薬物による好酸球性全身症状症(DRESS):重要な概要
- 三浦 梨沙
- 26 2月 2026
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DRESS 診断スコア計算機
DRESS(薬物誘発好酸球性全身症状症)の診断には、国際的に使われているRegiSCARスコアリングシステムが用いられます。 8つの項目を評価し、点数を合計することで診断の可能性を判断します。 5点以上で「確定」、3〜4点で「可能性あり」とされます。
診断結果
DRESS(Drug Reaction with Eosinophilia and Systemic Symptoms)は、薬物によって引き起こされる深刻な全身性過敏反応で、皮膚症状だけでなく、内臓器官の炎症や血液異常を伴います。この状態は、発症までに2〜8週間の遅延があるため、診断が非常に難しく、多くの場合、ウイルス性の発疹やアレルギーと誤診されます。DRESSは10%の致死率を持つ医療緊急事態であり、早期発見と即時対応が生死を分けます。
どのような症状が出るのか
DRESSの特徴的な症状は、3つ以上が同時に現れることです。まず、広範囲にわたる赤い斑状の発疹(モビルフォーム発疹)が顔や上半身から始まり、数日以内に体の80〜90%に広がります。この発疹はかゆみを伴うこともありますが、必ずしもそうではありません。次に、38.5℃以上の高熱がほぼすべての患者に見られます。さらに、首やわきの下などのリンパ節が腫れる(リンパ節腫大)ことも典型的です。
血液検査では、好酸球が1,500個/μL以上に増加するのが重要な指標です。正常値は500個/μL以下なので、この数値の上昇は体が異常な反応を起こしている証拠です。また、異型リンパ球も増加し、肝機能検査ではALT(GPT)が300 IU/L以上に急上昇することがよくあります。場合によっては1,000 IU/Lを超えることもあります。
内臓への影響も深刻です。肝臓が最もよく影響を受け、77.6%の患者で肝炎が起こります。腎臓(14.3%)、肺(9.3%)、心臓(8.3%)、膵臓(5.5%)にも炎症が及ぶことがあります。顔の腫れ(顔面浮腫)は68%、唇の乾燥やひび割れは52%の患者で見られますが、口や目、性器の粘膜が広く剥がれる( Stevens-Johnson症候群のような症状)は稀で、15〜20%程度です。
どの薬が原因になりやすいか
DRESSを引き起こす薬はいくつかのカテゴリーに分かれます。最も頻度が高いのは、抗てんかん薬(カルバマゼピン、フェニトイン、ラモトリジンなど)で、全体の24%を占めます。次に、痛風治療薬のアロプリノールが28%と最多です。これは、HLA-B*58:01という遺伝子を持つ人に特にリスクが高いことが分かっています。台湾ではこの遺伝子検査を処方前に義務化しており、DRESSの発生率を80%も下げています。
抗生物質(特にsulfonamide系やベタラクタム系)、抗HIV薬、一部の抗炎症薬や抗うつ薬も原因になります。特に、ラモトリジン(抗てんかん薬)やアロプリノールは、日本でも近年、DRESSの原因として注目されています。これらの薬を初めて服用してから2〜6週間経ってから症状が出ることが多いので、患者自身が「最近、新しい薬を飲み始めた」という点を医師に伝えることが診断の鍵になります。
診断の難しさと正しい方法
DRESSは「ウイルス性の風邪」や「薬疹」などと間違われることが非常に多いです。日本では、一般の医師の38%しかDRESSの診断基準を正しく理解していません。一方、大学病院の皮膚科医では89%が正しく診断できます。この差が、診断までの平均遅れを18.7日にもしています。
正確な診断には、RegiSCARスコアリングシステムが国際的に使われています。これは、発疹、発熱、リンパ節腫大、好酸球増多、臓器障害、薬物との関連性、ウイルス再活性化の有無など、8つの項目を点数化して判断します。点数が5点以上で「確定」、3〜4点で「可能性あり」となります。また、最近では、HHV-6(ヒトヘルペスウイルス6型)の再活性化が60〜80%の患者で確認されており、これがDRESSの特徴的な病態の一つとされています。
2023年1月には、RegiSCARの診断基準が更新され、ウイルス検査を加えることで感度が80%から92%に向上しました。さらに、2023年3月には、米国FDAが最初の即時HLA-B*58:01検査キット(Verigene System)を承認しました。これにより、アロプリノールを処方する前に、1日中に遺伝子検査が可能になり、DRESSの予防が格段に進みました。
治療と予後
まず、最も重要なのは、原因となった薬を直ちに中止することです。症状が出てから24時間以内に中止しないと、臓器障害が悪化しやすくなります。
治療の中心は、ステロイド(プレドニゾロン)です。症状が重い場合は、入院して静脈注射で高用量のステロイドを投与します。軽症でも、経口ステロイドを数ヶ月にわたって徐々に減らす必要があります。通常、3〜6ヶ月かけて減量し、途中で再発することもあります。
ランダム化比較試験(RCT)はほとんどありませんが、観察研究では、診断後72時間以内にステロイドを開始した患者の60〜70%が改善しました。一方、治療が遅れた患者の多くは、肝不全、腎不全、肺線維症、自己免疫疾患(甲状腺炎や関節炎)などの長期合併症に陥ります。
例えば、カルバマゼピンによるDRESSで22日間放置された患者が、腎機能が永久的に低下したケースが報告されています。一方、バコマイシンでDRESSを起こした患者は、8週間入院し、6ヶ月かけてステロイドを減量した後、10ヶ月で看護師として復職した事例もあります。
医療現場の課題と未来
日本では、DRESSの認識が十分でなく、多くの患者が救急外来を3〜5回も回ってやっと診断されます。DRESS症候群財団の調査では、患者の65%が「主治医がDRESSを知らなかった」と答えています。
一方で、台湾や韓国では、アロプリノール処方前にHLA-B*58:01検査を義務化しており、発生率が劇的に下がっています。アメリカでも、メディケア(CMS)はDRESSの入院費用が1例平均28,500ドルと高額であることを認めていますが、全国的なスクリーニング制度はまだ整っていません。
将来の方向性は、遺伝子検査を薬物処方の「前段階」に組み込むことです。イギリスの研究者によれば、今後5年以内に、アロプリノール、カルバマゼピン、ラモトリジンなどの高リスク薬を処方する前に、すべての患者にHLA検査を行うようになるでしょう。これにより、DRESSの発生率は60〜70%減ると予測されています。
患者が気をつけるべきこと
- 新しい薬を飲み始めてから2〜8週間以内に発疹や発熱があれば、DRESSを疑う
- 「薬疹だから様子を見る」ではなく、すぐに医師に相談する
- 特にアロプリノール、カルバマゼピン、ラモトリジンを服用しているなら、遺伝子検査の可能性を医師に尋ねる
- 症状が治まっても、ステロイドの減量は医師の指示に従って慎重に行う
- 再発のリスクがあるため、DRESSを起こした薬は一生使用禁止
DRESSは「運が悪かった」と片付けられる病気ではありません。科学的根拠に基づいた予防と早期対応で、命を救える病気です。医師も、患者も、この病気の存在と危険性を正しく理解することが、今後の医療の鍵になります。
DRESS症候群はどのくらい珍しい病気ですか?
DRESSは1万人に1〜10人の割合で発生します。特定の高リスク薬(例:アロプリノール、カルバマゼピン)を服用する人の約1,000人に1人が発症するとされています。アジア地域では発症率が高く、特に日本や台湾ではカルバマゼピンの使用が多いため、より多くの症例が報告されています。
DRESSとステーブンス・ジョンソン症候群(SJS)の違いは?
SJSは発症が早く、1〜2週間で粘膜が広く剥がれ、皮膚が大面積で剥離します。一方、DRESSは2〜8週間の遅延があり、粘膜症状は軽く、主に発熱、好酸球増多、内臓障害が特徴です。SJSの致死率は25〜35%ですが、DRESSは約10%で、よりゆっくりと進行するため、治療の余地があります。
DRESSを起こした薬は、今後も使えますか?
絶対に使えません。DRESSを起こした薬は、再投与すると必ず再発し、より重篤な症状になる可能性があります。患者は、その薬の名前をリストにして常に持ち歩き、医療機関に伝える必要があります。また、同様の構造を持つ薬(例:他の抗てんかん薬)も避けるべきです。
DRESSは治った後も長期的な影響がありますか?
はい、多くの患者が回復した後も、自己免疫疾患(甲状腺機能低下症、関節炎、肝炎など)を発症するリスクが高くなります。特に、肝臓や腎臓に深刻なダメージを受けた場合、機能が完全に回復しないこともあります。そのため、回復後も定期的な血液検査と専門医のフォローアップが必須です。
遺伝子検査(HLA)は日本でも受けられますか?
はい、一部の大学病院や大規模病院では、アロプリノールやカルバマゼピンを処方する前にHLA-B*58:01やHLA-A*31:01の検査を提供しています。ただし、保険適用は限定的で、自費検査になることが多いです。今後、日本でも全国的なスクリーニング制度が整備される見込みです。