にんにくサプリと抗凝固薬:出血リスクの正しい対処法
- 三浦 梨沙
- 25 12月 2025
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にんにくは料理に欠かせない香辛料ですが、サプリメントとして摂取すると、抗凝固薬と重なると危険な出血リスクを高める可能性があります。多くの人が「自然な食材だから安全」と思いがちですが、にんにくサプリは薬と同じように体に強く作用し、特に血液を固まりにくくする薬と併用すると、手術中や外傷時に予期せぬ大量出血を引き起こすことがあります。
にんにくサプリが血液を薄くする仕組み
にんにくに含まれるアジョエンという成分は、血小板の凝集を不可逆的に抑える作用を持っています。血小板は出血時にかさぶたのように集まって止血する役割を担っていますが、アジョエンがこの働きを阻害すると、傷口から血液が止まりにくくなります。この効果は、にんにくを料理で少量使うだけでは現れません。サプリメントとして1日600〜1200mgという高濃度で摂取した場合に、臨床的に意味のある影響が出ます。
2012年の国立衛生研究所(NIH)の研究では、がんの手術を受けていた2人の患者が、にんにくサプリを服用していたために、予定していた腹腔鏡手術を中止し、開腹手術に切り替える事態になりました。どちらの患者も、普段は健康で、抗凝固薬を飲んでいなかったにもかかわらず、手術中に毛細血管から異常な出血が続き、腸の造設が必要になるほどでした。この事例は、にんにくサプリが「薬のように」作用する可能性を示す明確な証拠です。
抗凝固薬との組み合わせで起こる具体的なリスク
にんにくサプリを、ウォーファリン、アピキサバン、リバロキサバン、ダビガトランなどの抗凝固薬と同時に摂取すると、出血のリスクが大幅に上昇します。アメリカ心臓協会(AHA)は2023年の報告で、にんにくサプリと抗凝固薬の併用が原因で12件の脳内出血が報告されていると明言しています。
さらに、心血管疾患の患者を対象とした研究では、にんにくサプリを飲んでいた群で、血小板数が15万/μL以下になる「血小板減少症」の発生率が22.4%と、飲んでいない群の8.7%よりもはるかに高くなりました。出血で輸血を必要とした割合も、5.3%対1.2%と、3倍以上にのぼっています。
特に注意が必要なのは、アスピリンやクロピドグレル(抗血小板薬)と同時に飲んでいる人です。これらの薬も血小板の働きを抑えるため、にんにくサプリと重なると「二重の効果」で血液が極端に固まりにくくなります。これは、手術だけでなく、軽い転倒や鼻血、歯茎からの出血でも深刻な状態につながる可能性があります。
手術前の対応:いつからやめるべきか
にんにくサプリを飲んでいる人が手術を受ける場合、最も重要なのは「やめるタイミング」です。アメリカ麻酔科学会(ASA)や国立衛生研究所のガイドラインは、すべての手術の少なくとも7日前ににんにくサプリの摂取を中止するよう強く推奨しています。
この7日という期間は、アジョエンの作用が「不可逆的」であるためです。一度血小板の機能が抑えられると、新しい血小板が体に作られるまでに約7日かかります。つまり、3日前や1日前にやめても、手術中に出血リスクは依然として高いままです。
実際の手術データでは、7日前にやめた患者の出血量は、通常の患者とほぼ同じ(約427mL)でした。一方で、3日以内にやめた患者の出血量は783mLと、2倍以上に跳ね上がり、輸血が必要になった割合も28.6%と、8.2%の対照群と比べて3倍以上になりました。
食事で食べるにんにくは大丈夫?
「じゃあ、料理で使うにんにくは安全?」という疑問が湧きます。答えは、はい、大丈夫です。
1日ににんにく1〜2カケ(約3〜6g)を料理で摂取する程度なら、抗凝固薬との相互作用はほとんどありません。これは、食品としての摂取量ではアジョエンの濃度が十分に低く、血小板に影響を与えるほどではないからです。
問題になるのは、サプリメントで「濃縮された形」で大量に摂取することです。例えば、にんにく油抽出物や熟成にんにくエキス(Kyolicなど)は、通常のにんにくの数倍〜数十倍のアジョエンを含んでいます。これらの製品は「健康に良い」と宣伝されていますが、薬と同じようにリスクを伴うことを忘れてはいけません。
医師や薬剤師に伝えるべきこと
多くの患者が、サプリメントは「薬ではない」と思い込んでいて、医師に「にんにくサプリを飲んでいます」と言いません。しかし、これは重大なミスです。
アメリカのカリフォルニア大学サンディエゴ校の抗凝固管理サービスは、ウォーファリンを飲んでいる患者がにんにくサプリを飲み始めた場合、INR値(血液の凝固時間を測る指標)を48〜72時間以内に再検査するよう推奨しています。その結果、10〜25%の薬の用量調整が必要になるケースが多々あります。
手術を予定している人、あるいは抗凝固薬を長期服用している人は、必ず医師や薬剤師に「どんなサプリメントを飲んでいるか」を正直に伝えてください。にんにくだけでなく、魚油、ジンジャー、ギンコウ、ターメリックなども同様のリスクがあります。すべてのサプリメントをリストにして持参するのがベストです。
サプリメントの品質はまちまち
さらに厄介なのは、にんにくサプリメントの品質が製品ごとに大きく異なることです。2024年の調査では、市販の45製品のうち68%が、アジョエンの含有量をラベルに記載していませんでした。ある製品ではアジョエンが検出されず、別の製品では1粒あたり3.2mgも含まれていたという結果が出ています。
つまり、「にんにくサプリ1000mg」と書いてあっても、その中身が何を含んでいるかは、メーカー次第なのです。効果もリスクも、商品によってまったく違う可能性があります。
今後の研究と今できること
現在、アメリカ国立衛生研究所と臨床試験登録サイト(ClinicalTrials.gov)では、熟成にんにくエキスとアピキサバンの相互作用を調べる研究が進行中です。2024年後半には、より正確なデータが得られる見込みです。
一方で、今すぐできることは明確です:
- 抗凝固薬を飲んでいるなら、にんにくサプリはやめる
- 手術が決まったら、少なくとも7日前に摂取を中止する
- 食事に使うにんにくは、普通の量なら問題なし
- どんなサプリを飲んでいるか、医療チームに必ず伝える
にんにくは自然の薬草であり、抗菌・抗ウイルス・血圧降下作用など、多くの健康効果があります。しかし、サプリメントとして摂るときには、その「薬としての力」を忘れてはいけません。自然だから安全、という思い込みが、命に関わるリスクを生むことがあります。
あなたの体に薬が入っているなら、サプリも「薬」として扱うのが、本当の意味での健康への近道です。