長く続きますか?

手術後の痛みは、通常、数週間で落ち着きます。ただし、クローン病の患者では、手術後も腸の炎症が続くことがあるため、痛みが長引くことがあります。最近は、オピオイド(麻薬性鎮痛薬)の使用を減らす方向に進んでおり、非オピオイドの鎮痛薬や神経ブロックが積極的に使われています。IBD手術後の慢性オピオイド依存リスクは、他の腹部手術より22%高いとされていますので、鎮痛管理は慎重に行われます。