国際サプライチェーン:外国製造への依存と薬品不足の実態

alt

国際サプライチェーンは、薬品が世界中でどう作られ、届くかを決める命綱だ。でも、その仕組みは今、大きな危機に直面している。2024年、アメリカで発生したインスリンの品薄は、日本でも処方遅れを引き起こした。日本では、抗がん剤や抗菌薬、高血圧薬の多くが中国やインドで製造されている。これらの国で生産が止まれば、日本国内の病院は在庫切れに陥る。これは偶然ではない。これは設計されたシステムの弱点だ。

薬品の7割は海外で作られている

日本が輸入する医薬品の約70%は、中国やインドで製造されている。特に活性成分(API)と呼ばれる薬の核心部分は、中国が世界の85%を占める。インドはその後を追い、最終的な錠剤や注射剤のパッケージングを担う。この構造は、コスト削減という目的で20年以上かけて築かれた。中国の労働コストはアメリカの1/5、インドは1/8だ。企業は、これに魅力を感じて生産を移した。

だが、この「安さ」には大きな代償が隠れている。2020年以降、コロナ禍、ウクライナ戦争、台湾海峡の緊張、インドの輸出規制--これら一連の出来事が、薬品の供給を一気に揺るがした。2024年、アメリカのFDAは、抗生物質「セフタジジム」の供給停止を発表。その原因は、中国の工場で発生した水質汚染だった。日本では、この薬の代替品が手に入らず、入院患者の治療が遅れた事例が複数報告された。

供給網の脆弱さは数字で明らか

2025年、国際貿易協会の調査によると、製薬企業の94%が「原材料調達」を最も脆弱な部分と認識している。中国からアメリカへの輸送時間は、2019年と比べて50%増加。日本からの輸入品も同様の遅延を経験している。在庫を減らす「ジャストインタイム」方式は、コストを抑える一方で、リスクを高めた。2022年までは、薬品メーカーは平均して1か月分の在庫しか保有していなかった。今は、その数字が1.5か月にまで上がった。それでも足りない。

さらに、2025年現在、製薬業界の33%が「国際貿易を管理する人材が足りない」と嘆いている。専門家が減り、経験者が引退した後、後継者が育っていない。この人材不足は、サプライチェーンの監視ミスや、規制違反の見逃しを招いている。ある製薬会社の担当者は、中国の工場から送られてきた薬の検査報告書に、数値の不一致があったのに気づけず、3週間後に製品が回収されたと語った。

代替策は存在するが、コストは跳ね上がる

この問題に対する解決策は、いくつかある。一つは「近接調達」--つまり、アメリカやメキシコ、東南アジアの国々に生産拠点を分散させること。メキシコへの生産移転は、太平洋を渡る船便より30〜40%輸送コストを削減できる。しかし、労働コストは中国の2倍以上になる。もう一つは「多極化調達」--一つの国に頼らず、3〜4カ国に分けて生産させる戦略だ。

ある大手製薬会社は、抗ウイルス薬の活性成分を中国、インド、韓国、ドイツの4カ所で製造するように変更した。結果、2024年の供給中断日数は、以前の120日から45日まで減った。だが、その代償は大きかった。システムの再構築に2年、投資額は23億円に上った。その上、各工場の品質管理基準を統一するのに、ブロックチェーンによる追跡システムを導入。IT投資は30%増加した。

夜の病室で点滴が空になり、アジアの警告地帯が浮かぶ中、医師が危機を静かに見つめる。

日本は「安全」を犠牲にして「安さ」を選んだ

日本は、薬品の価格を抑えるために、海外製造に依存する道を選んだ。医療費の抑制という目的は正しかった。だが、その選択は、国民の健康を守るという基本的な責任を軽視した。2025年、厚生労働省は、国内の主要薬品53種について、供給リスクを評価するリストを作成した。その中で、12種が「非常に高いリスク」、21種が「高いリスク」と評価された。この中には、糖尿病治療薬、てんかん薬、心臓病の救命薬が含まれている。

一方、欧州連合(EU)は、2023年から「戦略的医薬品自主性」政策を打ち出し、自国内での生産を強化している。ドイツとフランスは、活性成分の国内生産比率を2030年までに50%まで引き上げると宣言した。日本は、そのような政策をまだ持っていない。政府は「市場原理」を優先し、企業に任せてきた。

未来は「多極化」か「再本土化」か

2025年、世界の製造業の78%が、供給網の多極化を進めている。だが、完全に「日本に戻す」ことは現実的ではない。アメリカの労働コストは中国の4.8倍だ。日本はさらに高い。だから、現実的な道は「分散」だ。

今、日本で動き始めているのは、東南アジアとの連携だ。ベトナム、タイ、マレーシアの工場に、日本企業が技術支援を提供し、品質管理基準を共有する取り組みが広がっている。ある製薬会社は、ベトナムの工場にAIを導入し、製品の異常検知精度を99.1%まで高めた。このモデルは、中国の工場よりも安全で、インドよりもコストが低い。

また、政府が支援する「マイクロファクトリー」の導入も進んでいる。小さな工場で、少量の高価な薬を国内で生産する。これにより、緊急時の対応が格段に速くなる。だが、初期投資は従来の工場の1.4倍かかる。だから、まずは高リスク薬品に限定して導入している。

日本の小さな高度工場でAIロボットが救命薬を製造し、世界の分散供給路が hologram で浮かぶ。

あなたが気づかない「薬の供給危機」

薬品不足は、病院の棚が空になるという形で現れる。だが、それだけではない。在庫が足りないと、医師は代替薬を処方する。副作用が強い薬、効果が弱い薬、飲み合わせが複雑な薬--これらは、患者の生活の質を下げ、入院リスクを高める。ある糖尿病患者は、インスリンが手に入らず、2か月間、食事制限を厳しくした結果、血糖値が乱れて入院した。彼女は「薬が届かない」のではなく、「システムが壊れた」ことを経験した。

2025年、国際貿易協会の調査では、56%の企業が「製品の提供を減らしたり、新製品の発売を延期している」と答えた。これは、薬だけではない。医療機器、診断キット、ワクチンの供給にも影響している。日本は、この「見えない危機」に、まだ本気で向き合っていない。

何ができる?個人レベルでできること

個人が直接できることは限られている。だが、少なくとも「知る」ことはできる。薬のパッケージに「製造国」が書かれているか、確認してみよう。多くの薬は、中国やインド製だ。それが悪いというわけではない。ただ、それが「唯一の選択肢」であることに、気づく必要がある。

医療機関や薬局に、「薬の供給状況を公開してほしい」と声を上げることも、一歩だ。2025年、ある地方病院が、在庫状況をホームページに掲載し始めた。患者は、その情報をもとに、他の病院に移動したり、代替薬をリクエストしたりできるようになった。この小さな変化が、大きなシステムの改善につながる。

薬は、単なる商品ではない。命をつなぐ道具だ。国際サプライチェーンが、その道具をどう作っているか--その仕組みを理解し、問い続けることが、次の危機を防ぐ第一歩だ。

なぜ日本の薬は海外で作られているの?

日本は1990年代から、製薬コストを抑えるために、中国やインドの工場に生産を委託してきました。これらの国では労働コストが安く、化学合成技術も高度です。日本の企業は、価格競争に勝つために、海外生産を選びました。結果として、現在、日本で使われる薬の7割以上が海外で製造されています。

供給が止まると、具体的に何が起こるの?

薬が手に入らなくなると、病院は代替薬を使わざるを得なくなります。代替薬は効果が弱かったり、副作用が強かったりします。糖尿病や高血圧の薬が不足すれば、患者の健康状態が悪化し、入院が増えます。緊急時に必要な薬がなければ、命に関わる事態にもなりかねません。

日本は海外依存から脱却できるの?

完全に「日本製」に戻すのは現実的ではありません。しかし、リスクを減らすことは可能です。たとえば、高リスク薬品の一部を国内や東南アジアで生産する「多極化」戦略を進めるべきです。マイクロファクトリー(小規模高度工場)や、AIを使った品質管理を活用すれば、コストを抑えつつ安全性を高められます。

政府は何をすべきか?

政府は、製薬業界の供給網を「国家のインフラ」として位置づけるべきです。在庫の最低限基準を法律で定め、海外依存のリスクを評価する公的リストを作成する必要があります。また、国内での生産を支援する補助金や、技術移転の支援も必要です。欧州のように、「医薬品の自立」を戦略目標にすべきです。

今後、薬品不足は減るのか?

2025年現在、世界の製造業の78%が供給網を多極化しています。中国の生産停止や海運遅延の影響で、企業は「一つの国に頼らない」方向に動いています。日本もこの流れに乗り遅れれば、今後も繰り返し薬品不足に見舞われます。しかし、動き始めれば、3〜5年で改善の兆しが見え始めます。