化学療法の過敏反応:兆候と対応手順
- 三浦 梨沙
- 28 2月 2026
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化学療法の過敏反応とは何か
化学療法はがん治療の中心的な手段ですが、その一方で、体が薬に過剰に反応する「過敏反応」を起こすことがあります。これは単なる副作用ではなく、免疫システムが薬を「敵」と誤認して攻撃する現象です。軽い場合はかゆみや発疹で済むこともありますが、重くなると呼吸困難、血圧低下、意識障害を引き起こし、命に関わるアナフィラキシーに進展することもあります。
実際、がん患者の約28%が化学療法を受け、そのうち約5%が何らかの過敏反応を経験します。特にプラチナ系薬(カルボプラチン、オキサリプラチン)やタキサン系(パクリタキセル、ドセタキセル)は、反応を起こしやすいとされています。これらの薬は、何回も投与されるほど反応のリスクが高まります。たとえば、カルボプラチンでは、最初の5回の投与では1%未満のリスクですが、6回目以降で6.5%、7回以上では27%に上昇します。
どんな症状が出るのか?部位ごとのサイン
過敏反応の症状は、体のどこに現れるかで大きく分かれます。最初は軽いサインでも、数分で急変するため、すべての兆候に注意が必要です。
- 皮膚・粘膜:かゆみ(72%)、発疹や蕁麻疹(65%)、顔や口唇の腫れ(顔面腫脹)、口の中のピリピリ感や金属味、目のかゆみ(32%)
- 呼吸器:息苦しさ(45%)、咳、ゼイゼイする音、胸の締めつけ、気管支攣縮(23%)
- 循環器:めまい(27%)、動悸(15%)、血圧低下(収縮期血圧90mmHg以下、22%)、失神(18%)、脈拍が速くなる(100回/分以上、35%)
- 消化器:吐き気(35%)、嘔吐(28%)、腹痛(42%)、下痢(19%)
- 神経系:強い不安感(63%)、「何か悪いことが起きる」という予感(48%)、意識の混濁(12%)
- 全身:発熱(31%)、寒気(27%)、顔のほてり(58%)、大量の汗(29%)
特に注意すべきは、「顔の腫れ+息苦しさ+血圧低下」の組み合わせです。これはアナフィラキシーの典型的なパターンで、数分で心停止に至ることもあります。
反応はいつ起こる?タイミングの特徴
過敏反応は、薬の投与中や投与直後に起こることが多いですが、必ずしもそうではありません。多くの場合、最初の1〜2回の投与では反応が出ず、3回目以降で現れ始めます。しかし、カルボプラチンのように、投与回数が増えるほどリスクが高まる薬もあります。
また、反応が投与後数時間経ってから現れるケースもあります。そのため、自宅に戻ってから「喉がイガイガする」「かゆみが出てきた」と感じた場合でも、すぐに医療機関に連絡することが重要です。特に、薬の投与が終わった直後に「何か変だ」と感じたなら、それは「軽い反応の始まり」の可能性があります。
どうやって診断する?確認の方法
過敏反応かどうかは、症状の出方と、血液検査で裏付けます。医師は、以下の基準を組み合わせて判断します:
- 投与直後に症状が急に現れたか
- 呼吸器や循環器系の症状が伴っているか
- 過去に同じ薬で反応を起こしたことがあるか
血液検査では、以下のような指標が使われます:
- トライプターゼ(血中濃度が11.4ng/mL以上なら過敏反応の可能性高)
- 好酸球の増加(500個/μL以上)
- 好塩基球活性化テスト(薬に対する免疫反応を直接測定)
ただし、これらの検査はすぐに結果が出ないため、診断はまず「症状と経過」で行い、後から検査で確認するのが一般的です。
反応が起きたらどうする?対応手順
反応の重症度に応じて、対応は大きく変わります。
軽度(かゆみ、軽い発疹)
投与を一時停止。安静にし、抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン)とステロイド(デキサメタゾン)を静脈注射。15〜30分後に症状が治まれば、ゆっくりと投与を再開します。
中等度(顔の腫れ、呼吸困難、血圧低下)
すぐに投与を中止。酸素を供給し、体位は仰向けに足を高く上げる。抗ヒスタミン薬とステロイドを追加投与。症状が改善すれば、次回の投与は速度を落として行います。
重度(アナフィラキシー:血圧急降下、意識喪失、呼吸停止)
即座にエピネフリン(アドレナリン)注射が必要です。通常、太ももに0.3〜0.5mgを筋肉注射。5〜15分ごとに必要に応じて再投与します。この薬は、血圧を上げ、気管を広げ、命を守る唯一の決定的な治療薬です。
その後、酸素、静脈注射による液体補充、気管挿管などの対応を並行して行います。エピネフリンは、抗ヒスタミン薬やステロイドだけでは効かない重篤な反応にしか使われません。誤って使わないと、患者の命が失われる可能性があります。
再発を防ぐには?予防策と対策
一度過敏反応を起こした患者は、同じ薬を再投与すると、再発リスクが非常に高くなります。そのため、予防策が重要です。
- 予防投与:パクリタキセルやドセタキセルなどの高リスク薬では、投与30分前にデキサメタゾン(20mg)、ジフェンヒドラミン(50mg)、ファモチジン(20mg)を静脈注射します。これにより、反応の頻度を半分以下に減らすことができます。
- 投与速度の調整:過去に反応があった場合、次回はゆっくりと薬を注入します。1時間かけて投与するように変更することもあります。
- 薬の変更:重度の反応を起こした場合は、同じグループの薬を避けて、別の化学療法薬に切り替えます。
- 脱感作療法:薬をやめると治療が困難な場合、少しずつ量を増やして体を慣らす「脱感作療法」が可能です。これは、病院で2〜12時間かけて慎重に行われます。
患者自身ができること
化学療法を受ける患者は、自分自身の体の変化に敏感になることが命を守ります。
- 「何か変だ」と感じたら、すぐに看護師に伝える
- 過去に薬のアレルギーがあったら、必ず医療チームに伝える
- 投与後に「かゆみ」「息苦しさ」「めまい」が起きたら、翌日でも病院に連絡する
- エピネフリン自己注射の使用方法を家族に教える(重度の反応リスクがある場合)
医療チームは、反応を防ぐための準備をしています。でも、その準備が生かされるのは、患者が「異変」を早めに知らせたときです。
緊急キットは必ず準備されている
日本を含む先進国では、化学療法を行う病院やクリニックでは、必ず「アナフィラキシー緊急キット」が常備されています。中には:
- エピネフリン(1:1,000)注射剤
- 抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン)
- ステロイド(デキサメタゾン)
- 酸素マスクと鼻腔酸素投与装置
- 気管挿管用具
これらは、投与室のすぐ隣、または看護師の手の届く場所に常設されています。誰かが「反応が出た」と叫んだ瞬間、10秒以内に使い始めることが求められます。
化学療法で初めての反応は、必ず重いですか?
いいえ、初めての反応でも軽い症状(かゆみや軽い発疹)であることが多いです。しかし、軽い反応でも「次回はもっと重くなる可能性」があるため、絶対に無視してはいけません。軽い反応を放置すると、次回の投与でアナフィラキシーに進展するリスクが高まります。
エピネフリンは誰でも使えるのですか?
はい。エピネフリン注射は、医師や看護師だけでなく、訓練を受けたスタッフや家族でも使用できます。投与方法は非常にシンプルで、太ももに注射するだけです。緊急キットには使い方の図解がついており、慌てても操作できます。遅らせると命に関わるため、迷わず使います。
反応を起こした薬は、一生使えないのですか?
重度のアナフィラキシーを起こした場合は、原則として同じ薬は再投与しません。しかし、代替薬がない場合や、治療が不可欠な場合は、脱感作療法で再投与を試みることがあります。これは、病院で数時間かけてゆっくりと薬の量を増やして、体を慣らす方法です。自宅では絶対に行わないでください。
予防薬を飲んでいれば、反応は絶対に起きませんか?
いいえ、予防薬はリスクを減らすだけで、完全に防ぐことはできません。たとえば、パクリタキセルの予防投与をしても、約5〜10%の患者で軽い反応が起こる可能性があります。そのため、予防薬を飲んでも、投与中は常に監視が必要です。
化学療法の反応と、花粉症や食物アレルギーは同じですか?
メカニズムは似ていますが、薬物過敏反応はより急激で、予測が難しいです。花粉症やピーナッツアレルギーは、特定の物質に反応しますが、化学療法薬は、体が「今までにない反応」を起こすことがあります。そのため、過去にアレルギーがあったからといって、化学療法でも反応するとは限りません。逆に、アレルギーのない人でも、化学療法で初めて反応を起こすことがあります。